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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
182/502

181 女神の間 3

「ふむ、なるほどの」


「えっ!? 何がですか」


 マリコが何か言う前に女神が納得したように頷いたので、マリコはつい聞き返した。


「それはおぬしが元々持っておった服ではないのう。ということは、それなりに楽しめておるということのようじゃの」


 女神は腰に手を当てて一度マリコの顔を見上げ、そこから改めて足元までずいっと視線を下ろし、またずいいっと顔まで戻すともう一度頷いてそう言った。確かに、今マリコが着ているのは始めに着ていたロングのメイド服ではない。宿屋で(あつら)えてもらったミニバージョンの方である。


「い、いや、これは……」


「ぬ? そうような服を手に入れて着ておるのじゃ。その姿での生活に馴染めておるのではないのかの?」


 膝よりかなり上にあるスカートの裾に目を向けて首をかしげる女神に、マリコは何となくその辺りを手で押さえる。やむを得ず慣らされた感はあるものの、好き好んでミニスカートを穿いているわけではないのだ。そうまじまじと見られると、さすがにマリコでも少々恥ずかしい。


「はて? 分からぬ事や困った事があればわしに会いにここへ来るじゃろうと思っておったのじゃが。うまくやれておったから今まで来なかったというわけではないのじゃろうか?」


「え? 困ったらここへ、来る?」


「そうじゃ」


 マリコにしてみれば転移門の側で目覚めた時から分からない事だらけだった。慣れない身体と訳の分からない状況に右往左往した日々を思い出す。今の結果だけ見ればうまくやったと言えないこともないだろうが、それは身体が持っていた能力と何よりタリアを始めとした里の人たちのおかげだった。


 何がどうなっているのか誰かに聞けるものなら聞きたかった、というのがマリコの本音である。ゲームの最後に聞いた、次に会えるのは向こうでという女神ハーウェイの言葉が、まさかここへ来いという話だったとは、マリコは思ってもみなかった。


「どうやってここへ来ればいいのか分からないのに、来られるわけがないじゃないですか!」


「おかしなことを言う奴じゃの。おぬし現に今、こうして来ておるでは……ん?」


 言いかけた言葉を途中で止めた女神はマリコから視線をそらし、何かを探るような表情を見せた。じきに何かに気付いてあっという顔をする。


「なんじゃ、レベルリセットじゃと? おぬし、そんなルートでここへ来たのか。なるほど、道理で……」


「そうですよ。たまたまレベルアップしてその選択肢が出たから、それでやっとここに来られたんです」


「何もそんな手間を掛けずとも、ここに来る方法もちゃんと載っておったじゃろうに」


「載ってたって、一体どこにですか!」


「どこにじゃと? おぬし、何を言っておるのじゃ」


「女神様こそ、何を言ってるんですか」


 ポンポン言い合っていた二人はお互いの言うことの意味が分からず、怪訝そうな顔で見つめ合う。数秒が流れ、額に指先を当てながら女神が口を開いた。


「あー、どうも話が噛み合わぬことよの。ふむ。のうマリコよ。おぬしに二、三聞きたいことがあるのじゃが、構わぬか?」


「何でしょう?」


「おぬし、ここへ来る方法も知らず、それがどこに記してあるかも知らぬのじゃな?」


「ええと、はい、そうです」


「ふむ。では次じゃ。おぬし、メニュー(・・・・)の開き方は分かっておるか?」


「え? メニューですか?」


 マリコは思わず聞き返した。ハーウェイの姿も持つこの女神の口から出た以上、メニューという言葉は食堂のお品書きのことであるはずがない。ゲームにおける「メニュー画面」のことである。もちろん、今のマリコには分からない。この世界で目覚めてからいろいろと試しはしたものの、未だに開いたことはないのだった。


「そうじゃ、メニューじゃ」


「いえ、分かりません……」


「なるほどの。……大体分かったわ。おぬし、同意書をきちんと読まなんだじゃろう」


「ど、同意書!?」


 いきなり出てきた、思ってもみなかった言葉にマリコは目を瞬かせた。


「使用許諾同意書じゃ。こちらへ来る前に、おぬしそれに同意したじゃろう」


「え? ああ! あれ!」


 言われてマリコも思い出した。ゲームの最後、「新たな世界へ行く」の選択肢を選んだ後に表示されたものである。いつもであればあの手の同意書も一応軽く目を通していたマリコだったが、あの時はゲームのサービス終了と共に消えるはずだった「マリコ」が消えずに済むならと、それだけを考えていた。故にろくに中身を見ることなく「同意する」を押したのだ。


「そう、それじゃ。ふむ、問題はそれじゃったか」


 女神はそう言うと腕を組み、目を閉じて黙り込んだ。


 ◇


「あ、あの、女神様?」


 女神が沈黙して優に一分以上が経ち、さすがに黙っていられなくなったマリコは声を掛けた。それでも女神は黙ったままで、さらにしばらくしてようやく顔を上げた。


「ふう。いずれにせよ、このままというわけにもいかぬか」


 ため息を一つついてそう言うと、女神はマリコに顔を向けた。


「今さらじゃが立ち話もなんじゃ。あそこへでも腰を下ろそうかの」


 女神はそう言うとベッドを指差し、そちらへとスタスタと歩いて行った。さっきまで女神自身が寝転がっていたベッドである。ほんの数メートルとは言え、置いていかれそうになったマリコはあわてて後に続いた。さっさとベッドの端に腰掛けた女神の隣、少し間を置いてマリコも腰を下ろす。


「さて、メニューの開け方じゃがの」


「はい」


「左右どちらでもよい、手で首のチョーカーに触れよ」


「はい」


 女神の言葉に従ってマリコは右手を首に当てる。


「その状態で「メニュー」じゃ。無理に声に出さずともよい」


「そんなやり方だったんですか」


 教えられてしまうとひどく簡単である。しかし、何とか開けられないものかと試した時にも、さすがにチョーカーに触りながらメニューというのはマリコもやっていなかった。


「とにかくやってみよ」


「分かりました。ええと、メニュー」


 出さなくていいとは言われたものの、マリコはそう口にした。その途端、目の前にウィンドウが広がる。それはゲームの中で散々見たメニューウィンドウそのものに、マリコには見えた。メニューを開いた時に表示されるのはステータスのページであり、「名前:マリコ」や「年齢:十九歳」といった見覚えのある文字や数字が見える。ウィンドウの端にはスキルや設定など他のページに切り替えるためのタブも並んでいる。


「そのページの一番下にあるじゃろう。同意書のボタンが」


「はい」


 言われてマリコも思い出した。ステータスページの下の端に「使用許諾同意書を見る」という、四角い枠で囲まれたボタンがある。


「押してみよ」


 マリコはそれを押した。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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