020 世界の始まり 17
「それにね、実際昔いたらしいんだよ。全然違うところから神様に連れてこられたらしいって言われてた人がね」
「えっ!?」
(他にも私と同じような人がいたっていうのか)
「まあ、ずいぶん昔のことだから、どこまで本当なのかは分からないけどね。周りの誰も知らないような事を知っていたり、それまで無かった物を作ったりしたそうだよ」
驚くマリコをよそに、タリアはあっさりとそう言った。
「それに、あんたのことに神様が何か関わってるって思ったのは、それだけが理由じゃあないんでね」
タリアはそう言いながら席を立って、先ほど眺めていた手紙らしき紙と、何かの本を手にして戻ってきた。
「これは、隣の門に住んでる知り合いに出すつもりだった手紙なんだよ。読んでごらん」
意味ありげな笑みを浮かべたタリアが差し出した手紙を、マリコは受け取って開いた。日本語で横書きに書かれたその手紙には、時候のあいさつや近況に続いて、サニアが懐妊したことで手が足りなくなりそうなこと、穴埋めができそうな娘を募って寄越して欲しいことなどが書かれていた。
(あれ? さっき皆で話している時にタリアさんはもう手配したみたいに言ってたはずだ。なのにこの手紙は出すつもりだったって、つまり出してないってことだ。これはどういうことだ?)
読み終えたマリコが顔を上げると、マリコを見ていたらしいタリアと目が合った。
「これは一体……」
「ああ、まだ出してないというか、出せなかった手紙さね。さっきサニアと話してたとおり、三人目ができたって分かった時に、じゃあ住み込みの娘を増やそうかって話になってね、私は早速その手紙を書いた。でも出せなかったのさね」
「それは、どうしてですか」
「さあねえ。とにかくそれを出すつもりで封をしようとすると、なんでかいちいち邪魔が入ってできなかったんだよ。サニアやアリアが呼びに来たり、私に客が来たり。一つ一つは特に何でもないいつものことだったから、私も初めはなんとも思ってなかったんだがね、さすがに何度も続くと不思議でね。これはどういうことだろうって思ってたところへ、その格好のあんたが連れて来られたんだよ」
そう言うと、タリアはマリコから返された手紙を折り畳んだ。
「では、私は……」
「ああ、一通り話を聞いたところで、こりゃあ神様に連れて来られた訳ありの奴だって思ったね」
「はあ」
「さっきも言ったろう? 私も昔、火の女神様に会ったって。私とうちの人も神様達に振り回されてここまで来たんだ。あんたも似たようなもんだろうって思ったんだよ」
(じゃあ。タリアさんは初めから神様絡みの話だって思ってたのか。でも、この世界の神様ってのは一体……)
「まあいいさね。とりあえず最前線と宿屋の話を始めるよ」
「は?」
考え込んだマリコをしばらく黙って見ていたタリアが口を開いた。いきなり話が飛んで、マリコは目を白黒させた。
「なんだい、忘れたのかい? さっき、後で叩き込んであげるって言ったろう」
「いえ、まあ、覚えてます」
「だからまずその辺の話をするから、それを聞いてからまた考えな。その上で言いたいことがあるんなら聞かせてもらうよ。ああ、言えないんなら無理に言わなくてもいいんだからね。そういう条件をつけてくる神様もいるんだから」
「はい」
(タリアさんは私が神様にどこか遠くから連れてこられたと考えた上で、ここの事情を教えてくれようとしてるのか。何かを口止めされてるわけじゃない。いっそタリアさんに話して相談に乗ってもらった方がいいのかもしれない。でも何て話すんだ? こんな無茶苦茶な話)
「話ったってまずはこれかね。多分今のあんたが知りたいだろうことが、これに最低限書いてあると思うよ。それを読んでもらった方が早いし、前提が分からないんじゃ最前線の話もできないからね」
タリアは手紙と一緒に持ってきた本をローテーブルに置くと、マリコの方に押し出した。それはA5サイズくらいの大きさの、和綴じにされた薄い二冊の小冊子だった。
「『世界の始まり』と『神々からの贈り物――アイテムボックスと転移門――』ですか」
「『世界の始まり』からかね。そっちには神様のことが書いてあるから」
「神様……」
(この世界の、神様のこと)
それは正に今のマリコが知りたいことだった。マリコは本を開いて読み始めた。
誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。
2014/12/25 「019」~「026」を構成変更。




