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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
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199 酒の勢い 12

 マリコが鎮静(カーム)を使ってバルトを落ち着かせたくだりの辺りまでは一同も茶々を入れたり相槌を打ったりしながら普通に話を聞いていた。しかし、話が進むに従って段々と口数が減っていく。やがてマリコが話し終えた時にはもはや誰も言葉を発しなくなっていた。


「……ええと、一つ確認しておくけど、バルトはマリコさんの恋人のフリをするっていうことに同意したのね?」


「えー、はい」


「そう。うーん、どう思う?」


 しばらくの沈黙の後、代表するように口を開いたカリーネにマリコが答えると、カリーネは残る三人に話を振った。トルステンは腕組みをしたままカリーネを見返すと片方の眉だけをヒョイと上げ、ミカエラはお手上げと言うように両手を肩の高さに掲げ、サンドラは元々やや下がった目をさらに眠そうにしながらコテンと首を傾げる。


 それらの仕草にどういう意味があるのかマリコには分からなかったが、何らかの意思疎通は行われたものらしい。三人を順繰りに見回したカリーネはマリコに向き直った。


「本人がいいって言うんならそれでいいんじゃないかしら」


「ええっ!?」


 予想外のカリーネの言葉に、マリコは驚きの声を上げた。


「もちろん、酔っててまともに判断できていないってことも有り得るでしょうから、明日の朝になってバルトがどう言うか聞いてみないと確定はできないけど」


「い、いやそれはまずいんじゃないでしょうか」


「あら? どうして?」


「だって、ミカエラさんとサンドラさんのお気持ちが……」


 カリーネに応えながら、マリコはミカエラたちの方へと目を向ける。すると二人のややキョトンとしたような表情と出くわすことになった。


「あたしたちの……」


「気持ち?」


 二人はお互いに顔を見合わせた後、少し不思議そうな顔を再びマリコに向けた。


「え、ええと、ここで私がこういうことを口に出していいものかどうか分からないんですが、お二人は、ええとその、バルトさんのことを……」


「へ?」


「え?」


 好いているのではないですか、というところまで言い切る前に、ミカエラたち二人は驚いたような声を上げてもう一度顔を見合わせる。


「サンちゃん、そうなの?」


「まさか。ミカちゃんこそ」


「ないない。だって、ねえ」


「だよねえ」


 短く言葉を交わすと二人して頷き合う。今度はマリコの方がキョトンとする番だった。


「え? だってお二人は……」


 マリコは自分が聞きかじったことを思い出す。意外にもというべきか当然というべきか、バルトは女性陣にも人気がある。ミカエラとサンドラが傍にいて牽制し合っているからこそバルトに直接アタックする者がいなかったのではなかったか。もっとも、それをすっかり忘れてバルトを引きずっていってしまったのだが。


「うん。もちろんバルトのことは好きだよ。サンちゃんもね」


 ミカエラの言葉にサンドラも頷く。


「でも、それは男として好きっていうんじゃないんだよね。だってバルトはあたしのお……お兄ちゃん、みたいなもんだから」


「バルトはお兄ちゃん……。ぷふ」


「はいサンちゃん、そこで笑わない。だってそうでしょ?」


「まあ、そうだね。恋愛の対象としては見られないよね」


 お兄ちゃんと言った時に恥ずかしそうにしたことを除いて、二人の話振りはマリコの目には嘘を言っているようには見えなかった。バルトたち五人は同郷だと言っていたはずである。年齢も近く、いわゆる幼馴染同士なのだろう。マリコ自身にはそういう相手は特にいなかったのでそういった関係がどういうものなのかは分からない。そんなこともあるのかとしか思い様がなかった。


「だから、マリコさんがバルトと付き合うっていうんなら、あたしたちは応援するよ」


「いやいや、本当に付き合うという話ではなくてですね」


「それは分かってるって。でも恋人役を頼んでもいいって思えるくらいなんだから、その先があってもおかしくないじゃない?」


「あ、いや、それは……」


「マリコ殿!?」


 とんでもない方向へ話を進めるミカエラにさらに言い返そうとしたマリコの言葉は、別の声によって遮られた。ギョッとしたマリコがそちらを見ると、隣のテーブルに――恐らくは酔い潰れて――突っ伏していたはずのミランダがむくりと起き上がるところだった。


 身体を起こしたミランダはキョロキョロと辺りを見回してマリコを認めると、ガタンとイスを鳴らしてふらりと立ち上がる。心配そうに手を貸そうとするアドレーたちを置いて危なげな足取りでマリコに近付くと、もたれ掛かるように両手でマリコの肩をつかんだ。思わずその身体を支えるように手を出したマリコはミランダを抱きとめるような形になる。


「マリコ殿! マリコ殿はバルト殿と結婚されるのか!?」


「はあ!?」


「それであんな事やこんな事を致した挙句に子供をポンポン産んで剣も手放してしまわれて貫禄満点のご婦人になってしまわれると言われるか!?」


「ちょ、ちょっとミランダさん!?」


 脳内でいかなる妄想が駆け巡ったのか、これまたとんでもなく先走った、しかし微妙にリアルな未来予想図を展開したミランダは何とか身体を起こすとマリコの顔を見上げた。


「マリコ殿、早まらないで欲しい」


「え、あ、はい」


「貴殿は私の目標なのだ。剣を捨てて家庭に入るなどと悲しい事を言わないでいただきたい。今マリコ殿が去ってしまわれたら私は一体何を追えばよいのだ」


「ミランダさん……」


「我らはまだ若い。そこまで急がれずともよいではないか」


 ミランダはそういうとマリコの肩に顔を(うず)めた。


「若い?」


 一方のマリコはミランダが何気なく発した言葉の一つに、目からウロコが落ちる感覚を味わっていた。


(そうですね。今の私は若いんですよね。ここへ来る前の五十手前でも、子供をどうするかと唸っていた四十前でもないんです。落ち着いて考えればいいんですよね)


 恋人云々はともかく、結婚や子供については今すぐどうこうしなければならない問題ではないのである。現在の自分の年齢を改めて自覚したことで、女神と会ったことで生じた悩みというか焦りの一つがマリコの中でゆっくりと溶けていった。

ミカ・サンペアがバルトにくっついているのは、そうやって警戒しないとバルトが事あるごとに女の子とぶつかったり女の子を助けたりしてややこしいことになるからです(笑)。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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