022 世界の始まり 19 二冊目『神々からの贈り物』 1
「021」から「024」までは「本の内容」となっています。
神々からの贈り物――アイテムボックスと転移門――
ずっと昔、この大陸には、それぞれずっと離れた四つの場所に、少しずつ違う見た目とだいぶ違う言葉や文化を持った四つの部族がいました。自分達の他にも人間がいることは知らず、それぞれの集落でこぢんまりと暮らしていたのです。
四つの集落にはそれぞれ、白い石畳の上に立つ一対の黒い石の柱があって、それを囲むように集落ができていました。それが何のためにあるのかは誰も知りませんでしたが、その近くには人を襲うような動物などがなぜかあまり寄って来なかったので、それぞれの部族はそれぞれの門の近くになんとなく集まって暮らしていました。雨や風に曝されても汚れも壊れもしないそれは、神様が作った何か人間を守ってくれる物、ということになっていました。
ある時、幼い子供以外の全ての人――十歳以上の人であったと推察されます――に「お前たちにいいものをやろう。アイテムボックスと念じよ」という神様の声が頭の中で聞こえました。神様の声は男の声だったと言う者も女の声だったと言う者もいましたが、ちゃんと意味が分かる言葉だったというところは皆一緒でした。幼かった子達にも、少し大きくなった時に同じような声が聞こえました。こうして皆がアイテムボックスを使えるようになりました。
アイテムボックスを使えるようになったそれぞれの部族の人達は、それまでより楽により多くの物を持って遠くまで行けるようになりました。その結果、これまでより広い範囲に暮らすようになり、人数も増えていきました。それでも他の部族に出会うほど遠くに行った人はまだいませんでした。
しばらくして、また人々の頭の中に「お前たちには遠いところにまだ見ぬ仲間がいる。門を繋いで行き来できるようにするから、門へ行って使いたいと念じよ。門というのは白い石畳に黒い石の柱が立っているところだ。ついでに、話が通じないと困るだろうから、今一番たくさんの人が話している言葉を皆が話せるようにしてやろう。それでは、皆でなるべく仲良く楽しく暮らせ」という神様の声が聞こえました。今度も神様の声は男だったり女だったり人によって違っていました。
声を聞いたそれぞれの部族の人達は早速門のところに集まって、何人かが門を使いたいと考えてみました。すると、それぞれの頭に地図が浮かびました。そこには自分のところを含めて、ヒューマン、エルフ、ドワーフ、アニマという名前の四つの門が示されていました。行き先を決めると石の柱の間に光る幕が掛かりました。この光の幕は、門を使おうとした人にしか見えないようでした。それぞれがそこを通るとさっきまでと同じ石畳の上なのに周りの景色は全然違う所におり、自分達と少し違う見た目の人達がいっぱい集まっていました。他の門から来た人もやってくると、じきに少しずつ見た目の違う四つの部族の人達が、四つの門それぞれで顔を合わせることになりました。
ヒューマンの門から来た人達は、四つの部族の中では背丈も体つきも中くらいで、この人達だけ耳の先が丸くなっていました。
エルフの門から来た人達は、四つの部族の中では一番背が高いけれど一番細身で、耳の先はとがっていました。
ドワーフの門から来た人達は、四つの部族の中では一番背が低いけれど一番ガッチリしていて、耳の先はとがっていました。
アニマの門から来た人達は、四つの部族の中では背丈は中くらいだけれどエルフの門から来た人達の次に細身で、皆猫のような瞳と耳としっぽをしていました。
皆はしばらく黙って互いの顔を見合っていましたが、神様に言葉が通じるようにしてもらったことを思い出して、教えてもらった言葉で互いに話しかけてみました。ヒューマンの門から来た人達だけは、特になにも教えてもらっていなかったので、いつも自分達が使っている言葉を使いました。
他の門から来た人達が発した言葉が、自分に理解できるものであることが分かると、皆はまた少し互いの顔を見合った後、ほっと息をつきました。話が通じることが分かった皆は、神様からの言葉のことやそれぞれの部族のことを話し合いました。七柱の神々のことはどの部族も知っていたので、話し合いはずいぶん穏やかに進みました。
その話の中で、どこそこの門から来た部族の人、では長ったらしいということになり、それまで名前がなかったそれぞれの部族――それまでは自分達しかいなかったので、名前は必要なかったのです――に、神様がつけた門の名前をもらってつけることにしました。
これより後、それぞれの部族は、ヒューマン、エルフ、ドワーフ、アニマと呼ばれるようになり、それぞれの集落は、里と呼ばれるようになりました。また、それまで四つの里でそれぞれ別だった暦の数え方を改めて「門暦」とし、四つの転移門が使えるようになったこの年を門暦元年とすることにしました。
四つの門は誰でも自由に使えたので、人々はそれぞれの里を行き来するようになりました。すると、それぞれの部族で得意なことが違っていることが分かってきました。
ヒューマンは畑仕事や日常使う物を作る技術に長けていました。
エルフは魔法や弓の技術に長けていました。
ドワーフは体の力に優れ、金属を扱う技術に長けていました。
アニマはすばやさに優れ、戦いの技術に長けていました。
それぞれの文化や技術の優れているところを取り込みあって、四つの門の周りは栄え、それぞれの里は大きくなっていきました。
誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。
2014/12/25 「019」~「026」を構成変更。




