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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第四章 メイド(仮)さんのお仕事
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246 八つ当たり 11

「とりあえず、こんなものかの」


 顔をあちらへ傾けこちらへ傾けして、鏡越しながらも自分の頭に生えた猫耳をいろんな角度で眺めていたマリコは、女神の声にふと我に返った。顔を後ろに向けると、いつの間にか前向きに座っていた女神と目が合う。またにゃあにゃあ言わされるのは敵わないのでマリコは黙って見返した。


「黙っておってはうまく修正できたか分からんではないか。何か話してみよ」


「……」


「ふむ、ではその語尾のまま送り返してやることに……」


「くっ、卑怯にゃ。……あっ?」


 どんな声にもくっついていた「にゃ」が少し変化していた。


「思わず漏れたような、言葉としての意味の無さそうな声には付かないようにしてみたのじゃ。他にも細々直しておいたわ」


「おー、すごいですにゃ。おっ、本当に大分自然になってますにゃ」


 さっきまであった取って付けたような感じがかなり減っていて、マリコはつい素直に感心してしまった。女神はそうじゃろうそうじゃろうとマリコの背中でふんぞり返る。


「実験が終わったのならもう解いてくださいにゃ」


「何を言うか。これはついでじゃと言うたであろう」


「これ以上何をするつもりですかにゃ」


「決まっておろうが。目には目を、歯には歯を。ならば、わしの耳としっぽを撫で回した者には何を返してやればよいかの?」


 女神はそう言うとマリコに見せつけるように両手をワキワキさせた。


「ま、まさか撫で返すためにわざわざ生やしたって言うんですかにゃ」


「当たり前じゃ。同じ物を返してやらねば、自分が一体どんなことをしたのかおぬしに分からぬであろうが」


「はあにゃ」


 ものすごく重要なことのように言う女神にマリコは呆れた。人によって差があるとはいえ耳は耳である。ミランダや女神は耳が敏感な性質(たち)なのだろうと思っていた。対して自分はそんなに耳が弱点というわけではない。大丈夫だろうと高をくくっていたのである。


 しかし、それも女神が手を動かし始めるまでだった。


「ひゃあっ!」


「ほう、確かにここの毛はわしの方が少々長いようじゃの」


「い、今のは何をしたんですかにゃ!?」


「耳の後ろを撫でただけじゃ。おぬしがやったようにの。ほれ」


「にゃあっ!」


 ついっと撫で上げられただけにも関わらず、勝手に声が上がった。猫耳は人の耳より遥かに敏感だったのである。マリコは自分がそれを甘く見ていたことを悟った。


(こ、これはダメなやつです)


「ここをコリコリしたら気持ちいいんじゃよ、無論知っておるの?」


 耳の付け根に指を当てられる感触に、マリコはびくりと肩を震わせる。


「ちょ、待ってにゃ、待っ」


「無論、待たぬ」


「にゃあああ!」


 神罰が下され始めた。首を振って逃れようとしても無駄である。耳たぶを摘まれて引き戻され、さらにクニクニナデナデハムハムが追加される。にゃあにゃあ鳴きながらこらえきれずに膝をバタバタさせるマリコの様子は先ほどの焼き直しを見ているかのようだった。


「ほれ、次はお待ちかねの中じゃ。嬉しかろう?」


「な、中はイヤにゃ! ひゃ! ぬ、抜いてくださいにゃ!」


「確かにここの毛は可愛らしいの。ほれほれ」


「ひぃん」


 柔らかい毛が生え揃った耳の中を女神の指がゆっくりと出入りし、敏感さ故にその状態では首を振ることさえできず、マリコはただ鳴き声を上げるばかりだった。


 ようやく女神が猫耳から手を離すころには、マリコはぐったりとしてはあはあと肩で息を吐いていた。それに構わず、女神はくるりと後ろに向き直る。マリコの身体がビクリと震えた。


「も、もしかしてにゃ……」


「何を言うか。今からこそ本番じゃぞ」


「いやにゃあああ!」


 マリコはじたばたと暴れたがそんなことは気にも掛けず、女神はマリコのしっぽに手を伸ばす。生えたばかりでろくに動かし方も分からないマリコに逃れる術はなく、あっと言う間に捕まえられた。


「ひやあ!」


(これは、耳よりもっと……)


 思っていた以上の感覚に鋭さに、マリコはつかまれただけで声を上げた。個人差はあるものの、腋の下や脇腹、膝の裏、内股などは触れられるとくすぐったいと感じることが多い。これらは普段頻繁に外界と接触することの少ない部分、即ち刺激に慣れていない部分ということである。


 では、マリコのしっぽはどうか。今できたばかりのマリコのしっぽは初めて何かに触れられているのである。刺激に不慣れどころでの話ではなかった。


 耳と同様に、マリコのしっぽもミランダのそれとよく似た長さや太さをしていた。色違いの姉妹品のようである。それをマリコがしたのと同じように丁寧に丁寧に撫でられ、さすられ、摘まれて、マリコは時折身体をエビのように跳ねさせながらひたすら鳴いた。


 考えてみれば、しっぽとは背骨の延長線上にあるものである。さすがに脊椎こそそこまでは繋がっていないが、しっぽと胴体は多数の重要な神経で結ばれている。猫のしっぽを引っ張ってはいけないと言われるのはこれが理由なのだった。


 やがて、これも女神に対してマリコがやったように、しっぽの裏側が先から順に撫でられ始めた。それが徐々に根元へと近付き、ある位置を越えたところで、マリコは腰を大きく跳ね上げてこれまでにない悲鳴を上げた。


「だ、ダメにゃ! そこはダメですにゃ!」


 これまでの、敏感なところを触られているというレベルの生易しい感覚ではなかった。腰というより、下半身全体に電流が流れたような刺激が走り、それが身体の奥へと響いてくる。元々敏感な感覚器官が、さらに皮を()かれて直接刺激されているかのようだった。そこは正にマリコが「ここから先が一番気持ちいい」と女神に向かって言ったところである。


 さすがに一度手を止めた女神がマリコを振り返る。


「ほう、ここはダメかの?」


「ダメにゃ。ダメですにゃ」


 女神を見上げたマリコはふるふると首を振る。


「わしもさっきおぬしにそう言うたの。おぬしは何と答えた?」


 マリコの顔が引きつり、どっと冷や汗が噴き出す。女神は慈愛の笑みを浮かべて言葉を続けた。


「わしも同じ答えを返してやらねばなるまい?」


「だ、ダメ……ダメにゃ」


「いーやーじゃ! それぇ!」


「あああああぁ!」


 女神の手が一気に激しく動き、マリコは刺激と言うより最早衝撃と言った方がふさわしいものの濁流に飲み込まれた。しっぽから発したそれは腹の奥に響き渡り、マリコは身体を跳ね回らせた。内から何かが漏れ出しそうな感覚に膝をこすり合わせる。意識の奥で光がスパークし、やがてあふれ出してマリコを飲み込んだ。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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