021 世界の始まり 18 一冊目『世界の始まり』
「021」から「024」までは「本の内容」となっています。
いつもより少々長いのですが分けずに行きます。お付き合いください。
※文中の「□」は書かれていない部分、ということでご了承ください。
世界の始まり
ある時、何も無かった所に七柱の神々が現れた。
風の女神は、銀の髪と猫のように形が変わる金の瞳で、髪と同じ色の猫のような耳と尾がある、小柄な姿だった。
火の女神は 炎の色の髪と瞳で、力に満ちたしなやかな姿だった。
水の□神は、水の青の髪と瞳で、□□□。
木の□神は、木の葉色の髪と瞳で、□□□。
金の男神は、輝く金の髪と瞳で、鍛え上げられた力強い姿だった。
土の□神は、肥えた土の色の髪と瞳で、□□□。
命の女神は、白と黒の□□□。
一日目、風の女神が風を起こした。
風はどこまでも届いて、あちこちでそれまで無かったはずの何かが、渦を巻いて集まり始めた。
遠い所、近い所、大きいの、小さいの、たくさんの渦が生まれた。
大きな渦同士はお互いがまとった風で押し合って離れ、小さな渦は大きな渦の風に引っ張られたり、逆に弾き飛ばされたりした。
大小の渦が舞い踊る様子を見て風の女神は満足し、その日を終えた。
二日目、火の女神が火を放った。
火は全ての渦に届き、それぞれの渦巻く何かは端から燃え始めた。
大きな渦は炎に包まれて燃え盛ったが、小さな渦のいくつかはじきに全部燃えて灰の渦になってしまった。
全ての渦に火が行き渡ったのを見て火の女神は満足し、その日を終えた。
三日目、水の□神が水を放った。
大きな渦は激しく燃えていたので、少しくらい水が掛かっても全く火が消えずに燃え続けた。
既に燃え尽きて灰になっていた小さな渦は、水が掛かると固まって石の塊になってしまった。
その様子に満足できなかった水の□神は、辺りを見回して一つの渦を見つけた。
それは、燃え盛る大きな渦に引き寄せられながらも、石の塊になった小さな渦を引き寄せている、燃える渦だった。
水の□神は少し考えて、その渦にそっと水を放った。
水が掛かった所の火は一旦消えたが、全ての火を消すには至らなかった。
そして、一度火が消えた場所から水が流れ去ると、そこにはまだ燃えている所から火が燃え移ってきた。
流れ続ける水が流れた所の火を消し続け、火が水が去ったあとをまた燃やす、そんな追いかけっこが始まった。
火と水の追いかけっこは、火が水の届かない渦の内側へと潜り込み、水が渦の外側のほとんどを覆ってしまうまで続き、しばらくすると、時々火が表面に出てきては水に押し返される、燃えかけの玉の形に落ち着いた。
この不思議な玉ができたことに水の□神は満足し、その日を終えた。
四日目、木の□神が様々な種を蒔いた。
燃えている渦に落ちた種は炎に巻かれてすぐに燃え尽きてしまった。
石の塊に落ちた種ははじき返され、多くが近くの燃える渦に引き寄せられてやはり燃え尽きてしまった。
不思議な玉に落ちた種は無事だった。
蒔かれた種はじきに芽吹き、様々なものが現れた。
無機物、有機物。植物、動物。
意思のないもの、あるもの。動かないもの、動くもの。
魔力を出すもの、吸うもの。その魔力から生じるもの。
そこにいろいろなものが現れたことに木の□神は満足し、その日を終えた。
五日目、金の男神が不思議な玉の様子を見に来た。
種から現れた様々なものには一つとして同じものはなかったが、それ故にひと通り見終えるともう見るべきものがなかった。
そこで金の男神は様々なものをそれぞれ二つに分けてみた。
すると、先ほどまでより賑やかにはなったものの、ただそれだけだった。
金の男神は少し考えて、今度は様々なものに、増える力とそのことを考える力を与えてみた。
しばらく見ていると、様々なものはそれぞれの方法で増え始めた。
そこまでしてもやはり動きもせず増えもしないものもあったので、金の男神はそれらには別の意味を与えることにした。
様々なものが増えていく様子に金の男神は満足し、その日を終えた。
六日目、土の□神が不思議な玉の様子を見に来た。
様々なものが増えていくのをしばらく眺めていると、その中に時々勝手に形を変えていくものがあることに気が付いた。
玉の内側から時々噴き出す火が作る小さい島の上では、特に変わることが多いように思われた。
そうして、形を変えていくものを興味深く眺めていたが、しばらくすると流れて来る水がそれらを押し流し、どこかへ紛れて見えなくなってしまった。
もう少しよく眺めていたいと思った土の□神は玉の表面をなでて、水があまり流れて来ない高い所を作り、そこで形を変えていくものをまた眺め続けた。
しばらくすると、様々なものは数も種類も増え、玉の上をびっしりと覆いつくした。
びっしりになってもまだ無理矢理増えようとするものを見て、土の□神は気の毒に思った。
土の□神は少し考えて、様々なものに他のものを取り込む力を与えてみた。
他のものを取り込んだものは少し大きくなり、取り込まれたものは取り込んだものの一部となった。
そして、取り込まれたものが減った分、玉の上には余裕ができるようになった。
様々なものが他のものを取り込んで大きくなっていく様子に土の□神は満足し、その日を終えた。
七日目、命の女神は不思議な玉の様子を見に来ようとしたが、寝坊した。
命の女神がやっと起きだしてやってきた時には、他のものを取り込む力を得た様々なものは、互いに取り込みあった末に大きな一つのものになってしまっていた。
大きな一つのものは大きくなり過ぎたせいか、ほとんど動かずじっとしていた。
様々なものを見逃してしまったことを、命の女神は大変残念に思った。
そして、大きな一つのものの影に何か残っているのではないかと思いついた。
命の女神は特に考えず、不思議な玉を引き寄せている燃え盛る大きな渦を玉に近付けて、影になっているところを照らそうとした。
燃え盛る炎を近づけられた大きな一つのものはたちまち燃えあがり、あっというまに焼け落ちてしまった。
焼け落ちた大きな一つのものからは、それに取り込まれていた他の様々なものが次々と出てきたが、それらも出てくる端から大きな渦の炎で焼け落ちていった。
命の女神はあわてて燃え盛る大きな渦を元の所に戻したがもう手遅れだった。
ちょうどそこへ、他の六柱の神々がやってきた。
彼らは命の女神があわてる気配を感じて、心配になって見に来たのだという。
燃えてしまったものを見つけた彼らは嘆き、命の女神は六柱の神々から散々に叱られた。
そこで命の女神は、燃えてしまった全てのものに命を吹き込もうと皆にいった。
七柱の神々は話し合い、せっかく様々なものが現れても、増えすぎてびっしりになっては困るだろうし、取り込み合ってひとつになってしまうのはつまらない、ということになった。
皆がいろいろ考えていると、風の女神がこう言った。
多くのものが姿形を変えていったように、命も変わっていけば良い。
そうすれば増えすぎてびっしりにならないし、たくさんのものを取り込んだものもいずれ形を変えて他のものに取り込まれるようになるだろう。
そうして、命は移ろっていくものになった。
六柱の神々は頷きあって命の女神をうながした。
命の女神が玉に息を吹きかけると、燃えてしまったものに命が吹き込まれて、またそれぞれ動き始めた。
それを見て七柱の神々は安堵し、ついでにいろいろなことを決めることにした。
不思議な玉が周りを回る燃え盛る大きな渦は太陽と名付けられた。
不思議な玉の周りを回る石の塊は月と名付けられた。
不思議な玉そのものがぐるりと一回りする間を一日、太陽の周りを一回りする期間を一年、月が不思議な玉の周りを一回りする間を一月と呼ぶことにした。
一年は三百六十日で、三十日ごとに十二の月になるはずだったが、命の女神が太陽をむりやり動かしたので、一回りする期間は少しずれて三百六十五日になった。
そのせいで十二の月は、全部が三十日というわけではなくなった。
それでも少しずれているので、時々調整することも決められた。
最後にそれぞれの居場所を定めた。
火、水、木、金、土の神々は、たくさんのものを近くで見ていたいと、玉に降り立った。
風の女神は、風に乗って玉の周りを回っている月に降り立ち、共に空を巡ることにした。
そして、全てのものが移り変わっていくことを皆が忘れないように、不思議な玉から見える月の形が常に移ろって見えるようにした。
そのため、風の女神は月の女神とも呼ばれることになった。
最後に残った命の女神も不思議な玉が気になったが、むりやり動かしてしまった太陽の面倒を見なければならなかった。
そこで、太陽にいてそこから全ての命を見守ることにした。
そのため、命の女神は太陽の女神とも呼ばれることになった。
神々がそれぞれの場所に向かった後、命の女神は嘆息し、その日を終えた。
このように七柱の神々は世界をつくり、我らに命を与え、今もひっそり我らと共にあり、我らの移り変わりを興味深く眺めているという。
追記
後に、七柱の神々にちなんで、七つの曜日が作られた。
風の日に始まり、命の日までの七日間を一週間とすることになった。
七日目の命の日は、命の女神に倣って寝坊してもいい日、即ち、休みを取る日となった。
神話部編纂担当より
この本は、皆様からの情報によって完成されていきます。
皆様からの神々の情報をお待ちしております。
神々のどなたかに会った、話を聞いた、加護を得た、という方をご存知の方はお近くの神格研究会支部までご連絡ください。
門歴二百年一月一日初版第一刷発行
門歴千十年一月一日改訂八十二版第一刷発行
門歴千十四年一月一日改訂八十二版第五刷発行
監修・発行:神格研究会神話部
頒布価格:銀貨二枚
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2014/12/25 「019」~「026」を構成変更。




