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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第四章 メイド(仮)さんのお仕事
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207 新たな日常 6

 星空に浮かぶ、石でできた四角いステージ。ゲームでは何も無いところだったはずだが、今は一部に壁ができてなおかついろいろと物が置かれた妙に生活感のあるその部屋の真ん中にマリコは現れた。


 天蓋つきのベッドに目をやると、昨日と同じようにうつ伏せに寝転がっている女神の姿が目に入る。どうやらまた何か本を読んでいるらしい。マリコに気付いた様子もなく、後ろに伸びたしっぽだけが時々クネクネと動いている。


 その銀の毛並みを持ったしっぽに心引かれながらもマリコは視線を巡らせる。室内も昨日とさほど変わった様子は無い。つまり、散らかり具合も昨日のままだということである。マリコははあとため息を吐くと、そっと女神に歩み寄った。


「女神様」


「ひゃあっ!?」


 ベッドの脇まで近付いたマリコが声を掛けると、女神はしっぽをブワリと膨らませて読んでいた本をパシッと勢い良く閉じた。そのまま跳ねるように起き上がって振り返る。


「おっ、おお、おぬしか。いきなりどうしたのじゃ」


「どうしたのじゃもないでしょう。自分が来いと言ったんじゃないですか」


「ん? ああ、清めの儀(おそうじ)のことかの。まさか昨日の今日で来るとは思わなんだものでの。うむ、早速とは殊勝なことよ」


 女神は手にしていたさして分厚くも無い本を脇に積まれた本の山の上に置くと、ベッドの上に座ったまま器用にふんぞり返って頷いた。それを見下ろす形になったマリコの目がスッと細くなる。


「こんなに散らかしたままなのに放っておけるわけがないでしょう」


「こんなにと言うがまだ大して……う」


 マリコににらまれ、女神はセリフの途中でついと目を逸らした。


「で、掃除はいいんですけど、道具はどこですか」


「道具? ふむ、そういえば無いの。これまでは力を使っておったからの」


「やっぱり」


 予想通りだとマリコははあとため息を吐いた。


「そんなことだろうと思ってこっちで準備してきました」


「ほう、用意がいいの」


 ホウキやら桶やら布やらをアイテムボックスから取り出し始めたマリコを見て、女神が感心したように言う。


「それでは頼んだぞ」


 さらにそう言って再び本に手を伸ばそうとする女神に、マリコの眉がピクリと上がった。


「何を他人事みたいに言ってるんですか。女神様もやるんですよ。手伝いますから」


「いや、わしは本の続きをじゃな……」


「引きニート……」


「なんじゃと!?」


 ぽつりとマリコが漏らした言葉に女神はバッと視線をマリコに戻した。


「そんな風に家事も仕事もせずに部屋に引き籠っている人をそう呼ぶのだそうですよ」


「仕事はちゃんとしておるわい!」


「寝っ転がって本読んでただけじゃないですか」


「新たに書かれた本がどんなものか確かめるのもわしの仕事のうちじゃ!」


 女神は積み上がった本の山をバンバン叩く。


「引き籠って読書三昧……、まさかトイレもその辺の空き瓶で済ませてるなんてことは」


「おぬし、人の話を聞かぬか! 第一、誰がそんなことをするか。風呂もトイレもその向こうにちゃんとあるわい!」


 マリコの後ろに立つ壁の方を指差して女神が叫ぶ。これにはむしろ、あったのかとマリコの方が驚いた。トイレの話は半ば冗談で、そもそも女神にそれが必要とは思っていなかったのである。


「何を驚いたような顔をしておる。もちろん、そういう身体の作りでなければならぬわけではないのじゃぞ? この方が生き物としての感覚をつかみやすいし、向こうからも理解し易いからそうしておるに過ぎぬ」


「ああ、なるほど」


 言われてマリコは頷いた。仏教の仏様の姿と同じ理屈なのである。仏とは人間の理解力を超えた存在であり本来の姿は生身の人間ではつかみきれない。仏像などで表される人型の姿はそれを見る人間に理解できるように分かりやすい姿で現れている、というものである。


「食べ物とて人と同じ感覚で味わってみねば、本当に美味いかどうか分からぬじゃろうが」


「はあ」


 ちょっと感心していたところへ随分と俗な理由を追加されて、マリコは少々呆れ気味の返事をした。


「それはそうと、女神様は掃除なんかに力を使いたくはないんでしょう?」


 マリコは明後日のほうにそれそうになった会話を元に戻した。昨日の話し振りから女神は掃除に限らずなるべく自らの力を使いたくないように思えたのだが、それが何故かまではマリコにも分からない。


「うむ」


「でも物理的に身体を動かすのは別に問題ないんですよね」


「それはまあそうじゃな」


「なら掃除くらいはしましょうよ。女神様の部屋がこんなだと皆が知ったら何と思われるか」


「そのようなこと知れるわけが……。はっ、よもやおぬし、喋るつもりか」


 マリコの物言いに不穏なものを感じた女神は思わずマリコの顔を見た。ここでのことは他言無用という約束である。


「いやですねえ。そんな女神様の部屋はどうだった、なんて言う気はありませんよ。ただ……」


「ただ?」


「私の出合った月と風の女神様はずいぶんと女子力が低そうな方だったと……」


 神々と出合った話は多くはないが十分あり得る。具体的な話をしなければ約束を破ることにはならないのである。


「余計悪いわ。女子力が低いなどと聞かされたら何を想像するか分かったものではないじゃろうが。そんな噂を流されてたまるものか。ええい、そのホウキを渡すのじゃ」


 その後、マリコは女神と共に清めの儀(おそうじ)を行った。掃除に関しては特にスキルがあるわけでもないマリコである。そのマリコから見る分には、女神の手際は決して悪いものではなかった。

女神様はやればできる子。


誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。


※とびらの様の「下ネタ短編企画」に発作的に参加しました。ひどい短編を上げております(汗)。

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