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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第四章 メイド(仮)さんのお仕事
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283 ミランダとの秘密 6

 仕事に戻ってしばらくするとサニアが帰ってきた。何人かにどうだったと聞かれて、特に問題も無く順調だと答えている。マリコはそのサニアの、マリコがここに来た時よりわずかに目立つようになったお腹に目を向けた。それはゆったり目のワンピースを内側からわずかに押し上げていた。


 羨望、不安、当惑。いくつもの感情が入り混じってマリコの胸に渦巻く。いつか自分もと思いながらも、いつの間にかごく自然にそう考えている自分が不思議でもあった。前世の、否、記憶の元を考えれば、もっと拒絶反応的なものがあっても良さそうなところである。


(それだけ今の身体に慣れてきたということなんでしょうかね。……二回目も来たことですし)


 マリコは身体の現状を思い出してふうと息を吐き出した。先ほど、ベッドに転がったミランダの手を引いて起こした時に始まってしまったのである。腰痛、倦怠感、頭痛、腹痛。それらが一度に襲ってきたようにマリコには感じられた。しかし、幸いな事に前回ほどひどくは痛まず、マリコは何とかうずくまったり倒れ込んだりせずに済んだ。


 二度目ということで少しは慣れたということなのか、来るという自覚が先にあったからなのか、サニアにちょくちょく飲まされ続けているセンブリ味の薬が効いたのか、それとも前の時に状態回復リカバーコンディションで正常化した体内のホルモンバランスがまだそれほど崩れていなかったのか。


 理由はともかく何とか動けそうなのはありがたかった。マリコはミランダに断ってまずは状態回復リカバーコンディションを使い、次いでトイレに向かって装備を整え直す。朝ミランダに言った通り治癒(ヒール)は使わなかったが、状態回復リカバーコンディションを使った段階で症状はほとんど改善したので、やはり胎内の傷自体の痛みは元々それほど重いものではないのだろう。


 一方のミランダはマリコがいきなり顔色を変えたことには驚いたが、状況を理解するとさすがにそれ以上駄々をこねることはなく、マリコの手当が終わるのを待って一緒に食堂へと戻った。それでも女神から授かった加護である。気になる事は気になるようで「マリコ殿の体調が許すなら後ほど続きを」とは言っていた。


(まあ、何にせよまだ気が早い話ですね。大体、一人では……)


「マリコ」


「あっ! ええと、はい」


 サニアに目を向けたまま考えを巡らせていたマリコを、タリアの声が現実に引き戻した。


「若女将が戻ったからね。私は部屋に戻るけど、あんたの方はどんな具合だい?」


「っと、……大丈夫です」


 夕食の仕込みはまだ始まったばかりだが、命の日の昨日と違って月の日、つまり平日の今日は人数が居る。マリコが抜けても夕食が遅れるほどの影響は出ない。タリアとマリコはサニアたちに簡単な引き継ぎをして一緒に執務室へと向かった。


 ◇


「……ということで、ミランダさんが加護を受けられました」


 しばらくタリアの書類仕事を手伝って一段落した後、ソファに場所を移してマリコはミランダに起きた事を話した。もちろん全部が全部というわけではない。そこに至った経緯や女神の間に関することなど、タリアにも話すわけにはいかない部分はそれなりにある。そういったところをぼかしたり飛ばしたりする説明だったが、それについてはタリアは何も言わず、突っ込んで聞いてくることもなかった。


「ふん、月と風の女神様の加護を。それであの浮かれ様かい」


(傾倒している神様の加護を、それも多分直接受け取ったんなら無理もないねえ)


 口振りとは違ってタリアはむしろ楽しそうな笑みを浮かべる。マリコの飛び飛びの説明でも、そこから読み取れることは多い。自分の経験してきたことよりさらにややこしそうなことを今まさに経験している者を目の前にして、タリアは薄っすらとした同情の伴う愉快さを隠そうとはしなかった。


 加護と一口に言っても実際にはいろいろな形や内容であったことを、神格研究会は伝えている。しかしマリコは「加護についてミランダに教える」と言った。それはミランダが得た加護がマリコと同等か、少なくとも同系統であることを意味する。そうでなくては何かを教えることなどできはしないだろう。


(恐らく違う世界から加護を与えられて連れて来られたマリコと、同等の加護を得たミランダかい。ミランダが補佐役か助手、いや、そう決め付けたもんでもないかねえ)


 自らの経験と他の加護を得た者たちについての話から、与えられる加護の強さは神々の意図するやらせたい事の困難さあるいは重要度に比例するのだろうとタリアは考えていた。そして、同時期に同等の加護を得た者たちは同じ目的に向かわされるのではないかとも。それこそかつてのナザールとタリア自身がそうであったように。


(どっちにしても、この娘たちが向かう先にあるのは、まだ見つかっていない転移門程度(・・)じゃないってことさね)


 タリアが見る限り、マリコの与えられた加護はタリアの得たものよりずっと強いのだ。一旦話し終え、淹れ直したお茶をふうふうやりながらすすっているマリコに目を向けて、タリアは思った。


「証ももらったっていうんなら、周りにバレるのは時間の問題だね。まあ、その時はこっちでもなんとかするさね。何かあったらまた言っといで」


「よろしくお願いします」


 首にチョーカーでは、一緒に風呂に入ったら一発で見つかるだろう。頭を下げるマリコに手を振りながら、タリアは二人の進む道をいかにして開いておくかを考え始めた。あえて邪魔をしようとするものはそうそういないだろうが、意図せずとも結果的に道を塞ぐ形になることはあるものだ。


(この里でそんなことはさせやしないよ)


 タリアはごく気軽にそう決める。それはかつて、自分がしてもらったことに過ぎない。

女の子なマリコと男前なタリアさん(笑)。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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