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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第四章 メイド(仮)さんのお仕事
273/502

270 マリコの秘密 3

「みっ、みっ、みっ」


「み?」


「みらっ、みらっ、みらっ!」


「みら? 一体何の事じゃ。落ち着かんか、馬鹿者!」


「あいた!」


 ベッドから飛び上がった女神のジャンピング手刀がビシリとマリコの頭上に落ちた。いつもなら叩かれたホワイトブリムのシワを気にするところだが、さすがにマリコとしても今はそれどころではない。頭を押さえながらも女神を見返した。


「見られた! 見られたんです! ミランダさんに!」


「見られた? 一体何の話じゃ」


「ええと、それが……」


 マリコはここへと転移する現場をミランダに目撃されてしまった顛末(てんまつ)をかいつまんで話した。


「……押入れに潜んでおったじゃと? そのくらいおぬしの能力なら苦もなく感じ取れるじゃろうが。何をやっておった」


「いや、それなんですけど……」


 マリコは普段は察知能力の感度を下げていることと、周囲の人たちの行動を何でも察知してしまうと逆に困ることもあるのだということを女神に説明した。話を聞いた女神は思い当たることがあるのか、ああと納得したように頷いた後ううむと額に手を当てる。


「確かに何でもかんでも知ればよいというわけではないがの」


「そうでしょう?」


「じゃが、それとこれとは別の話じゃ。見られたというのはおぬしの油断じゃろうが」


「う、それは」


 言われてしまえばその通りではあるので、マリコとしては反論のしようもない。


「……まあ、今おぬしを責めても仕方がない。それは後にするとして、どう対処するかが先じゃな。放っておくわけにはいかんじゃろうしの」


「はい」


 ミランダが見たのは目の前で突然マリコが消えたということだけで、消えた原因や行き先まで分かっているわけではないはずである。しかし、物入れに隠れていたところからすると、マリコに対して何か疑問を持っていたということは間違いないだろう。


(ミランダさんは一体何を……あ)


 考えていたマリコは、この数日の間にミランダと交わした会話を思い出した。


――マリコ殿は昨夜、どこかへ出掛けられたか?


 そんな問いかけが何度かあった記憶がある。その度にトイレだなんだと答えていた気がするが、これはマリコが女神の部屋を訪れた時ばかりではなかったか。おそらくミランダはマリコが夜毎に消えていることに気付いていたのだろう。どこに行くのかを――尾行か何かして――確かめるために物入れに潜んだのだとマリコは思い至った。


(その目の前で消えちゃったんですか)


 歩いて部屋を出るならまだしも消えたのである。これは言い訳に困るなとマリコは頭を抱えた。


「見られた相手はミランダじゃと言うたの?」


「え? ええ」


 マリコは女神の声に顔を上げる。すると女神はあごに手を当てて何かを考えているようだった。


「ふむ。念のために聞くが、ミランダとはアニマの国からやってきておった娘じゃな?」


「はい。国長(くにおさ)の娘さんだって聞きました」


「……少々早い気もするが、不信感を募らせるよりはマシかの」


 女神は小声でそうつぶやくと顔を上げてマリコを見た。


「マリコよ。おぬし、一度戻って彼の者を連れて参れ」


「え!? 連れて、ってここにですか!?」


「そうじゃ」


「い、いや、でも……見られたのは部屋から消える瞬間だけですよ?」


 そこだけ見ても行き先まで分かるわけではない。女神はそれをわざわざバラそうと言うのだ。


「だから、その消えるのが問題なのじゃ。よいか。そんな瞬間移動のような技をおぬしは聞いた事があるかの? ないはずじゃ。何故なら人の身でそんなことができるのは転移門を使う時だけだからじゃ」


「転移門を使う時だけ?」


 確かにマリコは今のところ、瞬間移動できるようなスキルや現象は転移門と女神の部屋との行き来以外に聞いた事がなかった。ゲームにはそうした転移用アイテムもあったが、それらはアイテムストレージから消えたアイテムに含まれる。つまり、この世界にはないということなのだろう。


「そうじゃ。それがこの世界の常識じゃ。故におぬしはとんでもなく常識はずれなところを見られたことになる」


「いや、でも、目にも止まらないくらい速く動いた、とか……」


「心得のない者相手ならそれもある程度は通じるじゃろうがの。どうじゃ、その点彼の者は」


「う」


 女神に言い返されてマリコは言葉に詰まった。確かにサニアやアリアなら誤魔化せるかもしれないが、今のミランダであれば全力で動くマリコであっても目で追うくらいはできるだろう。それに第一、閉め切った室内では動くのはともかく止まる方に問題が残る。アニメの忍者のような慣性を無視した動きは無理なのだ。


「じゃがの、この常識には例外がある。そもそも人の枠にはおらぬ者とそうした者からそのような技を授けられた場合じゃ」


「例外……」


 これらが何を指すのかはマリコにもすぐに分かった。神と神に技を授けられた者。つまり、この場においては女神とマリコのことである。


「いっそ神であると名乗ってみても面白いかもしれぬの」


「いやですよ、そんなの」


 マリコは即答した。ただでさえ聖女だの天使だのと呼ばれかかっているのだ。そんなシャレにならない自称は御免蒙る。


「だとすれば実際通り、後者であるとしか言えぬの。じゃが、それじゃと結局どこへ行っていたという話になろうが」


「ああ、そう、なりますね」


 どこか別のそれらしい行き先を設定できれば誤魔化せるかもしれないが、そんな都合のいいところをマリコは知らない。


「じゃから彼の者を納得させるのであれば、ここに連れてくるのが一番手っ取り早いのじゃ」


「なるほど」


「しかしの。おぬしが戻ってただ連れて来ればよいわけではない。こちらにも準備が要るでな。そこでじゃ」


 女神はマリコに指示を出し始めた。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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