297 変わり行くもの 7
マリコたちの同行が決まった後、執務室に場所を移して改めて対策会議が行われた。メンバーはバルトとアドレーの組にタリア母子、神格研究会の二人、それにマリコとミランダである。
「準備する物が……」
「装備の手入れと修繕が……」
「補充メンバーのシフトを……」
洞窟行きの話と宿の話が同時に行われて少々ややこしいが、バルト組とアドレー組が持ち帰った物の処理――スライム液の入った樽の輸送など――もあるので仕方がない。それらをタリアとエイブラム、そして意外なことにブランディーヌがテキパキと状況を整理していく。じきに各人がすべきことがきれいに分けられた。
(実はできる女だったんですね、ブランディーヌさん)
マリコは目を丸くしたが、考えてみればブランディーヌは神格研究会暫定支部のナンバーツーである。無能なはずがない。これまでは単にブランディーヌが暴走しがちな分野と不得意な分野を見ていただけだったのだろうとマリコは納得した。
結果、マリコがしなければならないのは、自分が探検に出るための準備とバルト組女性陣の装備――メイド服である――の修繕、それと宿の仕事の引き継ぎである。ただ、仕事については今の話の中でほとんどサニアに連絡を終えているので問題は無い。昼から後は準備と修繕に当てていいとタリアの許可をもらった。
「じゃあ、急な話になっちまうけど、明日出発ってことでいいかい? あんたたち」
会議の結果、算段は立った。岩の魔物がアドレーたちを追って洞窟から出ている可能性がある以上、なるべく早く確認、対応する必要があるという事情もある。タリアの言葉に一同は頷いた。
◇
昼食時まで宿の仕事をしたマリコは明日に向けての準備を始めた。マリコほど一からではないが、似たような立場のミランダもセットである。二人してまずは雑貨屋に出掛けた。ミランダにも聞きながら必要な物を買い足し、先日注文してあった物を受け取る。
「え、天幕だけまだなんですか」
「ああ、ちょうど在庫が切れてたらしくてね。これだけ後になるらしいんだよ」
雑貨屋のダニー――エリーの父である――が申し訳無さそうに言う。小物やちょっとした家具なら作ってしまうダニーはテントも作れないことはない。だが、需要や材料――防水加工した布など――の問題から普段は他の街から仕入れている。仮に今から作るとしても材料と何より時間が無さ過ぎた。
マリコがどうしたものかと思っていると、自分の物を物色していたミランダがやってきた。大体の物は持っていると言っていたミランダはこの機に調理用具を充実させるつもりのようで、包丁とまな板を手にしている。
「マリコ殿が構わぬのであれば私の天幕に来られればいい」
「いいんですか?」
「さほどの大きさではない故、少々手狭になるやも知れぬが二人くらいは寝られるはずだ」
二、三のやりとりの後、マリコはミランダの世話になることにした。狭くなるのは申し訳ないなと思ったのだが仕方がない。もっとも、宿に戻ったマリコは驚くことになるだろう。ミランダの持っているテントはマリコが注文した物の倍以上大きいのである。
次に食料品店とパン屋をはしごして食材を仕入れる。アイテムボックスの容量に任せて結構な量を買い込んだ。フィクションによくあるものと違ってこの世界のアイテムボックスは中でも普通に時間が進むので、日持ちのしない物は保存の併用が必須となる。
宿に戻ったマリコは、最後に厨房へ寄ってサニアからウイスキーを数本分けてもらった。もちろん全部飲むつもりなのではない。消毒に料理にと蒸留酒は使い道が多い。それが分かっているのでさすがにサニアも何も言わなかった。
◇
大き目の損傷はパーツごと取替え、小さな傷はかけはぎ修復する。自室に籠ったマリコは三人分のメイド服の修理に勤しんでいた。ミランダも自分の部屋で準備を進めているはずである。かけはぎなどこれまでやったことはなかったが裁縫レベル二十は伊達ではなく、特に苦労することもなく作業は進んでいく。
作業の終わりが見え始めたところで扉がノックされた。どうぞという返事に入ってきたのはカリーネである。普段着らしいスカート姿になっていた。
「もうじきできあがりますよ。あ、カリーネさんのはもうできてます」
「もうなの!? え、これ、すごいわね。よく見ないと直したのが分からないわ。お裁縫まで得意なのねえ」
「ええと、まあ」
手渡された自分の分を手にして、カリーネはしきりに感心する。正に今直しているメイド服を作るために完全習得しましたと言うのも憚られて、マリコは言葉を濁した。
しばらく縫い目に見入っていたカリーネは、何かを思い出したようにぽんと手を打った。
「そうそう。今来たのはこれのことじゃなかったのよ。マリコさんに準備しておいて欲しい物があるの。さっきのアドレーさんたちの話にあったんだけどね……」
カリーネはそう言うと事情を説明し始める。簡単に言うと、マリコが持っている装備を借りることになるかもしれないから一応持っていっておいてほしいということだった。そんな物が要るのかとも思ったマリコだったが、話を聞き終えてなるほどと納得する。
「分かりました。用意しておきます」
「ありがとう。よろしくお願いするわね」
マリコが承諾するとカリーネは礼を言って戻って行った。マリコにとっては全く手間ではない。アイテムストレージに入っていた物は今も丸ごとそこに入ったままだし、後から手に入れた物も押入れに置いてある着替えの一部以外は全てアイテムボックスに入れてあるのだ。今のところ容量に問題は無さそうなので全部持ち歩いていることになる。
(しかし、探検者も何かと大変ですね。っと、うん、ちゃんと入ってますね)
カリーネを見送ったマリコは今の話を思い出してそう思い、頼まれた物を持っていることを確認してから裁縫に戻った。
(これが終わったら、次はアドレーさんたちですね)
いろいろ前フリ回?
誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。




