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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第一章 世界の始まり
25/502

025 世界の始まり 22

「ふう」


 二冊の本のページをめくり終えたマリコは息をついた。それぞれ数十ページほどのその本は、薄めの和紙のような紙に木版か何かで印刷したものを重ねて糸で綴じた簡素なものだった。横書きの文字も大きめでいくつか挿絵も入っていて、むしろ絵本のようだ。


「これが、神様と転移門……」


 本に書かれた七柱の神様の話は、ゲームの中の神話とは全く違う内容だった。マリコにしてみれば、突っ込みどころは山ほどある。現実の記憶に照らして考えると、各地の神話や伝説に恒星や衛星といった科学的要素を混ぜ込んで作った新手のおとぎ話か、それこそ何か別のゲームの設定か何かにしか思えない。しかし、これがこの世界の神話だと言う。マリコは何と口に出していいのか分からなかった。


(風の女神様というのが、ハーウェイ様と似てると言えば似ている。でもあの人には猫耳なんかついていなかったし、ゲームで会う時に見た体格もマリコとあんまり変わらなかったから小柄というわけでもない。それにこの、ゲームとは少し違うけどものすごくゲームっぽい転移門の話。この童話かおとぎ話みたいなのん気な話が本当に史実なのか。ヒューマンにエルフにドワーフにアニマ? ゲームと同じような物があるかと思えば、この神話やアニマの部族みたいに全然違うところもあって、似てるけどどこか根本的なところで違うような気もする。現実やゲームと全く無関係とも思えないし、本当にここは一体何なんだ)


「そう、それがこの世界を創った七柱の神様さね。まあ、本当にそのとおりに創ったのかどうかは私らにゃ分からないんだがね」


 マリコが読み終えるまでの間、黙ってお茶を飲んでいたタリアが、マリコのつぶやきに答えた。


「えっ?」


「そりゃ、その頃にはまだ人間なんかいないんだから、実際に見た奴なんかいないってことだよ。ただまあ、転移門が使えるようになる前から、四つの部族のそれぞれでほとんど同じ話が伝わってたらしいからね。神様も違うって言ってこないし、本当のことだろうってことになってる」


「え、違うって言ってこないって、神様が何か言ってくるんですか!?」


「ん? ああ、さっきも言っただろ。そういう話がたまにあるって」


「ああ」


(神様が実際にいて、時々ちょっかい、ああいや接触してくるって。もし、日本の神話やギリシア神話の中に一般人として紛れ込んだらこんな感じなんだろうか。ゲームのハーウェイ様はそんなことしてなかったよな)


 ゲームでの女神ハーウェイ様の役どころは、基本的にゲーム世界への案内役であって、例の闇に浮かぶステージ以外で出会うことはなかった。他には公式HPでの説明キャラとして、デフォルメされたイラストが各所に描かれていた程度だった。ゲーム上の都合としても、冒険の現場にいちいち神様が現れたのでは冒険者がいる意味がなくなってしまうので、当然といえば当然である。


「だから時々、神様の誰かに会った、何か言われた、加護をもらった、っていう人がいるんだよ。そういう人達の話をまとめて、正しい神話を皆に伝えようっていうのが、神格研究会の連中が主にやってることなんだよ」


「では、この始めの神様の容姿、のようなところが虫食いになってるのは……」


「そう、まだはっきりしてないところは書いてないんだよ。ちゃんと会った人がいないか、会っても神様に言われて黙ってるとかね」


「なるほど」


(現在進行形で神話が書き足されていってるのか。すごいな。日本で今、本当に神様に会ったとか言ったらどうなることやら)


――もし、本当に神様に会えたら


 一瞬、マリコの胸に以前聞いた言葉が浮かんだ。


「で、風の女神様のところが詳しいのは、会ったっていう話がそれだけ多いからなんだよ」


「月にいる、っていうことになってるのにですか」


 タリアとの話が続き、浮かんだ言葉はまた記憶の底に沈んでいった。


「神々の中で一番足が速いからとか、いつも月から見てて面白そうなことを見つけたらやってくるとか、他の神々の伝令役みたいなことをやってるとか、研究会の連中はいろんな説を言い合ってるがね」


「面白そうって。ああ、興味深く眺めているのなら、それもあり得るんですね」


「そういうこったね。逆に命の女神様には、会ったっていう話が全然ないらしいよ。女神様だってことと、白と黒ってのも、四つの部族に伝わってた話に初めから入ってたらしいしね」


「では、他の神様達の容姿で埋まってるところというのは……」


「神格研究会の連中がいろんな話をかき集めた成果、ってことだね。まあ、全部の神々の色のところと、風の女神様と命の女神様が女神様だっていうのは最初から話にあったって言うんだけどね」


「命の女神様の白と黒というのは髪と瞳の色ではないんですか?」


「他の神々には、見た、会ったっていう話が少なくとも一つはあるから髪と瞳って書いてあるらしいんだけど、命の女神様はそれもないから書けないんだとさ。研究会の中では白い髪に黒い瞳っていう説が主流らしいけど、逆だっていう説やら、髪も瞳も白と黒半々っていう説、風の女神様みたいな耳としっぽがあってそれが白と黒の虎縞なんだっていう説もあるんだとさ」


「白と黒の虎縞……」


 マリコの頭に、白と黒に色を変えたミランダの姿が浮かんだ。


「まあどれにせよ、白と黒っていう色は他の神々と同じで、命の女神様の役割を象徴してるんだろう、とは言われてるね」


「役割。ああ、火の女神様とかはそのままの色な感じですね。でも、風の女神様の銀と金、命の女神様の白と黒というのは何でしょう」


「銀と金は風と月、なんだそうだよ」


「ああなるほど、銀色は風で金色の猫の瞳が月なんですか」


「で、白と黒は生と死さね。昼と夜って言い方をする人もいるがね」


「命の女神様なのに、生と死、なんですか」


「そりゃそうさ。命の女神様が吹き込んだ命は移ろっていくもの、つまり絶対に命じゃなくなるものなんだよ。命が命じゃなくなったら、そりゃ本人は死ぬってことさね。だから、命の女神様は生と同時に死を司るってことで、白と黒は生と死のことだっていう話になるんだそうだよ」


「生と死で白と黒、昼と夜で白と黒、ですか」


(命を与えるのも終わらせるのも命の女神様。死神も兼ねてるってことか)


 マリコの頭に今度は、白黒のミランダが死神の大鎌(サイズ)を構える姿が浮かんだ。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

2014/12/25 「019」~「026」を構成変更。

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