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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
110/502

110 風呂場にて 1 ★

「僕も用意してくる……」


「ハザールさん、大丈夫ですか?」


「うん……。ちょっとまだふらふらするけど」


 揺さ振られたダメージからなんとか回復したハザールがおぼつかない足取りで姉の後を追って行ってしばらく後、奥の部屋の扉が再び開いて二人が出てきた。厚めのシャツにスカート、長ズボンという服装はそのままだが、よく見ると足元だけがサンダルに履き変わっている。桶の上に着替えらしき畳まれた衣服を乗せて持っているハザールと比べて、アリアはアイテムボックスに入れたらしく何も持っていなかった。


「さ、行こう、おねえちゃん!」


「ねえちゃん……」


 妙にテンションの高いアリアと割りと冷静なハザールの対比が、マリコにはなんだか可笑しかった。


「では、行きましょうか……あ」


「どうなされた、マリコ殿」


「私達も寝巻きや履物を取ってこないといけませんよね?」


 アリア達のサンダルを見てマリコは言った。マリコのサンダルは今朝部屋で脱いだままになっているし、着替えの残りは風呂敷包みごと押入れに入っている。


「ん? 服は今のままで問題ない、というか今のままの方がいいと思うぞ?」


「え? お風呂上りに寝巻きに着替えないんですか?」


 昨日の事を思い出してマリコがそう言うと、ミランダは目を瞬かせた。


「マリコ殿。風呂から上がってこの子らを部屋に送ったら、我等は夕食を摂りにまた厨房へ戻るのだぞ。寝巻きで行かれるおつもりか」


「あ」


 入浴ということでなんとなくそういう気になっていたマリコは、昨日との違いにやっと気が付いた。まだ昨日より早い時間なのだ。この分だとまだ客が残っているかも知れない時間に厨房へ戻ることになる。寝巻き姿で行くのはさすがにおかしいだろう。


「マリコ殿が皆の目を楽しませてやろうというのであれば敢えて止めはせぬが、私は付き合わんぞ」


「いや、そんなつもりはありませんから。ちょっと勘違いしてただけなんですからいじめないでください」


(一人だけ寝巻き姿とか、何の罰ゲームだ)


「ふふ。まあ、どちらにせよ下着類の替えは必要故、途中で部屋には寄らねばならぬことには変わりないな」


「そうですね」


 二人は頷き合うとアリア達を連れて部屋を出た。幸い、マリコ達の部屋は風呂場に行くのに通る廊下の途中にある。それぞれ着替えを取りに寄った後、四人は風呂場へと向かった。


 風呂場に繋がる渡り廊下へ出ると外はもうすっかり暗くなっていた。正面に見える風呂場の引き戸の障子が内側からの明かりを受けて白く光っている。さして長くもない渡り廊下には明かりが無かったが、障子越しの光のおかげで歩くのに困るようなことはなかった。障子に浮かび上がった「ゆ」の字を見て、マリコはなんとなくホッとしたような気分になる。その「ゆ」の字の目の前まで進むと、それをガラリと引き開けた。


「……し、せ……で……ぞ」


「あ……、……えのっ」


 扉をくぐって土間に入ると、「男」と染め抜かれた青い暖簾(のれん)の掛かった右側の引き戸の奥から男性の声がかすかに聞こえてきた。


「あっ、バルト兄ちゃん達だ」


 その声を聞いたハザールは嬉しそうな声を上げ、タタッとマリコの脇をすり抜けて前へ出るとサンダルを蹴り脱いで板の間へと上がった。そのまま青い暖簾に駆け寄っていく。


「ハザールさん、履物はちゃんと仕舞わないと……」


 目の前で宙を舞うサンダルを見咎めたマリコが、土間に落ちたそれを拾おうと身をかがめた時、入り口の前に駆け寄ったハザールが引き戸を勢いよく引き開けた。


「バルト兄ちゃん!」


「ハッ!」


「フンッ!」


 いきなり聞こえた掛け声につられて、マリコはサンダルに伸ばしかけていた手を止めてふと顔を上げた。視線を遮るはずであった暖簾はハザールによって引き戸と共につかまれて斜めに引かれ、本来の役目を果たしていなかった。


 マリコの目に、二人の姿が映し出された。


 向かい合わせに、ボディービルで言うところのダブルバイセップスのポーズ。両腕を上げて力こぶを作り、全身の筋肉を見せつけている。


 こちらに背を向けているトルステン。しゃがみ込んだマリコのちょうど目の高さにある大殿筋がよく鍛えられて美しい。


 こちらを向いているバルト。しゃがみ込んだマリコのちょうど目の高さに……マリコが驚くようなものは何もなかった。


 ただ、納得と共にマリコは思った。


挿絵(By みてみん)


(金色……)


 実際には数秒にも満たない、しかし永劫とも思える静寂は、それを作り出した者によって破られた。


「ねえちゃん、僕バルト兄ちゃん達と入る」


 固まっていたバルトはギクシャクと後ろを向いた。ようやく目を背ける場面であったということに気がついたマリコは視線を床へと落とし、何故か勝手に頬に血が上ってくるのを感じて不思議に思った。


 顔だけ振り返って状況を把握したトルステンはゆっくりと腕を下ろし、密かにため息を一つつくと口を開いた。


「ほら、ハザール君。一緒に入るのでいいから早くこっちへ入って戸を閉めるか、せめて暖簾から手を離してやってくれ。バルトが泣きそうになってる」


「誰が泣くか!」


 バルトの泣きそうな声が響いた。

今度は早々に風呂場に到着できました。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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