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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第四章 メイド(仮)さんのお仕事
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263 探検と冒険 6

 女神の部屋、その白っぽい石の床の上に音も無くマリコが姿を現した。この出現位置は決まっているようで、いつも女神のベッドから幾分後ろへ下がった所へ出る。マリコがその白い大きなベッドの方に目を向けると、その天蓋は銀色モードとなってベッドに影を落としていた。


「女神様? あれ? もう寝ちゃってるんですか」


 ベッドに歩み寄って見下ろすと、思った通りそこには穏やかな寝息を立てる女神が横たわっていた。何らかの方法で温度も調節されているらしいここは暑くも寒くもなく、女神は薄手の上掛けだけをお腹に掛けて白いシーツの海にたゆたっている。上掛けの端からは白い素足と銀色のしっぽがはみ出していた。


 向こう側に顔を向けて眠る女神の頭から伸びる猫耳と合わせて、それらはいつもマリコの心を惹きつけて止まない。無意識にそちらに手が伸びそうになっていたマリコは、ハッと気付いてその手を下ろした。敏感なそれらを撫で回すことがどのような感覚をもたらすのか、つい一昨日その身に叩き込まれたばかりである。


(ううっ……)


 甦ってくるその感触と記憶に、下ろした手を再び上げて今度は我が身を抱き締めた。半ば反射的に内股にキュッと力が入る。ふううと深く息を吐いてやや落ち着いたマリコは腕を解き、改めて女神の部屋を見回した。今日は寝落ちしたわけではないようでベッド周りは片付けられており、食器類が放置されてもいない。


 さすがに女神も身体を使っての作業に慣れてきたようで、実際にマリコが手を出す部分は始めに比べると減ってきていた。マリコは流しや風呂場をのぞいて回り、掃除洗濯の具合をチェックして抜けているところをフォローしておく程度である。今夜はほとんどやることがなかった。


 探検者(エクスプローラー)や魔物について聞いてみようかと思っていたマリコだったが、寝ているのを起こしてまでというほど急ぐわけではない。それに魔物の事はともかく、マリコが何をするかということについては女神の返事は大体予想が付いた。おそらく女神はやりたいようにやれと言うだろう。


「話はまた今度ですね。おやすみなさい、女神様」


 眠っている女神に目を向けてそう小さく声を掛けたマリコは、メニューを開くと自分の部屋に帰っていった。


「む? マリコ殿、もう戻られたのか」


 ミランダはつぶやいた。突然消えたマリコの気配は、それほど時間が経たないうちにまた唐突に現れたのである。


 ミランダは今、自分の部屋にいる。マリコがいなくなっているのを確かめた後、下着姿のままであることに気が付いたミランダはさすがにそのままではいられなかった。自室に戻って寝巻きであるパジャマに着替え、さてもう一度マリコの部屋にいくべきかどうかと考えていたところで再びマリコの気配を感じたのである。


 マリコが戻る前ならともかく、戻ってきてしまった今となっては改めて部屋を訪ねるには遅い時間である。話を聞きに行ったとしても、マリコにまた手洗いだとか言われてしまえばそれを否定し切るのは難しいだろう。口でマリコに勝てる気がしないのである。


 ミランダはどうするのがいいかを考えた。一番確実なのは「現場を押える」ことであろう。そのためにはどうするべきか。夜にマリコが消えるのは毎晩というわけではないが、二日続けてということもないわけではないはずだった。


「ふむ、明日の晩にでももう一度、であろうか」


 明日だめなら明後日も試してみればいいだけのことだろう。一応の結論を出したミランダはもう一度マリコの部屋の方に視線を走らせた後、ベッドへと潜り込んだ。


 ◇


 滑らかな肌に温かな手がそっと触れてくる。触れられた手の平は指の一本一本が分かるほどに熱く、その手が動いていった後にはまるで焼き付けたかのように熱が残った。撫でられるにつれて熱い帯が身体中を覆っていく。その心地よさに、その手を取ってさらに心地よいところへ導こうとする。


 しかし、その手はするりと逃れて、勝手気ままに身体のあちこちの温度を上げていく。予期せぬところに熱を与えられて声を上げる。そこには歓びと不満が両方含まれていた。業を煮やして手ではなくその大元、身体を捕まえようと両手を広げる。二本の腕でできた(あぎと)が閉じて逞しい身体を捕まえたと思った瞬間、身体中に熱を感じてたまらず両腕の力が抜けた。


 抱き締めたと同時に抱き締められていた。ならもう捕まえる必要はない。捕まったことで捕まえたのだから。我が半身よ、最早離れる事(あた)わず。融け合って一つになればいい。今なら全てを包み込んであげられる。


 快感と幸福感に包まれたまま閉じていた目を開いて――。


 ◇


 マリコの目に映ったのは白いシーツの波とその向こうに立ち上がる白い壁だった。早朝の薄明かりの中、ゆっくりと顔を上げてみればいつもの自分のベッドの上である。熱い手の平の持ち主などおらず、半身どころか切身も刺身もない。


「……夢を見ても一人」


 頭に浮かんだよく分からないフレーズを口に出す。途端に今見ていたものの記憶が甦ってきて、マリコは枕ごと頭を抱えた。


「何ですか何ですか、今のは!? 相手相手相手、おとっ、おとっ、おとっ」


 意味不明なことを――さすがに枕を口に当てて――喚きながらゴロゴロとベッドの上を転がった。ひとしきり転がり回った後、はああああと肺ごと出そうなため息を吐く。なまじ幸せな感覚だっただけに落差もひどい。その上、何やら既視感まである。まだしもマシだと思えるのは、相手の顔を確認する前に目が覚めたことだろうか。


――今なら全てを包み込んであげられる


(何を包み込むって言うんですか! うわあん)


 しばらくして、密かな決意を胸に現れたミランダは、シーツに(くる)まってどんよりと座り込んでいるマリコを発見した。

夢って結構動揺させてくれますよね。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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