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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
185/502

184 女神の間 6

「……今のは?」


 ゆっくりと十数えるほどの沈黙の後、暗くなったモニターを見つめていたマリコは顔を上げて女神を振り返った。女神はマリコの視線を受け止めるとくるりと身体の向きを変え、パソコンデスクに腰を預けるようにもたれ掛かると座っているマリコの顔を改めて見返した。


「おぬしの思っている通りじゃ、……とそれで済ませてしまうのはさすがにずるいかの。ああ、おぬしの考えは正しい。今見せたのが、()の世界で実際に起こったことじゃ」


「では、あの日ログインした私は……」


「うむ、ログインした時点から今のおぬし、否、今のおぬしの元じゃな。おぬしはこの世界(ここ)で彼のゲーム(せかい)の終焉を向かえ、新たな世界へ行くことを選んで今のおぬしになったのじゃ。この机もモニターもそのイスも、その時使った小道具の残りということじゃな」


 猫耳女神はパソコンデスクにもたれたまま、液晶モニターの縁を撫でながらそう言った。


「なんだってそんなややこしいことをしたんですか」


「何故じゃと? おぬしも見たじゃろう、彼の者を。久方ぶりに既知と出会い語らい、そしてそれ故に彼のゲーム(せかい)と「マリコ」の終焉を受け入れてしもうた彼の者を。挙句に生への執着まで手放してしもうた彼の者を」


「いや、それは」


 意外に強い口調で言う女神にマリコは言い淀んだ。()の結末はマリコにとってはある程度予想されたものだったのだ。時折脈が飛ぶようになったのも昨日今日のことではなかったが、病院に行こうとも思わなかった。一人取り残されてからというもの、ただ一つのことを除いて何もかもがどうでもよかったのだ。


 生への執着など元から無かったと言ってもいい。ただ、ゲーム(せかい)の終わりと共にというのが案外早かったなとマリコには思えた。


「彼の者とおぬしの差は些細なものじゃ。じゃが、彼の者の「マリコ」への執着はあそこで途切れてしもうた。一方のおぬしはどうじゃ?」


 問われてマリコは考え込んだ。


(何となく、としか言い様がないんだけど、諦め切ってはいなかった気がする。心のどこかで終わりを受け入れたくなくて、何の根拠もないけどそこへ行けば何かが始まるような気がして、それで始まりの村へ向かった……?)


 サービス終了自体は既に決まっていたことである。思い返してみても、マリコには「何となく」以上の理由を見つけることはできなかった。


「どっちがマシ、というレベルかも知れぬがの、「マリコ」を任せるなら今のおぬしの元の方がいいとわしには思えたんじゃがの」


「任せる……」


「そうじゃ。ゲーム上での存在であった「マリコ」を実在のマリコとして生かすのじゃ。より「マリコ」を思っておる方がいいに決まっておるじゃろう」


「それは、確かにそうなんでしょうけど」


 「マリコ」に対する思いいれ、という点で考えるならそれでもいいだろうとはマリコも思う。ただし、問題は記憶の中身である。


「なんじゃ、コピーじゃと言うたことを気にしておるのか? 確かにおぬしの記憶の元は彼の者じゃがの。今はそれだけではないじゃろうが」


「え?」


「新たな世界へ行くことを選んで今のおぬしになった、とも言うたじゃろう。マリコとしてこの地に下りた時点で、彼の者の記憶以外の事柄もいろいろと頭に入っておるはずじゃが、どうじゃ?」


()の記憶以外の事柄?」


「思いつかぬか。ではヒントをやろう。おぬしは今日まであの里で、何をして過ごしてきたのじゃ?」


(自分がしてきたこと……、そりゃあ宿の仕事やなんかで、料理とか狩りとか……ん? あ)


「もしかして、スキルですか」


 「マリコ」の能力ではあるが、現実で使う方法などなかったはずのスキルや魔法。それらに関する知識は確かに以前の自分にはなかったはずのものである。思い返せば、そうした知識がいつの間にか増えていて、どこまでが元からのものなのか分からないと思った覚えがあるのだ。


「そうじゃ。そうした事柄も含めて今のおぬしができあがっておる。それにの、便宜上彼の者の記憶とかコピーとか言っておるが、元々その彼の者の記憶自体、あちこちで少しずつコピーした記憶(データ)の集合体であろうが」


「は?」


 女神の言うことについていけず、マリコは目を瞬かせる。


「おぬしが今わしと話しておるこの言葉は一から自分で作り出したものか? 違うであろう? 既にあった他者の記憶(データ)を、時間を掛けていろいろなところでコピーしては積み上げたものであろう? 他の事に関しても同じじゃということは分かるであろう?」


「そういう言い方をすれば確かにそうなんですけど」


「今のおぬしは、たまたま最初に彼の者という一カ所でまとめて多くの記憶(データ)を手に入れた、ということに過ぎぬ。これより先、さらに多くの記憶(データ)のコピーを手にするじゃろう。それでもなお、自分は彼の者のコピーじゃと考え続けるかの?」


 極論だとは思うものの、マリコは女神の言い分を否定しきることができなかった。随分と細かい、ある種デジタルな考え方だなあとも思う。


「そこでじゃ」


 マリコが黙ったままでいると、女神はさらに口を開いた。


「改めて聞くがの。今のおぬしは、一体誰じゃ。ついでに聞き直してやろう。これからどうしたいのじゃ」


 女神がまたパチンと指を鳴らすと、マリコの前に見覚えのある二つの選択肢が表示された。否、以前とは少しだけ違っている。そこには「新たな世界に留まる」と「このまま消え去る」の文字が点滅していた。

ややこしい話で申し訳ないです(汗)。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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