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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
187/502

186 女神の間 8

「またいきなり話が飛びましたね」


 記憶が転生が世界がと来て、今度は神様である。マリコは目まいを通り越して頭痛を感じ始めた。


「まあ、そう呆れた顔をするでない。ここから始めぬことには説明しづらいからの。おぬし、彼の世界で語られておる神々のほとんどは人が創り出したものじゃということは知っておろう?」


「それは、まあ」


 身近な者の死を経験したことで、かつてマリコは――多くの者がそうするように――神仏や宗教について考えたことがある。そして、少しまともに調べたところで分かったことはというと、どの宗教も基本的に目的は同じだということだった。


 それは「人として幸せに生きていく」ということである。元々人は一人では存在できないので、これは「皆で人として幸せに生きていく」ということでもあった。逆に言えば、「あなただけ(・・)が幸せになるには」などと言うのは既に宗教でさえない。それは単なる詐欺ということになる。


 ではその「皆で人として幸せに生きていく」という目的のためにはどうすればいいのか、という手段がいわゆる教義である。どの宗教でも殺すな盗むなといった似たような戒律やら規則やらがあるのはこのためだった。何せ目的が同じなのだ。そこに至るための手段も当然似たような物になる。あとはそれぞれの宗教が成立した時の周囲の環境などによって若干の差ができてくるのだった。


 ただし、これが同じ人間の考え出したことだとしてしまうと「そんなの知るか」という人が出てくるし、教義の内容によっては漏れる人も出てくる。それらを押さえたり掬い上げたりするためには人知を超えた存在が必要になる。それが神や死後の世界の概念なのだとマリコはとらえていた。手段としての教義が伝わって目的が達せられるなら神が本当にいるのかどうかは問題ではないのだ。


「おぬしの考えで概ね間違ってはおらぬ。じゃが、創られたにせよ何にせよ神は存在する。わしのようにな」


「え? あ!」


 マリコの考えを読んだかのように言う女神――実際には読むまでもなく知っているのだろうが――に、マリコは今さらながら思い至った。女神ハーウェイはゲーム上で設定された創作神話の女神である。言ってしまえば架空の神なのだ。猫耳付きに姿を変えているとは言え、それがどうして目の前に立っているのか。


(それともハーウェイ様の方が変身した姿で、こっちが本来の身体なのか?)


 マリコの疑問の表情を見て、女神は悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「今はこの(なり)じゃが、ハーウェイの方が本体じゃぞ?」


 銀の毛に覆われた耳をピコピコ動かしながらそんなことを言う。


「それは一体どういう……」


「人は、いや人だけではないの。意識のあるものは全て、大なり小なり己の望みを叶える力を持っておる。そして、その力に応じて日々その望みを叶えたり叶えられなかったりしながら暮らしておるのじゃ」


「望みを、叶える?」


「そうじゃ。簡単なところで言えば、例えばおぬしが腹を空かせておったとする。何か食べたいと望む。皿の上にパンが一つあったので食べた。そうするとほれ、望みは叶ったじゃろ?」


「それはまあそうですけど」


「では次じゃ。一つしかないパンを二人が望んだとする。競合(コンフリクト)したわけじゃな。どういう経緯になるかはともかくじゃが、望みを叶える力の強い方がパンを手にして望みを叶えることになる」


「それと女神様が実際にいることとどういう関係があるんですか」


 いきなり始まった例え話にマリコは目を白黒させた。


「神も同じじゃ。先のパンよりは力が要るがの。在って欲しい、在るのが当たり前と望まれれば、神も在ることになる。複数の者が同じ望みを競合(コンフリクト)せずに抱いたら、望みを叶える力は積み重なっていく。もうちっと分かりやすく言えば、信仰心がたくさん集まれば、神は顕現するのじゃ」


「ゲームの神様に信仰心も何もないでしょう」


「そうかの? わしの存在を当然と受け入れねばゲームができんのじゃぞ? 彼のゲームのプレイヤーは全てわしの信者じゃ。強さで言えば実在の宗教に向けられるほどの信仰心ではないかもしれんがの」


「そんなことで架空の神様が本物の神様になれるんですか」


「言ったじゃろう、複数の者の同じ望みは積み重なるのじゃ。彼のゲームにログインした者がどれだけいたと思っておる」


 公式HPに登録ID何百万突破とかいう文字が書かれていたのをマリコは思い出した。一人で複数のアカウントを取る者やIDだけ取ってプレイしなかった者もいるだろうが、ログインした者の数で言えば少なく見ても十万単位にはなるだろう。


「二千年ほど前にインドや中東で教祖の周りに集まった者はそれより多かったとでも思うかの?」


 猫耳女神は腰に手を当てて自慢気にふんぞり返る。


「じゃあ、本当に神様として現れてたっていうんですか!?」


「いや」


 思わず聞いたマリコの言葉に、ふんぞり返っていた女神は一転肩を落とした。


「彼の世界の(ことわり)に弾かれたわ。わしは創造神じゃからの。既にある世界に顕現なぞしたら、それだけでえらい矛盾じゃ」


「弾かれたって、それからどうなったんですか」


「聞くまでもなかろう。己の属性に従って創造したのじゃ、世界をの。まあ、そういったわけでわしは彼の世界の存在を知っておるのじゃ。手を出すわけには行かぬから見ることしかできんがの。故に彼の世界には元からの神はおらぬと判断しておる。もちろんわしにも見つけられぬ神がおるという可能性もないわけではないがの、存在を知られておらぬ神では信仰心も得られぬ故、何かができるとも考えにくいの」


「じゃあ、他にも世界があるはずっていうのは……」


「ああそうじゃ。同じように彼の世界から弾かれた神は当然おるじゃろう。理屈で考えてもわしだけのはずがない」


「はー」


 マリコはため息とも感心ともつかない息を吐き出した。女神の言う通りなら無数の世界があってもおかしくないのである。頭ではなんとなく理解できるものの、スケールが大きすぎて実感が伴わない。


「そういうわけじゃからの、他の者には内緒じゃぞ。もっとも彼の世界の存在を知っておる者以外にはチンプンカンプンじゃろうがの」


「そりゃそうでしょう」


 自分でも消化不良なのだ。異世界だの何だのという概念を持たない者に話しても困らせるだけであろうことは容易に想像がついた。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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