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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第四章 メイド(仮)さんのお仕事
229/502

226 来たるべき者 9

 マリコが執務室でブランディーヌの腐界に引きずり込まれかけている頃、食堂では先ほどの騒ぎで一反中断された宴が再開されていた。それぞれがまたジョッキやカップを掲げている。しかし、彼らが杯を掲げる際の掛け声は始めとは少々違っていた。


「神々に!」


「ナザールの里に!」


灰かぶり姫(シンデレラ)様に!」


東方の(イースト)聖女(セイント)様に!」


「「「「乾杯!」」」」


 杯同士のぶつかり合うゴンゴンという音が響き、傾けられたその中身がそれぞれの喉の奥へと消えていく。そう、宴は麦刈りの終わりを労うものからこの最前線(フロンティア)の地の過去と現在と未来を讃えるものへと変化していたのである。


「研究会の支部ができるのかあ」


「タリア様には申し訳ないけど、少し便利にはなるわよねえ」


「ここが街になる日も遠くないかもしれないね」


 神格研究会の進出を歓迎する声も聞こえる。神格研究会は単なる宗教団体ではない。知識と技術が集まることになるこの組織は、様々なものを生み出し、広め、また商品としても取り扱っている。


 もちろん何でもかんでも独占しているわけではない。例えば一般書なら他にも出しているところはあり、魔晶を組み込んだ道具類も元々の出所は神格研究会であっても実際の製造や販売は各地の工房に任されているものも多い。


 逆に独占状態になっているものの代表がポーションの類だった。もっともこれも独占しているというより、各地の宿を通じての材料の調達が一番しやすいのが神格研究会なので、そのままそこで作ってしまうのが最も効率的だからである。


 支部ができれば当然そうした物も扱うようになるだろう。これまでなら宿を通じて注文するか、探検者(エクスプローラー)などの大きな街へ出向く者に頼む必要があったものが里で手に入るようになるのである。現代の感覚で言えば、近所に有名チェーン店が進出してくるようなものであろうか。そういう意味では支部設置は歓迎される出来事だった。


 また、神格研究会の性質上そのメンバーは武より智に長けた者が多い。支部が設置されるということは、そこにメンバーを送っても大丈夫、つまり周囲の脅威が取り払われてそこそこ安全になったということだと、一般には見られている。となると、今度はその地へ行ってみようかという者も増えることになるのだった。


 もっともこの点については、ある程度詳しく神格研究会を知る者には「目的のためなら彼らは少々の危険など省みない」ことも知られている。故に支部設置がそのまま人口の流入、増加に繋がるかどうかは少々疑問だった。


「マリコさんもここにいてくれるそうだし」


「ありがたい話だよねえ」


 マリコが中央四国(よんごく)には行かないと明言したことも里の皆に安堵を与えていた。回復系魔法に長けた者が近くにいるというのは、現実で言えば近所に大病院があるという感覚に近い。これを自分の都合だけで言っているというのは酷であろう。


「やっぱり、彼がいるからかな」


「そりゃあそうでしょう」


 マリコの話に続いてそんな話も上がり、視線が密かにバルトへと向けられる。当のバルトはというと仲間たちと飲み食いしながら静かに談笑していた。一見いつも通りだが、しばらく見続けていれば、その目が時折廊下の奥――執務室の方――に向くのが見て取れただろう。


「お前がいるからここに残るっていう話じゃなくて残念だったな、ザット」


「何だって?」


 別のテーブルでは急に話を振られて顔を上げるザットの姿があった。既に結構飲んでいるらしく上げた顔は赤い。一度ううんと伸びをした後、相手に顔を向けて続ける。


「いいんだよ。元々自分が勝てるなんて思ってなかったから。ただね」


「ただ、何だ?」


「マリコさん、使ったろ? 修復(リペア)


「ああ」


「あの時思ったんだよ。ああ、この人はもっと多くの人のためにここからいなくなるかもしれないなって。そうだろ?」


「そうだな」


「それなら目の前にいるうちに言うか、黙っておくか、どっちかしかないだろう? 勝算があろうとなかろうと。だから言ってみたんだよ」


「それじゃあ、あの時一緒に立ったやつらは……」


「ああ、俺の話聞いてその気になった連中」


「へえ、やるなあ皆」


 ザットと話していた男は顔を上げて周りを見回した。先日ザットと共にマリコに挑んだ男たちは各所でそれぞれ杯を傾けている。ほとんどの者が笑顔なのは麦刈りが終わったからなのか、それともマリコが留まると言ったからなのか、男には分からなかった。


「だから奴には責任を取ってもらう」


「え?」


 男がザットの方に顔を向けなおすと、ザットは別の方をにらんでいた。その視線の先に座っている短めの金髪。もちろんバルトである。


「そうでないと困るだろうが。俺が。俺たちがっ」


「あ、あー。それは、そうかも、しれないな」


「だろう?」


 男のやや呆れ気味の相槌にそれだけ答えると、ザットはゆっくりとテーブルに沈んだ。


「お、おい、ザット! ……あー、これは俺が連れて帰ってやらんといかんのか?」


 男はため息を吐くと、自分のジョッキに残ったビールをあおった。

包囲網?(笑)

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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