141 昼下がりの宿屋 4
ちょっと短めです。
艶やかな紫の髪を飾るヘッドドレスに、レースに縁取られた袖口から伸びた二の腕。エプロンの腰紐でキュッと絞られたウエストが、双丘に押し上げられた胸元と短めのスカートに包まれた腰回りの豊かさを強調する。膝上までを覆う白いストッキングとスカートの裾との間からのぞく柔らかくも張りのある太股――いわゆる絶対領域――の正面と脇を、ガーターベルトから伸びた白いリボンが縦断していた。
(どこのラノベかエロゲのメイドさんか)
手鏡を持つ手を伸ばして己の姿を映し見たマリコは、そう思ってひっそりとため息をついた。ゲームキャラである「マリコ」の時にはデフォルメされたアニメっぽい顔だったので、今の服を着せても単に可愛いで済んでいた。しかし、今のマリコは現実の顔と身体を持っており、その顔つきは可愛いというより美人という方が相応しい系統である。そんなマリコのミニスカートメイド服姿は、可愛いを通り越してむしろ扇情的に見えているのではないかとマリコは思った。
「さすがマリコさん、そういうのも似合うわねえ」
「脚が見えていると大分印象が変わるものだな」
「ん」
「思った通りですね!」
ところがマリコの予想とは違って、四人の口からは否定的な感想が出てこなかった。
(やっぱり、女の人だと見るところが違うんだろうか)
「でも、さすがにちょっと短めだから、裾には気をつけないといけないわね」
マリコが考えていると、サニアが口を開いた。パニエのおかげで末広がりに開いたスカートの裾は真下に垂らした場合より若干高い位置にあり、マリコの足を隠すのにはあまり役に立っていない。元の服が持っていた防御力が無くなったことに加えて、立っているとスカートの布地が全く足に触れないということもあり、マリコ自身も頼りなく感じていたところである。
知らぬ間にパンツ丸出し、などということは男の感覚で言っても避けたい事態である。サニアの指示に従って、マリコは服に気をつけながら立ったりしゃがんだりを何度か繰り返した。座る際に後ろに手を回して裾をお尻に敷きこむ、といったことはこれまでもやっていたことなので特に問題ない。気をつけるべきなのはやはりその長さ――というか短さ――である。
(ふむ、何となく分かってきたような気がする)
裾を気にしながらの立ち座りを反復した結果、マリコは自分の服が今どういう状態になっているかを把握できるようになってきた。ただそれはよりくわしくということで、実際にはこれまでも無意識にやっていたことなのだろうとも思える。そうでなければ、先ほどまで着ていた長い方でもっといろいろなものを引っ掛けていただろう。
そこからさらにマリコは服の状態を把握しながら身体を動かしてみた。スカートの裾がめくれることを計算に入れながら動くのである。そしてそれもある程度はできそうだった。慣れて使いこなせるようになれば、裾を翻すことなく身体を動かせるようになるだろう。もちろん、素の状態のマリコにできることではない。おそらく「マリコ」が持っていたスキルのどれかが影響しているのだろうとマリコは思った。
「とりあえず明日、洗濯した方の服が返ってくればこんなこと考えなくても済むんですけどね」
「明日はまだ無理だと思うわよ」
「え?」
サニアの言葉にマリコは思わずサニアを見返した。
「だって、さっきから雨なんですもの。洗濯場にロープ張って干してあると思うけど、明日の朝までに乾くのは難しいと思うわよ」
マリコたちが風呂に入っている間に降り出したということだった。小雨だからじきに上がるだろうけど、とサニアは付け足した。
◇
内臓を使った料理には、新鮮な材料が手に入った時にしか出されない物がある。その夜、そうした料理を目当てにやってきた里の者たちはマリコの姿を見てさらに仲間を呼び、食堂は予想外の人出で賑わうことになった。
しかし、厨房に給仕にと駆け回っていたマリコは、一部の予想――というか願望――を裏切って最後まで転びも座り込みもせず、そのスカートの中を衆目にさらすことはなかった。
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