表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
141/502

140 昼下がりの宿屋 3

「まあ、さしたる問題ではないな」


「えっ!?」


 マリコは思わず、一言に斬って捨てたミランダの顔を見た。


「何をそのように驚いた顔をされる。確かに、もし今ここにいるのがマリコ殿一人であったなら、どうしたものかと悩まれるところであろう。しかしながら、実際には我らがいるということを忘れてもらっては困る。誰かが先に出て、サニア殿から貴殿の服を受け取ってくればよいだけのことではないか」


「あ」


 ミランダの言葉にマリコが思わず声を上げると、並んで湯に浸かっているエリーたちも揃って頷いている。


「もしサニア殿がすぐに見つからなかったとしてもだ。その時には私がマリコ殿の部屋まで行って代わりの服を持ってくれば済む話だ。昨日購入されたあの服は部屋なのであろう?」


「え、ええ」


「故に、さしたる問題ではないと言うのだ」


「ミランダさん……」


 一人暮らしがそれなりに長くなってきていたマリコは、当然ながら大抵のことは自分一人でなんとかする癖がついていた。万一落としたり無くしたりした時に困らないよう、家の鍵や車のキーは常に予備を――当然二カ所に分けて――持ち歩くようにしていたくらいである。


 そのため、誰かに何かしてもらうということがすぐに頭に浮かばなかったのだ。だが、思い返してみれば当たり前のことで、こちらへ来てからは特にタリアやサニアにはいろいろしてもらってばかりなのである。


(仲間がいるというのはなんと得難いことなのだろう)


 タリア一家やミランダなど一つ屋根の下で共に暮らしているのだから、むしろ家族と呼んでもおかしくないのかもしれない。マリコは一人ではないということをしみじみと有り難く思った。


 ◇


「あ、出てきたわね」


「えっ!?」


 マリコたち四人がある種の連帯感に包まれて浴室を出ると、意外なことに脱衣所(そこ)にはサニアが待っていた。


「……どうして皆そこで驚いた顔をするのよ」


「い、いや、ちょうど中で、サニア殿を探しに行かねばならぬと言っていたところであった故な……」


 皆を代表して、ミランダがかいつまんで先ほどの話を繰り返した。


「ああ、そうだったの。でもいくら私でもそれくらいは分かってるわよ。だからこうやって戻ってきたんじゃない。それよりほら、皆いつまで裸でいるつもり?」


「「「「あ」」」」


 それぞれが下着――今回のマリコは白地に紺の横縞の上下である――を着け、マリコは白の膝上丈ストッキングを穿いていつものようにガーターベルトで吊った。その後、お互いに各種便利魔法を使い合って髪を乾かしていく。


「それでサニアさん、私の服なんですが」


「ああそうね。ええと、まずはこれね」


 そのサニアにブラシを入れられていたマリコが聞くと、サニアは見覚えのある風呂敷包みを取り出して机の上に置くと、そこから一着の服を引っ張り出した。シュミーズのような薄手の生地だが丈は短めで肩は紐状になっている。いわゆるキャミソールであった。


 現代日本では最近普通になった、シャツのように上に着ていいタイプではなく、服の下に着るデザインのものである。上にメイド服を着ることが分かっているので、マリコはそれを素直に身に着けた。


「はい、次はこれ」


「え? パニエですか?」


「そうよ。ミランダも着けてるでしょう?」


「そういえばそうですね」


 ミランダの服にパニエが入っていることはマリコも知っている。今もマリコの隣でメイド服を着込む前に着けていた。これまで自分が着ていたものには無かったというだけである。宿支給の服はパニエが入ることになっているのかな、などと思いながらもマリコは受け取ったそれを腰に巻いた。折り畳まれたやや芯のあるレース生地が腰から下に向けて放射状に広がり、それだけでもミニスカートを着けているように見える。


「じゃあ次、じゃじゃん!」


 サニアは口で効果音を付けながら、風呂敷から黒い服を取り出して両手で掲げて見せた。


「えっ!?」


 それを見たマリコは思わず声を上げた。


「あら、どうしたの?」


「あの……、新しい服って、それ……なんですか?」


「そうよ。さっき見せたじゃない」


 狩りから戻ってすぐのカウンターで、マリコは確かにその服を見た。ただ、その時見えたのは襟元と肩口辺りまでだけだったはずである。そこだけ見るとマリコが先ほどまで着ていたメイド服とそっくりなのだ。


「ほら、もうじき暑くなるでしょう? 涼しそうなデザインにしてみたんだけど、どうかしら」


 黒い生地に白い襟、膨らんだ肩。そこまでは元の服と同じである。ただ、袖はそこまでしかなく、その半袖の袖口には白いレースのフリルがあしらわれていた。裾もシンプルだった元の物とは違って黒のレースに縁取られ、その下からはさらに白レースのフリルがのぞいている。そして、何よりも違う点。


「それ、短くありませんか?」


 サニアが掲げる服のその襟からスカートの裾までの丈は、元のロングのメイド服の半分くらいしかないようにマリコには見えた。


「そうかしら? それほどでもないと思うけど。あとは、これとこれと……」


 メイド服を机の上に広げて置いたサニアは、エプロン、リボン、ヘッドドレスと並べていく。リボンだけは元の服の物と同じような感じだったが、エプロンは服に合わせて短く、当然のようにこれもフリル多目だった。ヘッドドレスに至っては、メイドというよりむしろゴスロリ衣装の雰囲気を漂わせている。


「こ、これは……」


 マリコの額に冷や汗が浮かぶ。サニアが掲げて見せた黒いメイド服を目にした時からもしやとは思っていた。だが、こうして並べられた物を見てマリコは確信した。このセットは「マリコ」の半袖ミニスカートタイプメイド服にそっくりなのだ。


 マリコが固まっていると、着替え終えたミランダたちも集まってきた。


「おお、これがマリコ殿の新しい服か」


「ん」


「おー」


「あ、ミランダさん、ちょうどいいところへ。私の部屋からあの服を持ってきてくれませんか」


 先ほどの会話を思い出し、マリコは仲間を頼った。


「ん? 何故(なにゆえ)だ。サニア殿もおられたし、服もあった。それもマリコ殿によく似合いそうではないか」


「ん。可愛い」


「私も絶対似合うと思います!」


 しかし、誰も助けてくれそうになかった。


(似合うかどうかだけで言ったら、似合うってことは私が一番よく知ってます!)


 ミニスカタイプメイド服を着た「マリコ」は大層可愛らしく、その衣装はお気に入りの一つだったのだ。だが、自分がそれを着ることになるなど、想定外もいいところである。マリコは声にならない悲鳴を上げた。


 結局、今のマリコに選択の余地は無く、期待の籠った八つの瞳に見守られながらその衣装を身にまとった。最後にリボンを結びながらマリコは思う。


(仲間が常に味方とは限らない……ううっ)

問題は服がないことではなく、そこにある服そのもののことでした(笑)。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=289034638&s

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ