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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
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142 燻製作り 1

 翌朝、例によってミランダに起こされたマリコは、ミランダと共に部屋を出た。ただし、行き先は運動場ではなく厨房である。何故かというと今日の朝練はお休みだからである。もう上がりはしたものの、昨夜の雨で地面がぬかるんでいるからだ。


 まだ薄暗い廊下を、灯り(ライト)のかかったカップを掲げて二人は歩いていく。


「本当ならそういう足元が悪い条件での鍛錬も必要ではあるのだが、さすがに宿の仕事の前に泥まみれになるのはまずかろうということになってな」


「それはそうでしょう」


 いくら浄化(ピュリフィケーション)や風呂があるとはいえ限度はある、ということらしい。昨夜、雨が降っていた時点でマリコは朝練中止を告げられていた。それならちょうどいいと、マリコはとあることをするためにミランダに起こしてもらったのだった。


「故にそういう鍛錬は雨降りの休みの日か、川岸へ出掛けていって行うことにしている。濡れても構わない服装でな」


 宿屋の北側には川があるのだとミランダは言う。思い返してみれば宿の敷地内にも田畑があり、水路も設けられている。水を引き込んでいる以上、その水源が近くにあるのは当然のことだった。


「熱心ですねえ」


他人事(ひとごと)のように言わないでいただきたい。付き合ってくださるのであろう?」


 厨房の入り口前で立ち止まったミランダは小首をかしげてマリコを見た。数センチの身長差から微妙に上目遣いになったその顔の上で猫耳がピョコリと動き、スカートの裾からのぞくしっぽがゆらりと揺れる。


「う。ま、まあ、できることは教えるって約束ですからね」


「おお、ありがたい。その折にはよろしくご教授願いたい」


 ミランダの猫耳しっぽ攻撃にマリコはあえなく屈した。狙ってやってるわけではないところがマリコが勝てない所以である。


「まあ、いずれにせよ、濡れても風邪を引かぬよう、もう少し夏が近づいてからのことだがな」


 マリコから言質を取ったミランダは、嬉しそうにそう締めくくった。


 ◇


「それでマリコ殿、こんな朝早くから何を始めるおつもりか」


 無人の厨房へと入ったところでミランダが聞いた。


「燻製ですよ、燻製。一昨日漬けたオオカミの」


 いくつかのランプに灯り(ライト)を点けて回りながら、マリコは答える。


「ああ。一日漬ければいいと申されていたやつだな」


「ええ。燻製自体も結構時間が掛かりますし、うまくいくかどうかもやってみないと分かりませんから、早めに取り掛かろうと思ったんですよ」


「なるほど、承知した」


「道具や手順は一応サニアさんに聞いてあるんですけど、ミランダさんのご経験は?」


「手伝ったことはある故、何をするかは大体分かる。宿屋(ここ)にオオカミが持ち込まれるのは茶飯事だからな。しかしながら、細かい加減などになるとさすがに手に余る」


「では、まずは……」


 二人は手分けして準備を始めた。家庭レベルの量ではないので、主な作業場はまた中庭である。石組みのかまどの傍に厨房から作業台を引っ張り出し、かまどの上に燻製器を据える。


 燻製器は畳一枚くらいの大きさの板を四枚組み合わせて上にフタを付けた縦長の箱型で、手前の面の板が外れるようになっている。中には左右同じ高さに設けられた棚受けが何段分も張り出していて、そこに材料を載せた金網を掛け渡して下から(いぶ)すのである。


 この燻製器を二つ準備しておいて、それぞれ下のかまどに炭火を起こす。火起こしをミランダに任せたマリコは冷蔵庫から一昨日漬けた桶を引っ張り出した。そこから二、三枚取り出した薄切り肉を一度布巾で挟んで余分な漬け込み液を切ると、次に厨房からフライパンを持ってくる。


「今から燻製であろう? フライパンなどどうなさるのだ」


「焼いて味見するんです。燻すと水気が飛んで味が濃くなりますから、焼いてみて塩辛過ぎないくらいでないとまずいんですよ」


「ああ、なるほど。そういえば塩漬けの物は燻す前に塩抜きをしていたな」


「漬ける時間が短いのと液がそこまで塩辛くありませんから、これは塩抜きしていませんからね」


 マリコはそう説明すると、ミランダが起こした火にフライパンを掛けた。


 ◇


「一昨日焼いて食べた物よりは大分マシだが、それでもわざわざ食べようという味ではないな」


 焼いた漬け置き肉を食べた、ミランダの感想である。


「それは当然そうでしょうね。これだけで十分おいしくなるなら、今までにもうこのやり方で焼いて食べているでしょうから。これでも足りないから燻製なんですよ」


「それは確かにその通りだな」


「まあ、味付けの濃さは大丈夫みたいですから、これで行きましょう」


「ああそうか。元々味の濃さを確かめるのであったな」


 普通に味見してしまった、とミランダは頭を掻いた。


 ともあれ、作業を進めても大丈夫そうだということは確認できた。二人は準備した金網に汁気をふき取った肉をどんどん並べていく。一メートル角近い金網一杯に薄切り肉が並んだら、それを燻製器に入れて次の金網である。二人が肉を並べ終えた頃には、タリアたちや朝番の者たちが顔を見せる時刻になっていた。


「まだ炭火だけだが、いいのかマリコ殿」


「ええ、とりあえず加熱と乾燥ですから。このまま、棚の場所を入れ替えながら二、三時間掛けて、燻すのはそれからですね」


「毎度のことながら、時間の掛かることだな」


 二人は香ばしい匂いを漂わせ始めた大きな箱を並んで見上げるのだった。

燻製とか言いながら、ひっそりと水着回フラグらしきものを立てたような気が(笑)。

いつ回収できるかは未定です(汗)。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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