番外 003 半年遅れの五十年記念
あけましておめでとうございます。
本作二度目の元日記念特別編です。
元日記念とは言ったものの、これは元々平成二十八年七月十七日に発表するつもりで書ききれなかった『ウルトラマン』本編放送開始五十年記念番外編を練り直したものです。
その頃何故書けなかったかについては2016/07/17の活動報告で触れておりますので、ご興味のある方はそちらをご覧ください。ただし、当時はまだ出てきていなかったあるお方がこの半年の間に本編に登場しましたので、活動報告に書いた内容予定とはかなり違った物になっております。
なお、本編自体との整合性は考慮しておりません。「作者によるセルフ二次創作」として気楽にご覧ください。
しかし、それにしても出落ち感が半端ないですね(汗)。
(マリコの)バストをくるんだカップがEサイズ
◇
その朝、異変は起こった。
「……マリコ殿マリコ殿、起きられよ」
「うう……、ん……」
肩を揺すられたマリコはうっすらと目を開いた。目の前には自分を覗き込む赤トラ猫耳メイドさんの顔。ミランダはマリコの脇に片手を突いて身体を傾け、もう片方の手をマリコの肩に掛けて揺さ振っていた。ここまではいつも通りである。
だが、今朝はいつもと何か、どこかが違う。仰向けに寝転がった時の自分の胸の重さにはさすがにもう慣れたつもりだが、それとは比較にならない物理的な圧力を感じるのだ。マリコはミランダの顔に向けていた視線をそちらへと下げた。
「なっ!?」
マリコは思わず目を見開いた。視界を埋める、たわわな果実。どたぷん、という擬音が似合いそうな巨大なモノが、マリコの胸の上にのしっと載っかっていた。閉じ切れなかった深緑のメイド服の襟元からは深い渓谷が雄大な景色を垣間見せている。
つい昨日までなら、今のようにミランダがマリコに覆い被さっても二人の胸はかすかに触れるかどうかという程度だったのである。それが今は例えるならそう、豊水梨の上に新高梨を置いてみました、というような状態だった。
「……おお、目を覚まされたか」
「ミ、ミランダさん!?」
「……これは異なことを。私が他の誰に見えると言われるか」
ミランダはわずかな沈黙の後にそう言うと、心外だという顔をしたままよいしょと身体を起こした。見間違いかと思われた新高梨はそのままミランダの身体に追随してゆさりと離れ、重圧から解放されたマリコの胸がやや高さを取り戻す。マリコは息を吐いて起き上がると改めてミランダの顔を見た。
「い、いえ、ミランダさんには違いないのですが」
そう答えながらも、マリコの目はついミランダの顔と胸元を何度も往復してしまう。巨大なバストが珍しいわけではない。そんな物は女神ハーウェイの人外魔乳で見慣れている。ただ、マリコを上回るサイズのモノの上にミランダの顔があるということが、マリコに甚だしい違和感を感じさせるのである。
「……ふむ? どこか変なところがあるだろうか」
「変と言うか……ミランダさん、ご自分でおかしいと思うところはありませんか?」
ミランダの胸がそんなに大きいわけがない、とはさすがに直接口には出せなかった。
「……そういえば今朝目覚めると、何故か急にブラジャーと服が縮んでしまったようでな。おかしな事もあるものだ」
「そっちですか!」
ミランダ自身は今の状態をおかしいと思っていないようである。それでもその後向かった朝練では、驚愕の表情で膝から崩れ落ちるアドレーを尻目に「身体のバランスに違和感がある」とか「何か剣が振りにくい」とか言い出した。
それ自体はマリコにも覚えがある。一定以上のサイズの場合、胸の存在や揺れを計算に入れながら身体を動かす必要があるのだ。それにはある程度の慣れが重要で、いきなり身体の前に大振りの梨レベルのモノがくっついたらこれまでと同じように動けるわけがない。しかし、ミランダはしきりに首をひねるばかりで、どう見ても今のサイズが当然と考えているようだった。
「ね、ねえあれ……、い、一体何があったの?」
「ええと、今朝いきなりああなっていて……」
宿に戻って朝食時の忙しさも一段落した頃、カウンターの中でマリコに向かって囁くサニアの声はどこか憤りに震えている。その指差す先には休憩中のミランダの姿があった。空いた席に着いてまかないを食べているミランダは、身体を少し傾けてその胸をテーブルにでんっと載せているのである。その方が楽だということはマリコも知っていた。しかし、実際にやると一部の方々からの視線がいろいろと痛いので自重している行為である。
その後もミランダは「急に何故か肩が凝る」と言い出したり、給仕の最中に振り向いた際、席に着いていたアドレーの顔を胸で叩いて――当然普段ならかすりもしない――沈めたりと、胸にコンプレックスを持つ方々の神経にヤスリを掛けまくった。もちろん、そういった様子に目を細める多くの紳士諸兄や一部の淑女も当然存在する。
◇
「ねえ、これ見て見て、マリコさん!」
「どうしたんですか、それ!?」
「今朝起きたらこうなってたのよ!」
翌朝、厨房に入ったマリコはサニアの胸を見て驚愕に目を見開いた。昨日のミランダと同じ事が、今度はサニアにも起きていたのである。しかも異変は二人だけに留まらず、宿中に拡がっていた。
「「「ロリ巨乳万歳! ロリ巨乳万歳! ロリ巨乳万歳!」」」
「その意見そのものには同意しなくもないが、うちの娘をそんな目で見るな!」
食堂ではアリアが一部の男たちに絶賛されて涙目になっていた。妻の変化に目尻を下げ、娘の変化に眦を吊り上げる、忙しいカミルの姿も見える。
「あたしはこんな胸要らないんだって! 邪魔なんだよ!」
「素直になろうよ、ミカちゃん」
本気で嫌がっているらしいミカエラとそれを認めないサンドラの口論が響く。
「何だか大きくなったみたいなんだけど、どうかしらトーさん」
「どんな大きさだろうと、いつだって君は最高だよカーさん」
「おまえら、自分の部屋でやれ、部屋で」
いつも通りのトルステンとカリーネに、バルトが砂を吐きそうな顔をしている。
「これはもう何が何だか……、そうです。こういう時こそタリアさん!」
執務室に相談に駆け込んだマリコは、珍しく憂いを含んだ顔をするタリアを見ることになる。
「今さらこんなになってもねえ。せめてあの人が生きてれば……」
元より実年齢より若く見えるタリアが何やら美魔女めいたものになっていた。思い出に埋没していて帰ってきそうにない。
タリアの下を辞したマリコは、さらに通いの娘たちにも変化が現れているのを発見した。どうやらD以下だった者は軒並みF以上にサイズアップしているようである。元々小さくはなかったエリーなどとんでもないプロポーションになっていた。
(これは一体何が起きているんでしょう?)
考えたマリコは、じきに一人だけ例外がいることに思い当たった。今日異変が起こった者は、皆自分の身体に変化があったことに気付いているのだ。しかし。
「ミランダさん!」
「……どうなされたマリコ殿」
バンと扉を開けて部屋に飛び込んだマリコを、ゆらりと立ち上がったミランダが出迎える。
「ちょっと運動場まで付き合って頂けますか?」
「……良かろう」
二人は誰もいない運動場で対峙した。他の者たちは皆、宿の中で騒ぎの真っ只中である。
「……で、何用かマリコ殿」
「あなたは何者ですか」
「……これは異なことを。私がミランダには見えぬと言われるか」
「見えませんね。……特に胸が!」
決定的な一言を口に出すと共に、マリコは眼に力を込める。紫の光彩が一瞬金色に輝いて、ミランダと重なる別の存在がその眼に映し出された。最近女神に押し付けられ、否、与えられた新たな力の一つである。
「くっ、よくぞ気付いた」
「あなたは何者で、目的は何ですか! ミランダさんから離れなさい!」
「我はオッパイ世人。巨乳を愛する者と巨乳に憧れる者の味方」
突如口調を変えたミランダは最早正体を隠そうともしなかった。
「世人……。異世界人がどうしてここに」
「チッパイ世人の侵略を受けたのだ」
オッパイ世人が深刻そうに語ったところによると、オッパイ世人の世界は巨乳を至上とする世界であったそうだ。かの世界では誰もが巨乳を讃え、巨乳に憧れ、巨乳を享受し、巨乳を愛で、巨乳に包まれ埋もれて幸せに暮らしていたという。不幸にして巨乳に生まれなかった者も、オッパイ世人がその因子を植えつけ同化させることで巨乳になることができたのである。
ところが、オッパイ世人が他世界へ参考となる巨乳見学の旅に出ているわずかな間にチッパイ世人が侵略してきたのだという。チッパイ世人は人々を惑わし、次々と貧乳に変えていった。
「我が戻った時にはもう手遅れであった。ロリ巨乳万歳を叫んでいた人々が、ツルペタ万歳と叫ぶようになっていたのだ。貧乳こそが正義であると。そして我は追放された」
語られる内容はどう考えても尋常ではないのだが、語る本人はいたって大真面目である。
「その後、世界を巡って目に付いたこの新しき世界を第二の故郷にしようと思ったのだ。この世界を必ず巨乳で支配すると」
「あなたは一人だけなんですか? ゴリラの手下とかはいないんですね?」
「ゴリラ? 何を言っているのだ、おまえは。我は一人だ。そして、この世界に住み着くことを望む」
「いいでしょう」
重大なはずの意思表示に、マリコはひどくあっさりと同意する。
「おお、それでは……」
しかし、オッパイ世人の上げかけた喜びの声は次のマリコのセリフに遮られた。
「でも巨乳で支配はだめです。あくまで本人の意思で巨乳になりたい人だけそうしてあげてください」
「何故だ!?」
「胸に大小の貴賎なしです」
それこそが世の理であるとばかりに言い切ったマリコに、ミランダの顔をしたオッパイ世人はしばらくワナワナと身体を震わせ、搾り出すように叫んだ。
「お前だって巨乳派だろうに!」
言われてマリコははたと考える。自分の好みで言えば確かにそこそこはあった方がいいのでは、とは思う。だが、マリコが巨乳派に属しているように言われるのは自身が大きい方とされるモノを装備しているからで、それは何故かと言えば真理子がそうだったからである。ではもし真理子が小さい方であったなら。しかしそれでも真理子を想ったであろうことは疑う余地がなかった。何のことはない、トルステンと同じである。
それに、と思う。皆が皆大きさを求めてしまったら、ハーウェイのようなサイズが標準になってしまうような気がする。ああいうのは、たまに居るからこそ見て感動できるのであって、あれが普通と呼ばれる光景はさすがに頭が痛くなりそうだった。第一、あの身体では日常生活に支障が出そうである。本人も愚痴っていたではないか。
そこまで考えたところで、マリコは顔を上げた。
「残念ながら、どうやら私は真の巨乳派ではないようです」
「ならば、まずはお前から支配してくれよう」
そう言うと、ミランダの身体から何かが抜け出した。残されたミランダは意識がないらしく、くたりと崩れかかる。
「ミランダさん!」
ミランダの身体を抱きとめたところで、マリコは辺りに大きな影が落ちていることに気が付いた。振り仰ぐとそこには巨大化したオッパイ世人らしきものがいた。その姿にマリコは目を見開く。
超巨大な胸が、胸だけが浮かんでいた。二つ繋がった肌色の涙滴型スライムのようにも見え、何と言うか、圧巻という以前に異様である。
「何だあれは!?」
「なんてデカイ……」
「えろい」
さすがに気が付いたらしく、宿の方から驚く声が聞こえてくる。
「我に屈せよ」
どこから出しているのか声が響き、その巨大な胸がマリコ目掛けて落ちてきた。
「うわっ!」
間一髪、ミランダを抱えたまま飛び退ったマリコはもうもうと上がる砂煙の中、外壁の側にそっとミランダを横たえる。元のサイズに戻ったその胸は規則正しく上下しており、マリコは安堵の息を吐いた。キッと振り返ると地面に降りていたオッパイ世人は再び浮き上がるところである。
「仕方がありません」
マリコは長さ二十センチ、太さ四センチほどの丸い棒状の物を取り出した。これこそ新たな力と共に女神に託されたアイテム、その名をリフレッシュパイプという。外見は魔力駆動のハンディマッサージ器そのものであり、実際にその用途としても使える優れものである。
立ち上がったマリコはリフレッシュパイプを頭上に掲げる。横に付いたスイッチをマッサージ器として使う時よりさらにグッと押し込むと、マッサージ器のヘッド部分が何故か眩く光り、同時にマッサージ器であるが故にぶいぃんと唸りを上げて振動する。
煌く光がマリコを包み、一瞬の後にはそこに巨大な人影が立っていた。顔にはつるりとしたマスク。女神にちなみ、マスク全体は銀色で目の部分だけが金色に輝いている。身体は全体をぴったりした薄手のスーツで全身タイツのように覆われており、こちらも地は銀色で、そこに太い筆で引いたようなラインがマリコの髪と同じ紫で描かれていた。
実のところ、こうして異世界人が現れるのは今回が初めてではなかった。それも何故か皆、ここナザールの里にばかり現れる。それらに対応するためと称して、しばらく前にマリコは女神からこの新たな力を無理矢理授けられていたのである。
ほとんどボディペインティングにしか見えない巨乳銀色マスクと巨大化したオッパイ世人が対峙する。これを見たと他人に話しても決して信じてはもらえないような光景だった。しかし、ここはナザールの里である。
「ウルトラマリコだ!」
「ウルトラマリコが来てくれた!」
「がんばれー」
宿から声援が飛ぶ。このウルトラマリコという名称はマリコが名乗ったものではない。初めて姿を現した際に女神が、里の者全員の脳内に直接響くという大変迷惑な方法で告知したのである。以来、ウルトラマリコは女神の使者とされており、名前こそ似ているがマリコとは無関係であるということになっている。
ともあれ戦いである。ウルトラマリコは自分のものより一回り大きいオッパイ世人に次々とパンチやキックを放つ。ふよふよと浮かんでいるだけの相手にそれらは全て当たっているものの、妙にリアルな柔らかさのオッパイ世人には効いているのかいないのかいま一つよく分からない。
ウルトラマリコが攻撃を打ち込む度、世人と同時にウルトラマリコの胸もばるんばるんと揺れる。とある理由からこのスーツにはブラジャーとして胸をホールドする機能が付いていないのだ。マリコ本人としては動き辛いことこの上ないわ恥ずかしいわだが理由を考えれば致し方ない。女神には改善要求を上申してあるのだが、今のところ音沙汰なしだった。
時折体当たりで反撃してくるオッパイ世人をいなしながらも攻撃を続けていると、さすがのオッパイ世人もやや動きが鈍くなってきた。同時にウルトラマリコの方にも変化が現れる。両胸の先端に取り付けられた総天然色測時装置が点滅を始めたのだ。
ウルトラマリコへの変身はマリコ自身の魔力を消費して行われる。そのため、この巨大な身体を維持できるのはほんの数分間なのだ。その変身可能時間の半分が過ぎると総天然色測時装置が警告を発する仕様になっていた。ただし、両胸の先っぽが左右交互に点滅するという、マリコ本人としては非情に恥ずかしい仕様であったので、女神には改善要求を……以下同文。
ウルトラマリコは一発強めの蹴りを入れるとバク転して距離を取った。もちろん胸もばいんばいんと縦揺れするが気にしている余裕はない。そろそろ決着をつけねばならないのだ。両の拳を握り締め、右腕は肘から先を立てて拳を顔の横へ、左腕は肘から先を水平に胸の下に沿わせてその拳を右肘に当てた。その構えから上体を大きく右にひねって一旦止まり、野球のスィングのように勢い良く左へと上半身を振り抜く。
「パイスラッシュ!」
巨大な胸を高速で振ることにより、その先端は瞬間的に音速を超える。そこから発する衝撃波を相手目掛けて発射するのがパイスラッシュである。胸にしなりを含んだ柔らかさがないとパイスラッシュは撃つことができない。スーツにホールド機能がないのは、正にこの技を放つためなのである。なお、パイスラッシュには今放った横に振る基本形であるパイスラッシュホリゾンタルと、身体ごと縦回転して放つ大技パイスラッシュヴァーチカルが存在する。
「掛かったな! パイスラッシュ!」
「なっ!?」
ところが、ウルトラマリコが撃つと同時に素早く横回転したオッパイ世人は、何と同じ技を放った。衝撃波の威力は先端の速度、即ち回転速度と胸のサイズで決まる。速度は互角、しかしサイズはオッパイ世人に軍配が上がる。衝撃波同士がぶつかりあう轟音が響いた後、マリコのパイスラッシュを消し去った世人のそれがウルトラマリコに迫った。
「くうっ」
転がる事で辛うじてかわしたウルトラマリコが片手を大地についたまま世人を見上げる。
「カカッ、その技は前に見せてもらったことがあるからな」
どうやらオッパイ世人はしばらく前から里を観察していたらしい。他の世人との戦いを見られていたということのようである。
「威力はサイズに比例する。故に何度やろうとお前が我に勝つことはできない。どうだ、これでお前も巨乳の素晴らしさが分かっただろう」
相変わらずどこから声が出ているのかよく分からないが、カカカと笑いながらみょみょみょみょと細かく揺れるオッパイ世人。ウルトラマリコはガクリと膝をついた。
「カカカ、ふむ、観念したようだ……な!?」
しかし、オッパイ世人の笑いは途切れた。膝をついたままのウルトラマリコが顔を上げ、その目には決意の光が宿っていたからである。
「……できればこの手は使いたくなかったんですが」
ウルトラマリコはゆらりと立ち上がった。そして、その姿のまま、リフレッシュパイプを取り出した。もちろんそれも身体に応じて巨大になっている。頭上に掲げて叫んだ。
「真! ゴッデェェェェェェェス!」
「「「うおおぉ」」」
光と振動があふれ出し、オッパイ世人の叫びに里の者たちの叫びが重なる。そして、それらが収まった後には、元いた位置にウルトラマリコが立っていた。
しかし、先ほどまでのウルトラマリコとは異なる点が二つ。まず、身体を彩るラインが紫から金に変わっている。そしてもう一つ、その身体はきっと胸で出来ていた、と言えるほどのモノを備えていた。里の者たちは男女を問わず、黄色い砂塵がうなる地面から尊い胸を見上げている。
ウルトラマリコ・ゴッデスフォーム。二段変身であった。
「な、なんだそれは!?」
「見ての通りです。では、行きますよ」
「ま、待て! そんなもので撃たれたら……」
悲鳴のようなオッパイ世人の声に取り合わず、ウルトラマリコは再びパイスラッシュの構えを取った。マスクの奥で歯を食いしばり、覚悟を決め腰を据えて撃ち出す。
「メガ・パイスラッシュ! ぐぎぎっ!」
「パ、パイスラッ……、ぎゃああああ!」
メガサイズのパイスラッシュ、それがメガ・パイスラッシュである。決して女神と掛けているわけでは……ないわけでもない。相殺のために放たれたパイスラッシュをそよ風のごとく吹き散らし、メガ・パイスラッシュはオッパイ世人を薙ぎ払った。世人はズズンと地響きを立てて地面に落ち、ボヨンボヨンと転がる。
一方のウルトラマリコも胸を押えて再び膝をついていた。
「い、いたたたた」
メガ・パイスラッシュは諸刃の剣である。女神サイズのモノをブラも着けずに思い切り振り回したらどういうことになるか。マリコは人外魔乳を支える筋繊維がブチブチと音を立てて切れる痛みを味わいながらそれを放ったのだった。すぐに治癒を使って回復させる。放っておくと後々胸が大変残念なことになる可能性があるのだ。
マリコは痛みから解放されて立ち上がると、ピクピクと蠢くオッパイ世人に目を向けた。
「ぐ……、がっ……」
「まだ意識があるようですね、さすがです。でも安心してください。きっちりトドメは刺してあげますから」
「ま、待て……。改心する。もう誰彼構わず巨乳を押し付けたりはしない」
「何ですか、その誤解を招きそうな表現は」
当ててんのよ的なセリフに聞こえなくもない弁明にウルトラマリコの声の温度がガクンと下がる。
「改心はしてもらいます。でもその前にきっちりとその性根を叩き折って差し上げなければいけませんね」
「必殺技を食らわせておいて、この上何をする気だ!?」
叫びながらもジリジリと後退しようとするオッパイ世人。その姿はますます某スライムのように見える。
「何か勘違いしていますね? パイスラッシュは必殺技なんかではありませんよ。あれはただのメラ、ではなくてただの足止め技です」
「何ぃ!?」
「パイスラッシュは風系の技。巨大ヒーローの必殺技と言えば、光線技と決まっているんです。それでは行きますね」
「ひ、ひぃ」
悲痛な声を上げるオッパイ世人に構わず、ウルトラマリコは先ほどとは異なる構えを取った。指先まで伸ばした両腕を手の平を下に向けて正面に出し、そこから四十五度ほど下げる。次に両肘をそれぞれ内側に直角に曲げ、重なった両腕で双丘を下から押し上げた。胸の正面、総天然色測時装置が世人の方を向く。
グラビアアイドルがやりそうなポーズであるが、これにはちゃんとした意味があった。通常時はまだしも、特にゴッデスフォームの場合、このポーズを取らないと胸の重量と重力との兼ね合いから光線が斜め下に向かって発射されてしまうのである。
「ニュウトウム光線!」
ビィィィィと、映画のフィルムに付いた傷のようなギザギザした白い光線が左右の総天然色測時装置から発射された。「それが魔力変換器を兼ねておるのじゃ!」との女神の話通り、強力なニュウトウム光線に変換されたマリコの魔力は余すところなくオッパイ世人の身体に吸い込まれた。
「ぎぃやあああぁぁぁ」
瞬く間に身体の大部分が蒸発し、マリコ以上からミランダクラスへと縮んでいく世人。ウルトラマリコは動かなくなったそれにまだ息があることを確認した後、素早くそれを回収してデワッと空に舞い上がった。
「「「ありがとう! ウルトラマリコ!」」」
里の人々が手を振ってそれを見送っているが、空に消えたのはもちろんマリコの作り出した幻影である。回収されたオッパイ世人を、面白いことを手薬煉引いて待っている女神に速攻で引き渡した後、本物のマリコはこっそりとミランダの傍へと戻ってきていた。気を失ったままのミランダをお姫様抱っこして何食わぬ顔で皆の前に姿を現す。
「おーい、皆さーん!」
「あっ、マリコさん!」
「無事だったのね!」
「ウルトラマリコが助けてくれたんです」
「そうだったの」
「では、私はこのままミランダさんを部屋に連れていきますので」
お決まりのやりとりの後、皆に背を向けて宿屋へと歩み去る、ミランダを抱いたマリコ。その背中が扉の中に消えるのを待って、残った皆は顔を見合わせる。
「ふっ」
「ぶはははは」
「くっ、くくくく」
「あー、苦しい」
爆笑が渦を巻いた。ウルトラマリコの正体など、とうの昔にほぼ全員にバレているのである。ただ一人、バルトだけはまだ気付いておらず、「マリコにバラしてしまいそうだから」という理由により他の者が真実を教えることもなかった。しかも、未だに気付かれていないと思っているマリコのために、変身しそうな状況になったら誰も見ていない、安心して変身できそうな場所を作る、という申し合わせまでできているのである。
「『ウルトラマリコが助けてくれたんですっ!』」
「似てる似てる!」
「そこまで笑っちゃ悪いよ。私たちのためなんだから」
「ごめんごめん」
「でもいつ気が付くのかねえ」
今の皆の耳目は、マリコがいつ気が付いてその時どんな反応を見せるか、に集まっていた。現在の一番人気は、先に気付いたバルトがくそ真面目な顔で伝え「えっ? ええ? いつから気付いてたんですか!?」と赤くなる、というものである。
ウルトラマリコは皆を守ると同時に、皆に守られている存在でもあるのだった。
◇
ベッドに寝かされた後、程なくミランダは目を覚ました。すぐにベッドの傍にに座っていたマリコに気付いて目を向ける。
「マリコ殿……。済まぬ、手を掛けさせた」
「いいえ。そんなことより、どこかおかしいところはありませんか?」
「いや。大丈夫だ、問題ない」
「そうですか」
「何か悪い夢を見ていたような気がする」
「そうですね」
「大きな胸というものは憧れではあるが、実際なってみるといいことばかりではないということも分かった」
「そ、そうなのかも知れませんね」
「だから私はこの大きさでよいのだ」
「それがまあ、個性というものですから」
「それにな、マリコ殿」
「はい」
「今の私は、胸の大きさにそこまで飢えていないのだ」
「本当に?」
「ああ。何故なら、私にはいつでも自由に堪能できる立派な物がある」
「そうですか、って、え!? そ、それは……」
ギョッとしてミランダの顔を見返した時には、既にマリコはミランダに腕を取られていた。
「もちろん、マリコ殿が常備しておられるものだ」
「ちょっ、待っ、てっ……に゛ゃあ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ」
豊胸魔法という神の如き技を編み出した新鋭の術師がアニマの里に現れた、という噂がナザールの里に届くのはもうしばらく後のことである。
(了)
改めまして、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
歴代の本編よりぶっちぎりで長い番外編(初の一万字超え! 通常の三倍から四倍以上)ってどうなのとは思いますが、お楽しみ頂けたでしょうか。
なお、ここ十日ほど時間が取れるとひたすらこれの内容を考えていたので読む方がメチャクチャ滞っています(泣)。読む時間がががが。
誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。




