215 新たな日常 14
その後、ようやくアーマービキニから解放されたマリコは、こちらもストッキングを着けた三人にそれぞれに合ったホワイトブリムとヘッドドレスも取り出して渡した。これらは元々NPCの店売り品に後から属性だけを付与したものである。防御力としては大した事はないが、メイド服には付き物であろう。カリーネたちに乙女の恥じらいとやらをゴリゴリと捻じ込まれてヘロヘロになりかかっていたマリコであるが、ここは譲れないラインである。
「おー、きれいだねえ。よく似合ってるよ」
メイドさんルックになった四人がバルトの部屋に戻ると、トルステンの賞賛が待っていた。もっともトルステンの視線はもっぱらカリーネに向けられており、カリーネもカリーネで嬉しそうにスカートを摘んでくるりと回って見せたりしている。ミカエラとサンドラはとマリコがそちらに目をやると、案の定二人はややげんなりした顔をしていた。
「ああ、やはりメイドさん姿が四人も揃うと圧巻だな」
一方のバルトも嬉しそうに目を細めて感想を口にした。それも口先だけではないらしく、ホワイトブリムがどうのエプロンがどうのと細かいことを語り始め、マリコはこいつもメイドスキーかと認識を新たにする。それどころかバルトは「やはりミニタイプは若い方が似合う」などと迂闊なことを口にしてカリーネに締め上げられていた。それはマリコがカリーネにロングタイプを渡した密かな理由と同じなのである。
(そんなところで気が合っても困るんですけどね)
これが男同士であったなら同好の士として思う様メイド談義に花を咲かせてもいいのだが、今それをやるとむしろマリコの方が変な奴ということにされてしまいそうである。それでまた乙女の何やらを強制インストールされては敵わない。マリコは黙って状況を見守ることにする。しかし、それも長くは許されなかった。
「それで、さっき言ってた重ね着のことなんだけど……ね、マリコさん?」
「え、私ですか」
「だって、今納得できた人に話してもらう方が説得力があるでしょう?」
「それはそうかも知れませんが……」
カリーネに話を振られ、服の下にアーマービキニを着けたままでいることで生じる問題についてバルトたちに解説するハメになる。さらに精神力を削られた気分に浸りながら、マリコはバルトの部屋を後にした。
部屋に戻って寝てしまいたいところではあったが、まだすべきことが残っている。マリコは自室ではなく一つ隣の扉をノックした。
「おお、マリコ殿。話は終わられたか」
すぐにミランダが顔を出して招き入れられる。それなりに遅い時刻になっていることもあり、ミランダはパジャマ姿だった。イスを勧められてマリコが腰を下ろすと、ミランダが手早く二人分のお茶を淹れてくれる。料理はともかくお茶に関してはミランダの腕は確かである。あごに湯気を当ててその香りに包まれているとマリコは磨り減った精神力が回復したような気分になった。
「私にも何か用ということだったが」
一息ついたところで、ベッドに座ったミランダが切り出した。後で訪ねることは言ってあったが何の話かまでは伝えていないので何となく怪訝そうに言う。
「ええと、これです」
マリコはカップを置くと、アイテムボックスから服を一セット取り出した。もちろんメイド服である。それを受け取りながらミランダは首をひねった。
「これはマリコ殿の服ではないか。これがどうかなされたのか」
「それは今日送られてきた荷物の中にあった予備なんです。それで、良ければミランダさんに着てもらえたらと思いまして」
「何!? もしや、あの服なのか」
ミランダは畳んで重ねられた服のうち、エプロンなどを脇に置くと黒い服をバッと広げて掲げた。それはマリコがサニアに渡されたミニバージョンの支給品にそっくりではあったが、使われている材料は全く違うものである。ミランダが「あの」と言ったのはマリコのメイド服の性能を知っていたためだった。
「それを私に……。いや、これをもらってしまってはマリコ殿が困るのではないか?」
手にした服の感触を確かめるように触りながら、ミランダはカリーネたちと同じ疑問を口にする。マリコの方もそれに対しては同じような説明を繰り返した。納得いったミランダが嬉しそうに顔を上げる。
「本当に受け取って構わぬのか」
「はい」
「では、ありがたく。早速だが一度着てみてもいいだろうか」
「ええ、それはもちろん……」
構いませんが、とマリコが最後まで言葉にする前にミランダは着ている物を脱ぎ始めた。何の躊躇もなくさっさと下着姿になるとまずはキャミソールを手に取る。マリコの方も特に驚くこともなく、イスから立ち上がるとミランダが脱いだものを拾って畳んでやった。
「どうだろう、マリコ殿。おかしなところはないだろうか」
早々に着替え終わったミランダはそう言ってその場でくるりと回って見せた。元の深緑のメイド服よりやや丈の短いスカートが翻り、その裾から伸びた赤トラのしっぽも一緒に回る。マリコがミランダに渡す物としてミニバージョンの方を選んだのは、このしっぽが理由だった。動く際にしっぽも身体のバランスを取るために使われていることを知っていたからである。長い方だとスカートが邪魔でそれがし辛くなるのだった。
「ええ、どこも。似合っていますよ」
「ふむ、ならいいのだ。ありがとう、マリコ殿」
マリコの言葉に、ミランダは少し照れたようにしっぽを揺らした。
なお、マリコはミランダには武器を譲らなかった。その必要がなかったからである。ミランダの刀は国許から持って来た物だと聞いたが、マリコのアイテムストレージに仕舞われていた物――刀の類は胴狸だの狐撤だの村様だのと実在の物をもじった名前が付いている――と比べても遜色ない品だった。さすがは国長の娘の持ち物、というところである。
図らずも二人きりでミランダのストリップ(?)を見るマリコ(笑)。
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