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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
124/502

124 手合せ 4

 半ば偶然に助けられてバルトの蹴りを避けることのできたマリコは、驚きつつも着地と同時に再度地面を蹴ってバク転する。もちろん、バルトから一旦距離を取るためである。


 右手には木刀があるため左手一本で体重を支えることになったが、マリコの身体はそれに難なく応えてくれた。黒いスカートと白いエプロンの裾が振られた旗のようになびく。後方へと回転しながらマリコは今起こった出来事について考えていた。


現実(・・)はゲームとは違う、ということか)


 ゲームでは剣を持ったまま蹴りを繰り出すことなどできなかった。と言うより、「蹴り」という行動自体が、特定の格闘系スキルを使わないと出せなかった。剣関係のスキルが剣を持っていないと使えないのと同様に、格闘系スキルは無手、あるいは格闘用の篭手を装備していないと発動できない。


 剣で戦っていた状態から蹴りを出すには、装備の入れ替えを行って格闘系スキルが出せる状態にしてやる必要があったのだ。逆に言えば、格闘系スキルの一部にのみ、蹴るモーショングラフィックが用意されていたとも言える。


 そして当然ながら、現実にそんな制限は存在しない。木刀を持っていようと蹴りは出せるし、木刀を握ったその拳で殴ることも可能なのだ。バルトの回し蹴りは、マリコにそんな当たり前のことを思い出させてくれた。


(ミランダさんが剣技しか使わなかったのは、それだけ剣にこだわりがあるからなんだろうな)


 これまでにマリコが体験した戦いはミランダとの手合せだけだった。この二つの違いにマリコは思いを巡らせる。


(今のこれが探検者(エクスプローラー)の、と言うより、実践的な戦い方ということか)


 マリコの左手は身体が空中にある間に木刀に当てられ、着地した時にはもう中段の構えを取っていた。マリコがバルトに目を向けると、こちらも蹴りの回転を終えると同時に構えている。


 二人の視線が再びぶつかり合った。バルトは驚いたと言うより、どこか焦ったような表情でマリコを見ていた。激しい動から一転しての静に、ギャラリーからどよめくような感嘆の声が上がる。


(蹴りをかわされて驚いたって顔じゃないな)


「行くぞ」


 マリコの疑問をよそにバルトの表情はすぐに元に戻った。鋭い目つきがマリコを捉え、掛け声と共に再び地を蹴ってマリコに迫る。マリコは考えを頭から振り払って迎え撃った。


 突き、切り、払い。バルトが次々に繰り出す剣技を、マリコはほぼ的確に受け、かわし、時に止めた。しかし、二人の刀が噛み合って止まる時、バルトは足技や拳を使ってくる。そして、その格闘技は時にマリコの身体をかすめた。


 何故いきなり格闘系の技を出さないのかと、マリコは一瞬疑問に思ったがすぐに思い直した。これは考えてみれば当たり前で、相手の武器が「生きている」時に手足を出せば即座に叩き切られてしまうからである。剣での戦いの最中に手足の技を出すなら、動きの隙を突くなり相手の剣を押さえるなりの条件が必要なのだった。


 バルトの格闘技に対しては、マリコも腕や足を使って何とか対応したが、そこにはややぎこちなさが伴っていた。ゲームには無かった戦い方である、というのももちろんある。だが、それだけではなかった。


(他でもないこの私自身が、この身体と今の現実の戦いにそこまで慣れていないということか)


 しかし、それも時間の問題だった。バルトとの手合せを続けるうちに、マリコは急速に戦いに慣れていったのだ。マリコのぎこちなさが徐々に薄れるに従って、バルトの技がマリコの身体をかすめる回数も減っていった。


 剣の技や格闘の技、それらをゲームでいうところのスキルレベルに置き換えて考えるなら、マリコとバルトのスキルレベル差はさほど大きくはないようにマリコには思えた。しかし、近接戦闘以外のスキルの習得によって上昇したり、レベルリセットの際に一部が持ち越されたりする能力値の合計、即ち筋力や敏捷度といった基本的な身体能力には結構な差があるようだった。


 やがて、打ち込みに行ったバルトの木刀が、ミランダの時と同じように宙を舞う。


「そこまで!」


 カランと音を立てて木刀が地に落ちるのと同時にタリアの声が手合せの終了を告げる。一瞬の静寂の後、運動場に歓声と怒号が響き渡った。


 ◇


(つ、疲れた……)


 マリコは今、温かい湯にその身体を沈めている。湯が十分に温かいのは、人が集まった時点で追い炊きの指示を出していたタリアのおかげである。


――付き合ってくれてありがとう。また相手をしてもらえるだろうか。


 あの後、意外にあっさりとバルトが引き下がった後、マリコを待っていたのは我も我もと手合せを希望する人の群れだった。タリアが一喝してくれなかったら、今もまだ運動場で木刀を振っていたことだろう。


 それでも、トルステンとミカエラ、アドレー(パーティー)の面々とは、タリアの勧めもあって手合せをしてきた。盾を使うトルステンは見た目の通り防御重視、二本の短剣を使うミカエラはスピードと手数で勝負するスタイルである。マリコはミランダにしたのと同様に問題点を見つける方向で戦い、気付いたことを伝えた。


 アドレー達については、なんと五人がかりでマリコと対戦してそれでも一蹴され、傍で見ていたミランダに散々に言われていた。ただ、もっとああしろこうしろとミランダに言われるアドレーはなんとなく満足そうに見えた。


「マリコさん、ごめんなさいね」


 掛けられた声にマリコがそちらを向くと、カリーネ達が湯船に入ってくるところだった。カリーネとサンドラは近接戦闘がメインではないということで今回は手合せをしていない。


「バルトには昨夜よく言って聞かせておいたから」


 湯に丸い波紋を広げながら澄ました顔で言うカリーネの後ろで、ミカエラとサンドラがなんとも言えない表情をしている。


「いえ、誤解というか言い間違いだったっていうのは分かりましたから」


 バルトは一体何を言い聞かせられたのかと、ミカエラ達の顔を見てなんとなくバルトが気の毒に思えるマリコだった。

相変わらず地味、そして風呂オチ(笑)。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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