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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
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149 裏方のお仕事 5

 風呂の構造自体はマリコの記憶にあるものとさほど差は無い。小さい頃家にあった、外からガスで沸かす風呂が大きくなっただけである。湯船の奥側には金属の部分があり、その裏側で火が焚かれる。もちろん、入る人が直接触って火傷をしないように、金属部分は隙間を開けた板で囲われていた。


 ブラシでゴシゴシこすっては水で流していく。掃除スキルというものはさすがにゲームにも無かったので、特に何かスキルが発動するようなこともなく、風呂場の掃除は普通に終わった。


 次は湯船に水を張るのだが、これもポンプの出番である。さっきは湯船の湯を吸い上げていたパイプから、今度は井戸から汲み上げられた水が流れ出てくる。このサイズの湯船を満たすだけの量を人力で汲むとなったら大変だなと、パイプからジャバジャバと出る水を見ながらマリコは思った。


「しばらく掛かるから、今の内に魔力を補給する」


 ポンプの操作をマリコに見せていたエリーが振り返って言う。


「魔力? ああ洗濯機ですか」


「ん」


 ここの機械類は魔力で動いている。その魔力の供給源として使われているのが魔晶であり、機械を動かせば当然魔晶に蓄えられた魔力は減っていくので補給してやる必要があるのだ。


 マリコを従えたエリーは洗濯機の前に屈みこむと、その正面の板をパカリとはずした。そこにはマリコがタリアに見せてもらった物より大きな魔晶が、縦横に列を作って何個も並べてはめ込まれているのが見える。個々の魔晶はまだ真っ白にはなっていないものの、白く曇りかかった半透明になっていた。それだけ魔力を使ったということである。


(単一乾電池サイズ……。多分、これが一型なんだな。それがこんなに)


 縦に六個並んだ魔晶の列が四列ある。乾電池と同じように見るなら、六個繋がった直列が並列に四列分ということになろう。洗濯機一台で魔晶が二十四個。そして、洗濯機は一台だけではないのだ。


「これ、一つずつ補給……あ、いや、確かまとめてできるんですよね」


 疑問を口にしかけたマリコだったが、途中でタリアの話を思い出した。あの時は冷蔵庫の話だったはずだが、洗濯機でも同じことだろう。


「ん。ここからやる。見てて」


 魔晶の列の近く、エリーが指差したところに指先ほどの大きさの突起が二つ並んでいる。エリーは一度立ち上がるとイスを持ってきて腰掛け、二つの突起に両手の人差し指をそれぞれ当てた。


「んっ」


 エリーが小さく力むような声を上げた。隣に立って見ているマリコにも、エリーの身体に力が入ったのが分かる。そのまましばらくすると、魔晶の曇りが段々と薄くなり始めた。


「ふう。終わり」


 さらに数分後、エリーは一つ息をついて手を離した。並んだ魔晶は全部、ほとんど透明になっている。魔力が十分蓄えられた証である。


「次、やってみる?」


「やってみます」


 マリコはエリーと同じようにイスを取ってくると、隣の洗濯機の前に陣取った。今度はエリーが横に立って見ている。板をはずして突起に指を当てると、途端に指先に流れ込もうとする魔力の圧力を感じた。それは魔晶一個に魔力補給をした時よりずっと強い。


(ああ、なるほど。電池を直列に繋いであるようなものなんだな)


 流れて来ようとする力を押し返すように魔力を込めていく。どのくらいの力加減でやればいいのかは魔晶一個の時と同じようにすぐ分かった。じきに魔晶の曇りが薄まり始める。隣に立つエリーがわずかに目をみはるが、前を向いて座ったマリコからは見えなかった。


(もう少し早くやっても大丈夫そうだな)


 感触をつかんだマリコは魔力を押し込む圧力と速度を上げていく。やり過ぎると魔晶にダメージを与える場合があり得ることも感じ取れたので、そこまで行かないように注意しながら魔力を注ぎ込む。結果として、わずか一分ほどで魔晶は輝きを取り戻した。


「すごい」


 エリーはそう言うとマリコを見た。


「マリコさん、魔法も得意?」


「え。ええと」


 問われて、マリコは少し返事に困った。ゲームの「マリコ」であれば回復系魔法を中心にそこそこの魔法を使うことができたのだが、今現在それらがどこまで使えるのか分からないのである。その内試してみようとは思っているものの、今のところ魔法を使う機会があまりないのだった。


 うかつに攻撃魔法を使うと危ないことは先日の火矢(ファイアボルト)で分かっている。では回復系ならどうかというと、こちらは怪我人や病人が出なければそもそも用がない。ゲームには無かった灯り(ライト)浄化(ピュリフィケーション)の方がはるかに出番が多い。ゲームの魔法って日常生活ではあんまり使いどころがないよね、というのが今のマリコの本音である。


「魔力が多くて扱いが上手くないとあんな風にはできない。私だとさっきの程度でも結構疲れる」


「魔力の多さと扱いですか」


 これも返事に困る話だった。ゲームの「マリコ」はもちろんスキルやレベルのおかげでそこそこ多い魔力量を備えている。しかし、ゲームの中に限って言えば「上には上がいる」状態であったので、マリコ自身は自分の魔力が特に多いとか扱いが格別上手いといった感覚ではないのだった。ただ、料理や狩りの経験からすれば、魔法に関してもどうやらマリコは「上の方」に分類されるようである。


(実際、今の補給でも自分の魔力がそんなにすごく減ったっていう感じはしないんだよなあ)


 エリーと少し魔法についての話をした後、残った洗濯機に魔力を注ぎながらマリコは思った。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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