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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
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197 酒の勢い 10

 さて、一方のバルトには一体何が起きたのか。


 脱ぐから向こうを向けと言う言葉に従って、バルトはマリコに背を向けた。しばらくそのまま立ち尽くしていたものの、後ろから聞こえてくる衣擦れの音にふとあることを思いつく。


(ああ、酔いも回っていることだし、自分も寝ることにするか)


 装備をはずしてアイテムボックスに仕舞い込み下着姿になった頃には背後の衣擦れも途絶えていたが、バルトは振り返ることなく自分のベッドに上がる。律儀にマリコに背を向けたままシーツを被って目を閉じようとしたところで、マリコがすうすうと穏やかな寝息を立て始めた。それを耳にしたバルトの目がパチリと開く。


(何をやってるんだ、俺は)


 腹立たしさを感じながら、バルトはゴロリと身体を半回転させてマリコに目をやった。向こう側の壁に向って横たわるマリコに巻き付いた白いシーツは、肩から足元へと身体の線に沿って優美に波打つカーブを描いている。バルトはむくりと起き上がると床に足を下ろした。そのままゆっくりと立ち上がる。一旦は散らされた煩悩が、再び集まろうとしていた。


(千載一遇のチャンスじゃないか)


 部屋の左右に分かれて置かれているとはいえ、二つのベッドの間はほんの数歩の距離である。バルトはゴクリと唾を飲み込むと一歩踏み出した。その途端、高まりかけていた熱が溶けるように散っていく。落ち着きを取り戻したバルトは踏み出した足を戻すとベッドに腰を下ろした。


(眠っている相手に何をしようというんだ俺は)


 鎮静(カーム)が効果を発揮していた。


 悟りきった表情で反省しつつマリコを見守っていると、当のマリコはコロリと身体を倒して仰向けになった。シーツに覆われていてなお隠し切れない量感を持った双丘が回転に追随してゆさりと波打つ。図らずもそれを目撃したバルトの胸にまたしても煩悩の火が灯り、意を決して立ち上がった。しかし、一歩踏み出したところでその火はあっけなく吹き消される。


 その後しばらく、マリコが身動きする、バルトが立ち上がる、鎮静化、というルーチンを繰り返した。興奮が一定水準を上回ると鎮静(カーム)の効果が現れるようである。


(うおぉおおお、燃え上がれ俺の煩悩(コスモ)よ!)


 何度目かの挑戦でバルトは地団太を踏んで己を高めようとしたが、あっという間に鎮火させられる。マリコが思い切り魔力をぶちこんだ鎮静(カーム)はこの程度では途切れないようだった。


「うぅん……」


 さすがにその音が響いたか、マリコが小さくうなされて転がった。蹴り飛ばされたシーツが捲くれ上がり、伸びやかな脚が十分なボリュームを備えた太股の付け根近くまで曝け出される。バルトは一瞬目を見開いた後、ふうとため息を吐いた。


「仕方ないな」


 そのままあっさりとマリコのベッドに近付くとその身体を上掛けで覆う。シーツはマリコが抱え込んでしまって取れそうになかった。欲望を滾らせなければ鎮静(カーム)に引き止められることもない。幸せそうなマリコの寝顔を見てふっと頬を緩ませ、その頭をすっと一撫でした後自分のベッドに戻る。


「あせってもどうにもならんな。寝よ」


 何となく何かに勝ったような気分になったバルトはシーツに(くる)まって目を閉じた。じきにこちらも穏やかな寝息を立て始める。その穏やかさは、マリコが潜り込んできて夢の中で再びルーチンを繰り返し始めるまで続いた。


 ◇


 窓の外はまだ暗く、時計を持っていないマリコには今何時なのかがよく分からなかった。眠ったおかげで少しはすっきりしたものの、頭と身体にはまだアルコールの感覚が残っている。ということは、丸一日以上寝ていたなどというわけではなく精々数時間経っただけなのだろうとマリコは思った。


 そっと扉を開けて廊下に出たマリコは決壊寸前だった貯水池を手洗いでゆる抜きした後、来た道を戻りかけたところでハッとして足を止めた。


(いやいや、何を普通にバルトさんの部屋に戻ろうとしてるんだ)


 マリコは(きびす)を返すと階段の方へと歩き出した。目が覚めた以上、バルトの部屋に戻る理由がない。目指すべきは一階にある自分の部屋である。階段に着いたマリコは忍び足のまま階段をそろそろと降りていく。できることなら誰にも見つかりたくはなかった。どんな顔をして何と言えばいいのか。


 一階に近付いても食堂の喧噪は聞こえなかった。やはりそれなりの時間が経っているらしい。しかし、一階の階段はカウンター横の壁際にあり、宿泊客がいる日には夜でもカウンターが無人になることはない。マリコはさらに足音を殺して階段を降りた。


「あっ、マリコさん!」


「ひっ」


 だが、マリコの願いは叶わなかった。食堂に残っていた者たちの目は、始めから階段に向けられていたのだ。足音がしようとしまいと関係なかった。二十余の瞳に曝されたマリコに顔に血が上がってくる。


「確保だ、確保!」


「何もしてませんから!」


「その辺は後で聞きます!」


 逃げ出す間もなく、マリコはバルト(パーティー)の面々を中心とした一団に捕獲された。

どうしようか迷ったのですが、書いておかないと状況が分かりづらそうなのでバルト編です。

やっぱりいい目を見ているのかどうかよく分からないバルトさん(笑)。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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