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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第四章 メイド(仮)さんのお仕事
278/502

275 マリコの秘密 8

「すまぬ。助かった」


 幸いなことに女神は意識を失うようなことはなく、少しの間マリコに支えられていただけでじきに自分の足で立った。やや顔色が悪いようにも見えるが、マリコが見た限り異常はそれくらいである。


「大丈夫ですか?」


「ああ、ちょっとクラッときて足がもつれただけじゃ」


「クラッとって……」


「なに、おぬしらでいうところの魔力切れのようなものじゃ」


「魔力切れ、ですか」


「ああ、()の者に渡したチョーカー(あれ)に結構力を込めたでの」


 女神が言うには、加護にもレベルのような強弱があるらしい。与える側の神や受ける本人の目的、加護の内容によって込める力に差ができるのだと女神は言う。


 多くの場合、目的が達せられた時に加護の証の品――今回で言えばチョーカー――は役目を終えて消え失せる。それで加護の力が全て失われるわけではなく、そうなることで少なくとも加護を与えた神の願いが果たされたことが本人や周囲の者にはっきり分かるようになっているのだそうだ。


 マリコがタリアに聞いた話によると、ナザールと一緒になって宿を構えたところで二人共加護の証の品が消えたらしい。それで何か弱くなったりできなくなったりすることはなかったそうだ。ただ、それ以降は導かれるように何かをしなければならなくなることがなくなったとタリアは言っていた。


「あれにはおぬしの物とほぼ同じ能力を盛り込んであるのじゃ」


「私のと同じ……」


 女神がマリコに求めているものが何なのかはよく分からないし、マリコの与えられた「加護」が将来的に消えるような性質のものかどうかもはっきりしない。しかし、好きなように生きろと言っている以上、短期間で果たされるような内容ではないのだろう。それとほぼ同じということは、女神がミランダに求めているものもマリコに対するものに近いのではないかとマリコは思った。


「そこでおぬしの出番なんじゃが」


「は?」


()の者、即ちミランダのシステムの管理権限をおぬしに任せる」


「はあ!?」


「自分の時と同じように『ミランダのメニュー』と念じることで()の者のメニューが開けるようになっておるはずじゃ」


「ちょ、待って待って。待ってください」


 いきなりとんでもないことを言い出す女神に、マリコはあわててストップを掛ける。


「なんじゃ」


「なんだってミランダさんのメニューを私が開けないといけないんですか」


「そうしておかねば()の者のシステム管理ができぬではないか」


 何を分かりきった事をという顔で女神はマリコの顔を見上げる。


「いやいや。ですからなんで私がミランダさんのシステム管理をしなくちゃいけないんですかって聞いてるんです!」


 ゲームならという話になるが、メニューをいじれるということはアイテムストレージに入っている持ち物にも触れるし、スキルの習得やそのレベルアップもできるということである。もちろんゲームでは他者のメニューを操作することなどできなかった。そんなことができたら一大事である。


「メニューの構造はほぼかのゲームを踏襲(とうしゅう)した形になっておる。どこをどういじれば何が起こるか、おぬしならよく知っておるじゃろう?」


「それは、まあ」


「システムやスキルについて何も知らぬ()の者に、突然それらを全部任せたらどういうことになると思うかの?」


 優先順位や効率を考えずに取れるスキルを端から取ってしまい、使い勝手が悪くなって困るというのはゲーム初心者にありがちなミスである。例えば攻撃系魔法を習得して使おうとする場合、魔力を増やす効果のあるスキルや消費効率が上がるスキルを取らずに攻撃系魔法のスキルレベルだけを上げてしまうと、一発撃つと魔力が底をついて回復するまでしばらく何もできないなどということにもなりかねない。


 ゲームを始めたばかりの頃の自分たちが正にそれで、実際魔力不足が原因で何度も「死んだ」。ゲームならそれでも構わないところはあるが、これは現実である。死んでもいいから試してみようというわけにもいかない。


 近接戦闘も魔法も既にある程度使うミランダがそこまでひどいことになるとも思えなかったが、可能性が全くないとも言えないのが微妙である。操作そのもののミスというのもあり得る。そこまででなくても慣れている者が手伝ってやった方が間違いなく早く強くなれるのは事実だろう。


「なんとなく分かったようじゃの」


 黙って考え込んだマリコに、少々得意気な様子で女神は言う。


「それ故、先ほど()の者にはアイテムストレージの使い方のみを伝授したのじゃ。別に本人に黙っておぬしの一存でやれとは言わぬ。どうしたいか相談しながらやっていって、慣れてくれば徐々に権限を渡してやればよいのじゃ。加護の先輩として後輩を導いてやってくれぬか」


「先輩……、後輩……」


 マリコの心情はひとまず置いてミランダの事を考えた場合、女神の言うやり方は確かに有効なのである。その上、女神が口にした先輩という響きはマリコの郷愁を揺さ振った。知り合ったばかりの頃は真理子には「先輩」と呼ばれていたのである。実際にはミランダの方が宿では先輩なので、ミランダがマリコを先輩と呼ぶことはないだろうが。


 最終的にはミランダ本人に権限を渡せばいいということもあって、マリコは結局女神の提案を受け入れた。


「さて、立ち話も飽きてきたわ。本当におぬしの用も済ませねばならぬし、そろそろここを元に戻す事にするかの」


「ああ、そういえばこれ、どうやって片付けたんですか。不思議だったんですよ」


「ふむ、そうじゃろうそうじゃろう」


 女神は得意気に胸を張る。その元通り元気なその様子を見ながらに、先ほど倒れ掛かったのは本当にたまたまだったのだろうかとマリコは思った。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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