236 八つ当たり 1
いきなり戦闘です。残酷描写注意。
「ゴボァ!」
野豚が断末魔と共に口から血の泡を噴き上げた。シーナの突き出した槍が見事に喉元を抉ったのである。槍が引き抜かれると血しぶきが舞い、野豚はそのままどさりと倒れて動かなくなった。後ろにひと飛びしてなんとか返り血をかわしたシーナは身体を支えるように槍の石突きで地面を突くと、盾をはめたままの左手で短めの赤茶色の髪をかき上げてふうと息を吐いた。
すぐ側に立つマリーンは油断無く小剣と盾を構えたまま、水色のポニーテールを揺らして顔だけ後ろを振り返った。数メートル後ろで見守っていたミランダはマリーンに頷き返すと二人の方へ近付いていく。ミランダと一緒にいたマリコも当然それに続いた。
「シーナ、最後の一撃はいい思い切りだったと思う。だが二人共、その前の位置取りなのだが……」
今の戦いについての講評や注意点をミランダが話すのを聞きながら、マリコは密かに欠伸を噛み殺した。ミランダの話が退屈なわけではない。単に少々寝不足なのである。
◇
マリコが恋愛問題をカミルに突きつけられてから二日が経っていた。刈り取られた麦の始末も進んで食堂の体制が普段通りに戻ったということで、今日はかねてからの予定通り野豚狩りに来ているのである。今回のメンバーは普段厨房やフロアにいることが多いシーナと同じく風呂や洗濯、ベッドメイクが主な担当のマリーンにミランダ、マリコの四人だった。
昨日一日の間にあったことと言えば、一つには神格研究会の面子が増えたということがある。何人かが修復が必要な者――怪我人か患者とでもいうべきか――を連れて到着したのだった。怪我人の方は早々にマリコが修復などを使って治療したので、一日二日身体を慣らしてからそれぞれの家に帰るという。
エイブラムの話によると、今回建てる予定の神格研究会支部は先に事務所に当たる部分の完成を急ぐらしい。それは宿舎ができるまでは皆ナザールの宿に住むことを意味する。支部ができたらできたでナザールの里を訪れる者も増えると予想されるので、いずれにしても宿の利用者は増えることになる。人を増やすべきだろうねえとタリアは言っていた。
夜になって今度こそ愚痴ってやろうとマリコは女神の部屋へ行ったのだが、当の女神は酒臭い寝息を吐きながらグーグー眠っていた。前夜マリコが置いていったウイスキーを早速飲んだらしい。一本目が半分ほど減っていた。マリコは明晩来るから起きていてほしいと置き手紙を残して戻った。
その後、ブランディーヌに押し付けられた本の事を思い出して何となくめくり始めたのだが、濡れ場が男同士であることを除けば物語としては意外に面白く、つい最後まで読みきってしまった。その上、わけの分からない夢を見て目が覚めたりしたので睡眠時間がいつもより短くなったのである。
◇
野豚の住む森はここしばらくの間に日常を取り戻したらしく、今日は大野豚が現れたりはしていない。朝食後に里を出てもうじき昼を回ろうかという時間だったが、先ほど倒したのがまだ二頭目である。ミランダはこれが普通で前回が異常だったのだと言う。一応二頭は確保できたので、これまで通りならここで帰っても大丈夫だった。
しかし、今は串焼きのおかげで野豚肉の需要が増えている。今後里に住む人数がさらに増えそうなことを考えればもう一頭、できれば二頭狩っておきたいところである。
「で、次の獲物を見つけた時の対応なのだが」
「はい!」
例によって二人ずつ交代で昼食を摂った後、ミランダの切り出した話にマリーンが手を上げた。ミランダがどうぞという風に頷く。
「私、マリコさんの狩りが見たいです!」
「あー、それはあたしもかな」
マリーンの提案にシーナが乗っかった。ミランダはふむと首を傾けてマリコを見る。
「二人はああ言っているがどうなされる、マリコ殿?」
「ええと……、それで良ければ」
マリコはほんの一瞬だけ考えて頷いた。野豚狩りは四肢に矢を射込んで動きを鈍らせ、その後近接戦でトドメを刺すのがいつものパターンである。シーナとマリーンに経験を積ませるという目的もあって、今日のマリコはまだ足止めの矢を二射しただけだった。体力的には何の問題もない。
その上、今のマリコには何というかストレスのようなものが溜まっていた。恋しているなどと言われた困惑からも抜け出ていないし、里の者たちは何かとバルトの話を持ち出してくる。悪意があって言っているのではないことは分かるし、そうなった原因は自分にもあるので文句も言い辛い。そのことについて愚痴ろうにも女神には二晩続けて肩透かしを食らった。
言ってしまえば捌け口を求めているのだ。マリコは少々好戦的な気分になっていた。そんなものに襲われることになる野豚にはいい迷惑である。
ともあれ、方針は決まった。四人は次の獲物を求めて森の中を歩き出す。一応弓を手にしたシーナとマリーンはエリーたちが着ていたのと同じような白いジャケット姿である。
マリコはいつものロングタイプメイド服で、左腕には中型の盾、腰には小剣を帯びていた。どちらもアイテムストレージにあった物である。バルトに渡した大剣ほどは重くないクレイモアなら背負ってもパイスラッシュするだけで済むことは分かっていたが、野豚狩りには向かないので今日は出番がなさそうだった。
見た目が前回と一番変わっているのがミランダで、腰の刀こそそのままだが真紅のライダースーツからマリコにもらったミニタイプメイド服になっている。短い裾周りの防御をどうするのか気になったマリコが出掛けに聞いたところ、「さすがにマリコ殿のようにはいかぬ故」とちらりとスカートをめくって見せてくれた。
見られても大丈夫なオーバーパンツだというそれが太ももの付け根から下腹までを覆い隠し、確かに下着は見えなくなっている。後ろ側こそしっぽに対応するために浅くなっているものの、柔らかそうな布で作られたそれはマリコにあるものを思い出させた。今でこそフィクションの中でしかお目にかかることはないが、マリコの世代だとまだ現役だったもの。
(どう見てもブルマじゃないですか)
しかも、かつて真理子が穿いていたのと同じ、紺色のブルマだった。
最後にブルマが全部持っていく回(笑)。
誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。




