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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第一章 世界の始まり
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027 世界の始まり 24

「でもまあ、そんなこたあ私にはどうでもいいんだよ」


「は?」


 てっきり「だから神様の御意思に沿って」といった台詞が続くのだと思って聞いていたマリコは、どうでもいいと言い出したタリアに一瞬目が点になった。


「そりゃ確かに神様の助けがあったからここまで来られた、っていうところはあると思うんだよ。その辺については感謝してるさね。けどね、それだけじゃあ何もできなかったって私は思うんだよ」


「何もできなかった?」


「ああ、そうさね。たとえ神様のご加護があっても、それだけじゃだめなんだよ。私がここに来るまでに、いろんな人にいろんな事をしてもらった。教えられたり、助けられたり、叱られたりね。神様の助けってのもその一つさね。そのいろいろがあったから、今私はここにいると思うんだよ」


――ひとっでおおきゅうなった人やどこっちゃおらんけん


(いろんな人にいろんな事を……)


 マリコの頭にも何人かの顔が浮かんだ。タリアはそんなマリコの顔を見てまた口を開いた。


「そりゃあ、元々の全てを創ったのが神様なんだから、言おうとすりゃ全部神様のおかげって言えないこたあないよ。けどね、私に何かしてくれたいろんな人の一つ一つは、神様がいちいちそうさせたんじゃなくて、その人が考えてしてくれた事なんだと思うんだよ。だからね、私は初めその恩を返したいって思ったんだよ」


「恩返し、ですか」


「そう、恩返し。私にいろいろしてくれた人達に何か返したいってね。でも、それをやろうとすると困ったことになっちまってね」


「困ったこと……」


「ああ、気が付いちまったんだよ。受けちまった恩ってものは、本人に返そうったって返せるもんじゃないんだってことにね。こっちが恩義に感じてても、向こうにしてみりゃ大抵何でもない当たり前のことをしただけだってんで、返すとか言ったら困られるか怒られるかのどっちかになっちまうんでね。大体、もう死んじまってていない人もいるんだ、そんなのどうやったって無理ってもんだろ」


「それはまあ、無理な話、ですね」


(ばあちゃん、母さん、それに……)


「だからね、自分が当たり前にしてもらった事を私も当たり前にしようって、そう思ったのさ」


 また何人かの顔を思い出しかけたマリコは、タリアに意識を向け直した。


「隣の門の宿屋のご亭主や女将さんは、それこそ本当の親みたいに私やうちの人になんやかやと世話を焼いてくれたもんさ。それが当たり前だって顔をしてね。だから私もそうするだけさね。さすがに誰でも彼でもには無理なんでね、私の目が届くとこに来た相手にだけだがね。それこそ神様じゃないんだから。


 だから私は、ナザール門(ここ)にやってきた奴を放っておいてやったりしないんだよ。それが門の番人(ゲートキーパー)の責任でもあることだしねえ。まあ、そっから先どうするかは私がどうこうできるこっちゃないがね。人間、生きてりゃそのうち、大なり小なり一人でやらなきゃならない事はあるもんだからね」


――いつ自分でせんならんようなるか分からんけん


(ばあちゃん……)


 子供の頃、勉強や家事に始まり、そんなの要るのかというような事まで、様々な事を叩き込んでくれた祖母がいつも言っていた台詞が、マリコの脳裏に浮かんだ。


「あんたはどうしてって聞いたけど、私の理由なんかそんなもんだよ。自分がもらったもんを次の相手に渡してるだけさね。おかげさんで、この分ならひ孫にも何かしてやれそうだがね」


――神さんもひ孫の顔までは見してくれんげなのう


「ばあちゃん……」


 穏やかに話すタリアの顔に祖母の顔が重なり、もうすっかり記憶の奥底に埋まっていたはずの言葉が、まるでついさっき聞いたかのように甦ってマリコの胸を突いた。


「誰がばあちゃんだよ。私をばあちゃんって呼んでいいのは、ってあんた何を泣いてるんだい!?」


「え゛っ」


 言われて声を上げたマリコは、自分の声が既にまともな声になっていないことに気が付いて驚いた。手を顔に持っていくと、頬が濡れているのが分かった。


(なんで泣いてるんだ、私。一体何年前のことで……)


 考えようとしても、胸の奥から感情の渦が次々と湧き上がってきて、マリコはその先を考えることができなかった。そんな様子のマリコを見たタリアは、立ち上がるとテーブルを回り込んでマリコの隣に腰を下ろした。


「どうしたってんだい。今の話に泣くとこなんかなかったろうに」


「い、いえ゛、いえ゛っ。わだっ、わだっしのっ、そっそぼがっ、むがじっ、おなじ、ごどを……」


 穏やかに聞いてくるタリアにマリコは首を振って、しゃくり上げながらなんとか言葉をしぼり出した。手で目を押さえてみたものの、溢れてくる涙は止まってくれなかった。


「あんたのおばあさんがかい?そうだったのかい。そりゃ光栄なことだね」


「わ、わだじ、ひまっご、見ぜで、あげられっなっ」


「ああ、今は無理にしゃべらなくていいから。ね?」


「いえ゛っ、はい゛っ。…う゛う゛っ…」


 タリアに背中をさすられながら、マリコは手で顔を覆ってほとんど無意識に感情を押さえ込もうとした。いっそ大声を上げて泣いてしまった方があっさりと泣き止めたのかも知れない。押さえ込もうとすればするほど昂りは収まってくれず、マリコの嗚咽は続いた。


 やがて、感情の波に押し流されるようにマリコの意識は薄らいでいった。


 ◇


 マリコの声が止んで少し後、タリアは背中をさする手をようやく止めた。


「泣きながら眠っちまったかい。まあ、無理もないかね」


 マリコをそっとソファに横たえながら、タリアはつぶやいた。


(さて、神様はこの娘に一体何をさせたくてこんなとこに連れて来たのかねえ)


「とりあえず、ここに寝かせとくわけにもいかないね」


 タリアは眠るマリコの顔を見て涙に濡れた頬をひと撫ですると、立ち上がって扉へと向かった。

分かりにくそうな部分の標準語訳

ひとっでおおきゅうなった人やどこっちゃおらんけん

=一人で大きくなった人などどこにもいないから

いつ自分でせんならんようなるか分からんけん

=いつ自分でしなければならなくなるか分からないから

神さんもひ孫の顔までは見してくれんげなのう

=神様もひ孫の顔までは見せてくれないようだ

という感じでしょうか。


お待たせ致しました。とりあえず、妙な部分の手直しと一話分です。

続きは近いうちになんとか……できるといいのですが。


誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

2014/12/25 「019」~「026」を構成変更。

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