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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第五章 メイド(仮)さんの探検
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294 変わり行くもの 4

「どうかなさいましたか、姫様」


「……ああ。いや、何でもない。うむ、頑張って、くれ」


 固まったミランダに、アドレーは片腕を大きく広げながら問いかける。一度は失われたしっぽが戻った嬉しさとミランダが加護を得たという喜びで、どうやら本来の調子が戻ってきたようである。対照的に何となく歯切れの悪いミランダの様子にマリコは首を捻った。


 やがて一応話を終えた一行は執務室を出て食堂へと戻った。すると、アドレーたちが戻ったという話が伝わったのだろう、大分人数を増した面々からある種の期待の籠った目がアドレーとミランダに向けられる。その視線に後押しされるように、アドレーが身体ごとミランダの方に振り返った。


「では姫様、勝負です!」


 握った拳を顔の前に掲げてアドレーが宣言すると、食堂内に「おおお」とざわめきが広がった。言わずと知れた、この二人の腕相撲勝負である。里にはこれを楽しみにしている者が結構いるようで、カウンター前のいつのも場所には手回し良くスペースが作られ、試合場となる小テーブルが据えられていた。毎度審判役を引き受けるサニアもフロアに出てきている。


「い、いや、アドレー。貴殿、今修復(リペア)を受けたばかりであろう。身体に影響は無いのか」


「なに、しっぽでありますれば、腕相撲への影響はないものと。他には少々かすり傷を負った程度。洞窟探検を経て成長した私は今日こそ貴女を超える」


「そう簡単に成長など……、成長など、してたまるものか」


 腕まくりを始めたアドレーに反射的に言い返しかけたミランダは、途中でまた少し微妙な顔を見せながら、それでも肩をグルグルと回してテーブルの前に立った。身体を傾け、同じように正面で構えるアドレーと手を組み合ったところで、その上にサニアの手が置かれる。


「二人ともいい? 行くわよ。用意……始め!」


 掛け声と共にサニアの手が離され、二人の腕に力が籠る。一瞬、三分の一ほどアドレーが押し込んだ。しかし、ミランダの腕はそこでピタリと止まる。そこからじわりじわりとアドレーを押し戻し、そのままゆっくりとその手の甲をテーブルに押し付けた。


「くっ、これでもまだ及ばないというのか……」


 ガクリと膝をつくアドレーを前に、ミランダは握り締めた自分の拳に目を向けて深く息を吐いた。


 ◇


「何かありましたか? 眉間にシワが寄ってますよ」


「何!?」


 厨房に戻ってジャガイモの皮むきを再開したミランダに、マリコは自分の眉間を指差しながら聞いた。ミランダは包丁とむきかけのジャガイモを置くと、急いで額に手をやる。そこに言われた通りの縦ジワができているのを認めると、そのままグイグイと揉み解してふうと息を吐いた。


「ああ、何でもない……こともないのかもしれぬ」


「それはさっきの腕相撲と何か関係があるんですか?」


「ぬっ!? な、何故そのようなことを申される」


「ええと、さっきの勝負なんですが、少しその……、力を加減していたように見えたので」


 女神の加護を得てからのこの数日でミランダの筋力がどれだけ上がったか、マリコはメニュー上での数字を見て知っている。もう一方のアドレーも少しは上がっているかもしれないが、ミランダとは比べるまでもないだろう。それにもかかわらず、二人の勝負は前の時とさほど変わらないどころか、一見いい勝負になっているようにさえ見えたのである。


「……やはりマリコ殿の目は誤魔化せぬか。いや、加減したというより少し迷ってしまったのだ」


「迷った?」


「どう言えばいいものか……」


 そう言ったミランダはもう一度額に手を当てて揉みながら黙り込んだ。目を閉じて顔を上げ、少しの間何事かを考えた後、改めてマリコを見る。


「ほら、女神様とマリコ殿のおかげで、私は今実感できるレベルで強くなってきているであろう?」


「ええと、そうですね」


「それ自体はとても得難く、有難いことだと思っている。しかしだな、先ほどアドレーと話をしていて、自分が何かズルをしているように感じてしまったのだ」


「ズル、ですか」


 マリコはミランダの言ったことについて考える。確かにメニューを通じての自分のステータス確認やスキル取得に関する操作は、誰にでもできるものではない。普通の人がもしこのことを知れば、ズルだと言い出す可能性は十分にある。


「それに……」


「それに?」


「このままだとアドレーが私に追いついたり勝利したりなどありえないではないか」


「え」


 マリコは思わず、ミランダを見直した。両手の指先同士を合わせて口元に当てたその顔はうっすらと朱を帯びている。しかし、マリコの視線に気付くとあわてて手を下ろした。


「い、いや、勘違いしないでいただきたい。私は彼奴が勝てる見込みの無い勝負に挑んでいる今の有り様が少し不公平ではないかと思っただけで、別に彼奴に勝ってほしいなどとは……」


「あ、おかえりなさい」


 ミランダが捲くし立てる怪しげなセリフは、宿の入口に向かって放たれた誰かの言葉に遮られた。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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