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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第四章 メイド(仮)さんのお仕事
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286 ミランダとの秘密 9

 昨夜、ミランダは(アックス)(スピア)のスキルを手に入れた。当然ながら現在のスキルレベルは一で、得られたステータスの補正値もわずかなものである。少なくとも数レベルは上がらなければはっきり体感できるほどの差にはならないだろう。そのレベルを上げるために、まずは規定の修行をこなさなければならない。


 もっとも、いわゆる趣味レベル帯の修行内容は比較的簡単なものが多く、(アックス)などの近接武器スキルでは「素振り何十回」や「実際に何回使ってみる」といった数項目であることがほとんどである。スキルによっては一日で終わることも――少なくともゲームでは――珍しくなかった。


 夜が明けて起き出したミランダは早速それを試してみようと思ったのだが、ここで一つ問題が発生した。先の(アックス)で言えば、素振りは斧で行わなければならない。当然(スピア)なら槍でということになる。しかし、これまで剣一辺倒だったミランダは斧も槍も持っていなかったのである。


 もちろんミランダは自分用のそれらを買うつもりではいる。だが、里にある鍛冶屋では槍など売っておらず、斧は精々手斧があるかどうかというところだろう。それらの大物は鍛冶屋に注文して買い付けてきてもらうか、他の街へ行く探検者(エクスプローラー)に頼むか、さもなくば自分で転移門を通って買いに行くかである。いずれにしても今日のことにはならない。


 タリアに頼めば本人の持ち物か宿屋の非常用備品を借りられるだろうが、こんな早朝から押し掛けるわけにもいかない。そこで思い出したのが、先日遅れて届いた――ということになっている――マリコの荷物のことだった。各種の武器や防具も持っているとはマリコ本人から聞いていたので、今日のところはそれを借りようと思ったのである。


 いつもの様子見がてらマリコの部屋を訪れると幸いマリコはもう目を覚ましていて、武器の方も貸してもらえることになった。ただし、ミランダもある程度予想していたことだが、マリコが持っていた複数の斧や槍はいずれもかなりの業物(わざもの)である。初心者が練習に使うには少々もったいないなと思いながら、ミランダは取り回しのよさそうな物を選んだ。


「では、ありがたくお借りいたす。マリコ殿は無理をされぬよう」


 片手斧と短槍を丁寧にアイテムボックスに仕舞ったミランダは、そう言って立ち上がった。今から一人で朝練に向かうのである。


「はい、ミランダさんもお気をつけて。ではまた後ほど」


 こちらも腰を上げてミランダを見送るマリコはと言うと、体調不良というか身体の周期の都合で今日の朝練はお休みである。状態回復リカバーコンディションのおかげで症状は緩和されているものの、激しい運動を避けておくに越したことは無い。


(あんまり目立たないといいんですけど)


 ミランダを送り出したマリコは腕を組んで「無理かな」と首を傾げた。ミランダがこれまでほとんど触ったこともなかった斧や槍を使い始めるというだけでも、結構珍しがられるだろう。


 それに加えてメニューの問題もある。ミランダが自分で開いて見られないのではさすがに困るだろうということで、一部のページの操作をミランダにもできるようにしたのだった。一つはステータスのページ、もう一つはスキルのページである。アイテムストレージと同じように、ミランダがチョーカーに触れながら念ずればそれぞれのウィンドウがショートカットで開くように、マリコの管理権限で変更した。


 スキルのレベルアップなどはまだできないが閲覧だけはできる。それは傍目にはアイテムボックスを使っているようにしか見えないだろう。だが、マリコ自身もかつてゲームで経験したが、レベルアップを目指して修行を繰り返していると、途中で残り回数などが気になるものである。恐らくミランダも時折ウィンドウを開くことになるだろう。荷物を出し入れしていないのにやたらとアイテムボックスを開け閉めしているとなれば、やはり「何をしてるんだろう」と思う人が出ても不思議ではない。


(その辺りの誤魔化し方も何か考えておいた方がいいかもしれませんね)


 そう考えながら、マリコはチョーカーに指を当てた。仮想キーボードの改善の話もある。今の時間帯ならマリコの不在に気付く者はいないだろう。


(その他!)


 女神に教わったように特定のページを選んで開く。マリコの指が中空をなぞると、早朝の部屋からその姿が消え去った。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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