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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
128/502

127 出発 3

 ウィンドウに表示された、この世界の物と思われる地図。それはマリコの記憶にあるゲーム世界のそれとは全く違うものだった。片隅に小さく描かれた、上向きの一方向に矢印のついた十字マークだけがゲームと同じである。


 地図の上半分は大陸の一部らしき陸地で占められ、下半分は海のようだった。陸地には山脈や川、湖なども描かれている。縮尺やスケールが書かれていないので正確な大きさは不明だが、海にはかなり大きな島――もしくは別の大陸――が一つあり、大陸と島に挟まれて内海のようになった所にも小さな島がいくつか見えていた。


 そして、地図の各所に点在する丸印。二、三十個ほど見えるそれらのうち、大陸の一番右にある一つだけがゆっくりと点滅していた。


「同行者を一人選ぶことができます」


 いきなり頭の中に声が響いてマリコは一瞬驚いたが、タリアに見せてもらった本の通りだということを思い出した。声に少し遅れて「選ぶ」と「選ばない」の選択肢が浮かび上がって点滅する。今は必要ないと、マリコは「選ばない」に手を伸ばしかけたが、実際に手を出す前に「選ばない」の方がキラリと光り、選択肢は二つとも消えてしまった。


(考えて決めるだけでいいってことだろうか)


 先ほどのアドレーやバルトの様子を思い出すと、視線は動いていたが手は動かしていなかったはずである。マリコは自分の考えはおそらく正しいのだろうと思った。


「行き先を決めてください」


 次の声が聞こえてマリコは地図に視線を戻した。始めに右端で点滅している丸印に目を向けると、「ナザール(現在地)」と印の上に文字が浮かぶ。次に地図のほぼ中央で四角形を作っている四つの印のうち一番海に近い一つに目を向けた。すると「ヒューマン」の文字が浮かび上がる。他の三つに視線を移すと、順に「アニマ」、「エルフ」、「ドワーフ」と浮かんだ。


(これが始めの四つの門か。やっぱり真ん中にあるんだな)


 丸印は四つの門を中心に各地に広がるように点在しており、大きな島にもいくつかあり、小さな島にも印のあるものがあった。マリコはその中のいくつかに次々と目を向けてみたが、それらのどれもでその門の物らしき名前が浮かんだ。


 途中何度か、ある程度同じ印に目を向け続けていると「この門に向かいますか」と声がして「はい」と「いいえ」の選択肢が出ることがあった。転移門での移動には結構魔力を使うと聞いていたマリコは、その度にいいえと考えることでキャンセルし、ミランダに言った通り実際に移動することはなかった。


(行けないならまだいいけど、行ったけど今日は帰れませんじゃ困るからな)


 向こうがどんなところかも分からず頼れるあてもないのでは、さすがに準備もなしに今すぐ試してみるわけにはいかなかった。マリコは一旦地図から視線をはずして目を閉じる。


(これが全部、行ける転移門ということなのか。まあ、遠いところだと魔力が足りなくて行けないこともあるっていう話だから、全部直接行けるわけじゃないんだろうけど。でも本当にここの門は東の端なんだな)


「移動をやめますか」


 マリコが考えていると、しばらくどこも見なかったからか、また頭の中に声が響いて「はい」と「いいえ」の選択肢が出た。マリコがはいを選ぶと地図ウィンドウは消えた。


「どうであった?」


 マリコの様子から操作を終えたのが分かったのだろう。ミランダが早速声を掛けてきた。


「え? はい、使えるみたいです。それで……」


 そこまで言いかけた時、マリコはあることにハタと気付いて言葉を途中で止めた。行ったことがなければそこには行けないのが転移門である。そもそも全部で何ケ所の門が存在するのかを知らなかったし、いくつくらいの転移門に行けるのが普通なのか、ということも知らないということに気が付いたのだ。


 ゲームなら、そこそこプレイしていればほとんどの門に行ける様になっているのが普通だったが、それを現実に置き換えると「俺は世界中を旅した」と言うようなものである。さすがにそれは普通ではないだろうとマリコには思えた。できることなら、また常識はずれなことを口にしてミランダを驚かすのは避けたかったのである。


「それで?」


「ええと、それでですね……」


 マリコはどう言うべきかを急いで考える。


「行ける門はいくつかありましたので、特に困ることは無さそうです」


「おお、四つの門の向こう側も?」


「えー、はい」


 さすがにあからさまな嘘を付きたくはなかったので、マリコは否定しなかった。


「さすがはマリコ殿だな。私なぞ、四つの門とこことの間にある門以外だと、アニマの国の近くのいくつかに行った事があるくらいだ」


「そうなんですか」


 相槌を打ちながら、マリコは内心冷や汗をかいていた。ナザールの里まで旅してきたはずのミランダでさえその程度である。二十も三十も行ける先があるというのは、やはり普通ではなさそうだった。


「まあ、マリコ殿であれば、全部の転移門に行けると言われても驚かぬがな」


「まさか……、ハハ」


 乾いた笑い声を上げながら、早いうちにタリアに聞いてみようとマリコは心に誓った。


「さて、用も済んだことだし、戻ろう。準備して野豚狩りだ」


「そうですね。付き合ってくださってありがとうございました」


「何を言われるか。こちらこそ今から付き合ってもらうのだ」


 他の見送りの者はもう戻って行ったようで、転移門の近くにはもう二人しか残っていなかった。二人は笑い合うと、宿の方へと歩き出した。


「それで、野豚を狩るというのは……」


「まず野豚というのはだな……」


 よく晴れた空の下、黒いメイド服のマリコと深緑のメイド服のミランダが、金色の麦の穂の波間を話しながら歩いていく。


 後には、無言で見送る転移門だけが残された。

何だか日常系作品の最終回っぽい引きに(笑)。

ちゃんと続きますので!

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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