212 新たな日常 11
アーマービキニのデザインはビキニとしてはスタンダードな物だった。正三角形が二つ繋がった形をしているトップスは首の後ろと背中で、マリコの紐パンと似たような形のボトムは腰の両側で、それぞれ布紐を結んで着る作りになっている。もちろん布面積はマリコが今着けている下着と比べれば小さいが、幸いな事にマイクロビキニというほど際どい物ではなかった。
マリコのアーマービキニは通常品と比べて耐久力や防御力が高い。メイド服と同じくレア材料と裁縫スキルで自作した物で、だからこそメイド服並みの防御力を備えていた。もっとも、ゲームに実装されたアーマービキニは一種類だけだったので設計図も一種しかなく、マリコの持っている物は全て同じ形の色違い、属性違いである。
解いたリボンを襟から抜いてエプロンを取り、カフスのボタンを外したところで、マリコははてと首をひねった。水着に着替えるのだから全部脱いでしまおうかと思ったのだが、頭のどこかからそれは違うという声が聞こえるような気がするのである。思い返してみれば、男でも全裸になって海水パンツを穿く者は少数派ではなかったか。腰にバスタオルを巻いて穿き替える方が多かったはずである。
男でさえそれなのだから、女の人が全部脱いで着替えるとは考えにくい。しかし、さすがにそういう時の作法まではマリコの知識にも無かった。自分しかいないのだから構わないかと思わないでもなかったが、全部脱いだ瞬間にバタンと扉が開けられそうな嫌な予感もヒシヒシとしてくる。カリーネたちに見られたからといって今さらどうこう思わないが、「なんで全部脱いでるの」とか呆れられそうな気がするのである。
(油断大敵。全部脱ぐのは却下です)
ではどうしたものかとマリコは考える。バスタオルを巻くなり羽織るなりできればいいのだろうが、こちらに来てからそんな物は見たことが無かった。実際に持っているのは手拭いくらいである。代わりになる物は、と辺りを見回すと先ほどはずしたエプロンが目に留まった。
(とりあえずこれでいいでしょう)
これを着けていれば露出面積はかなり押えられるはずだとマリコは一人頷いた。手早くメイド服とシュミーズを脱いで、代わりにエプロンを緩めに装着する。ロングタイプのメイド服とセットになっているエプロンは膝下まで丈があるのでマリコの身体はかなりの部分が隠された。
ストッキングとガーターベルトをはずしてまずは下を穿き替える。紐を結ぶ位置が腰の外側だというだけで、下着の紐パンと同じ要領なので特に困ることもなかった。次に上だが、こちらはブラとは少々勝手が違った。首の後ろを一旦緩めに留めておいて、胸の下を通る背中の紐の位置を決めてから改めて首の後ろの紐を締め直す。そうしないときちんと収まらないのである。
(安定感というかホールド力というか、やっぱりブラの方が落ち着きがいいような気がしますね)
中身の収まり具合を調整していると扉がノックされた。「そろそろどうかしら?」というカリーネの声も聞こえてくる。ビキニ自体は着終わったことだしと、マリコはそちらを振り返って「どうぞ」と返事をした。さすがにいきなり全開にされるようなことはなく、人が通り抜けられる分だけ開かれた扉からカリーネがするりと入ってくる。
「どんな感じかし……ら」
マリコの姿を見るなり、カリーネが固まった。続いて入ってきたミカエラとサンドラもギョッとした顔をする。
「マリコさん、なんで裸エプロンになってるの!?」
「えろい」
「は、裸エプロン!?」
二人の言い様に今度はマリコの方が驚いた。裸エプロンが何であるかはマリコも当然知っている。男の夢の一つというか、彼女ができたらやってみて欲しい事ランキングの上位に挙げられるであろう、男のろくでもない願望の一つである。実際ずっと若かった頃、真理子に頼み込んだことがある。あれは実に恥ずかしくも素晴らしかったと思い出に浸りかけたところで、マリコは三人の誤解に気が付いた。
「そんなんじゃありませんよ。ちゃんと穿いてますから、ほら」
「ちょ、あなた何やってるのよ、はしたない!」
「あいた!」
エプロンの裾をつかんで捲り上げたところで、カリーネからその手にチョップと突っ込みをもらう。
「どうしてまた水着に着替えるだけのはずがそんなことになったの」
腰に手を当てて心底呆れたような目付きを向けてくるカリーネに、マリコはかくかくしかじかとこうなった訳を話した。聞き終えたカリーネは深々とため息を吐くと額に手を当て、改めてマリコの顔を見る。
「何かで隠しながらっていう、そのこと自体は間違ってないんだけど……。マリコさん、今自分がどう見えてるか分かってる?」
そう言われて、マリコは自分の身体を見下ろした。肩のフリルから伸びるむき出しの腕と裾のフリルの先に見える素足。自分ではビキニを着けているという感覚があるので気にしていなかったが、確かに正面からはエプロンしか見えないように思える。ちょっと横に回れば首の後ろや腋にビキニの赤がのぞいているのが目に入るだろうが、これは確かに裸エプロンに見えなくもない。そう思うとマリコは段々と恥ずかしくなってきた。
「折角だから見せに行こうよ。バルトが泣いて喜ぶと思うな、きっと」
マリコが悶々とし始めたところで、驚きから復活して興味津々で眺めていたミカエラが恐ろしいことを口にする。それどころかそのままマリコの手を取ろうとしてきた。
「いやですよ、そんなの!」
ミカエラの魔の手から逃れてマリコは飛び退る。何だってこんな格好をわざわざ見せてやらねばならないのか。そう思ったマリコは引きむしるように急いでエプロンをはずした。元々バスタオルの代わりなのである。いつまでも着けているからおかしなことになるのだ。
「「おー」」
「さすがに似合うわねえ」
エプロンを取ったところで感嘆の声が上がる。色白の伸びやかな肢体に真っ赤なアーマービキニはよくマッチしていた。豊かな胸は三角の布地で吊られ、赤い逆三角に隠された程よく張った腰回りとの間を優美なカーブを描くウエストラインが結んでいる。首に巻かれた黒のチョーカーがやや妖しいアクセントになっていた。
ただ、傍目には素晴らしい光景も本人にとっては必ずしもいいものとは限らない。海辺やプールサイドならともかく、屋内それも他人様の部屋で自分一人だけが水着姿である。三人から向けられる視線に、マリコは何かの罰ゲームとしか思えなくなってきた。
「ええと、そんなにまじまじと見られましても……」
「ああ、ごめんなさい。つい見入ってしまったわ。そうそう、その上からさっきの服を着てみるんだったわね」
本来の目的が危うく忘れ去られるところだった。
ビキニになるだけで終わってしまいました(汗)。
仕事のごたごたは脱しつつあるのですが、年末年始の予定的に次回(1/2)の更新はさすがに厳しいかもしれません。
誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。




