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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第一章 世界の始まり
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014 世界の始まり 11

「あの、ちょっと待ってください。いいんですか、それで」


「ん? なんだい?」


 あまりの展開の速さに、マリコはストップをかけた。


「いえ、こんな、正体も分からないようなのを雇うって……」


「ふん。じゃあ聞くけどね。あんた、これからどうするつもりだったんだい?」


「それは……」


 マリコは答えようがなかった。何が起きているのかも分からないのに、何をどうするかなど考えようがない。


「私としちゃあね、本人は分からないって言ってるが状況としてはうちの頼みで来た人らしい、実際の腕は見てみないと分からないにしても話を聞く限りじゃ使い物になりそうだ、悪さをしそうにも見えない、とくれば、とりあえず押さえておいて損にはならないだろう? それともあんた、何か悪さをするつもりなのかい?」


「いえ、そんなつもりは、ありませんけど……」


「じゃあいいじゃないか。仕事だろうがなんだろうが最前線(フロンティア)で何かしようとすんなら、どっちにしろ一度は宿屋(うち)に来ることになるんだ」


「その最前線(フロンティア)と宿屋なんですが……」


「そんなとこまで分からなくなってるのかい。ああ、もうその辺も後で叩き込み直してあげるよ。仕事云々はともかく、とりあえずあんたはうちで預かるから。そんなんでこの辺をうろつかれても、結局うちの手間が増えるだけなんだからね。いいかい。わかったね!」


「はあ……」


 タリアの凄まじい勢いにマリコは頷くしかなかった。反論しようにも手札が無さ過ぎて糸口さえつかめない。ふと周りを見回すと、サニアは可笑しそうに、カミルは気の毒そうに、アリアは嬉しそうに、それぞれマリコを見ていた。


「じゃあ、おねえちゃんはうちに住むの?」


 話が決まったと思ったらしいアリアが、タリアにそう聞いた。


「そうだよ。住み込み用の部屋も今は結構空きがあるしね」


「わあ、やったあ」


(なんでかアリアに懐かれてるな。そういえば、姪っ子達が小さい頃もこんな感じだったよなあ)


 マリコは話の流れに半ば呆然としながら、隣で無邪気に喜んでいるアリアを見て、オンラインRPGがやりたいと言い出して自分を巻き込んだ双子の姪達の、さらに幼かった頃を思い出した。


(あの子らに付き合ってゲームを始めてなかったら、この「マリコ」はいなかったんだよな)


「さてと、これで一応話は終わりだね」


 マリコが黙ったので、反論なしとみなしたのか、タリアが場を締めにかかった。


「ああ、マリコさん、あんたとはもうちょっと話をしとこう。サニアは表に戻りな。ついでにこの娘の部屋の手配もね。カミル、さっさと飯食って仕事に戻んな。犬に任せっきりなんだろ。アリアもお昼がまだなんだって? だったらカミルと一緒に……」


グゥウウウウウ


 矢継ぎ早に指示を出し始めたタリアの声を遮って、音が響いた。腰を上げかけていた皆は一瞬動きを止めて、一斉に音が聞こえた方を向いた。


「……」


 そ知らぬ顔で座っているマリコがいた。


(なんてタイミングで鳴るんだ。これじゃ催促してるみたいじゃないか。確かにゲームが終わるのに気を取られてたし、あれは昼ちょうどだったから昼ご飯はまだなんだけど、っていやいや、それは元の身体の事であってマリコのことじゃないんだから……ええと、とにかくスルーだスルー)


グゥウウウウ、ウゥウゥ


(なっ!?)


 マリコの内心に抗議するように、再びお腹が鳴った。今度は皆が見ている前である。タリアが片方の眉を上げ、他の三人が目を丸くする。


「その、これはっ」


キュウルルルルゥ


「ちょっ」


 マリコはあわてて自分のお腹を押さえた。顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。


キュウウウ


「……」


 遂に顔を上げていられなくなった。お腹を押さえたまま拳を握りしめる。


「ぷっ、くくく……はっはっはっ」


 耐えられなくなったように、タリアが笑い出した。アリアはきょとんとしており、サニアは口元を両手で覆って笑いをこらえている。カミルは顔を背けて肩を震わせていた。


「くっくっ。話は後回しだね。サニア、一緒に行ってこの娘の分も出しておやり。アリアも一緒に食べておいで。マリコさん、食べ終わってからまたここへおいで。話の続きはそれからだ。いいね」


「はい……」


(穴があったら入りたいとはこのことだ……)


 タリアに優しくそう言われ、マリコはうつむいたままそう答えるしかなかった。


「さて、じゃあ皆、行った行った」


 促されてマリコが立ち上がると、アリアがまた手を繋いできた。マリコがなんとか笑顔を取り繕ってアリアに向けると、アリアはニコリと笑った。


(本当に昔の姪っ子達を見てるみたいだな)


 四人が扉に向かうと、脇に立っていたミランダが扉を開けてくれる。マリコが会釈しながら前を通り過ぎると、ミランダは何かとても不思議なものを見るような顔でマリコを見ていた。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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