表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第一章 世界の始まり
11/502

011 世界の始まり 8

 建物の扉の手前まで来たマリコは、その扉を見てまた驚くことになった。今は閉まっているその扉は両開きの引き戸になっており、下半分が木の板で上半分は木製の格子に白い紙を貼り付けた作りだった。枠や格子は太目の丈夫そうな物ではあるが、その上半分はどう見ても障子だった。


(何これ?)


 しかもご丁寧に、左右の障子それぞれには、大きな丸印に囲まれた「宿」の文字が、筆勢も鮮やかに黒々と書かれている。石造りの中世西洋風外観に筆文字付きの障子の扉である。マリコはますます訳が分からなくなった。


 アリアは気にした様子もなく、引き手に手を掛けてガラリと引き戸を開けた。外がよく晴れていて明るい分、中は影になっていてよく見えない。ためらいなく進んで行くアリアに引かれてマリコも中に入った。


 陽の明るさに慣れた目がくらんで、一瞬目を閉じたマリコの五感を刺激したのは、混然とした食欲をそそる匂いとざわざわとした喧騒だった。


 焼けた肉の脂の匂い、何種かの香辛料の匂い、調理された穀物や野菜の匂い、果物の匂い、酒類の匂い。食器の触れ合う音、椅子を引く音、様々な話し声、咀嚼する音、飲み下す音。食堂や居酒屋の暖簾をくぐった時に出会う、香りというには雑過ぎるあの匂いと静かとは言い難いあの雑音である。


 目を開いたマリコに見えたものは、正に食堂か居酒屋の店内だった。入り口からまっすぐは通路が確保されており、左右にはそれぞれ大小のテーブル席が並んでいる。通路の正面にはカウンターがあり、その右側には上の階に上がる広い階段と、さらに奥へと続く廊下が見えていた。席は半分程が埋まっているようで、各々食事を摂ったりジョッキを掲げたりしている。


 改めて室内を見渡す。相当の広さを持ったフロアに、恐らく二階部分の高さまで吹き抜けの作りと思われる、所々石の柱に支えられた高い天井。ただし、天井に走る桟は根太(ねだ)が並んでいるようにしか見えない所を見ると、あれは天井板ではなく、上の階の床板が直接見えているのだろう。


 壁に並んだ窓にも、それぞれ障子がはめられて明かりを取り入れている。換気のためだろう、いくつかは障子が内側に跳ね上げられて、青い空が見えていた。


(跳ね上げ窓が障子貼りって、なにやらいろいろ和洋折衷だな)


「いらっしゃ……、ああ、アリア、おかえり。早かったわね。あら、その方は?」


 掛けられた声にマリコは我に返った。アリアに手を引かれながらあちこち見回しているうちに、カウンターの前まで来てしまっていた。


「ただいま、お母さん。ええとね、このおねえちゃんはマリコさん」


「はじめまして、マリコと申します」


「こちらこそはじめまして。アリアの母のサニアです」


 サニアは二十台半ばくらいの、首の後ろでひとつにまとめたオレンジに近い金髪とアリアと同じ色の瞳をした色白美人だった。母娘というだけあって、目元や顔の輪郭はアリアとよく似ている。ゆったりした緑色のワンピースの上にエプロンを着けていた。


「門のところにいたんだけど、転移酔いっぽいんだよ、この娘。荷物もないらしいし、ばあちゃんに話した方がいいだろうってアリアが言うんでこっちに来たんだよ」


 マリコ達が挨拶し合っていると、後ろからカミルが口を挟んだ。


「あら、あなた。ああ、それでお昼食べずに帰ったから早かったのね。母さんは奥に居るわよ。でもそういう話なら私も行くわ」


 サニアはそばにいた従業員らしい女の人に一言二言声を掛けると、カウンターの切れ目からこちら側へ出てきた。マリコより少し背が低く、胸も少し控えめなようだった。キビキビした印象の割りにゆっくり歩いて来る。


「あっ? サニアさん、もしかして……」


「ええ、三人目。やっとつわりがマシになってきたの」


 マリコが聞くと、サニアはそう答えてまだ目立たないお腹を撫でた。


「それは、おめでとうございます」


「ありがとうございます。さて、女将の部屋はあちらです」


 サニアは先に立って歩き出した。マリコ達三人が続く。


 ふと、入り口の方を振り返ってみると、入ってきた障子扉の内側にはもう一つ分厚い木の扉があって、中に向かって開いているのが見えた。こっちが本来の扉で、障子はやはり明り取り用らしい。マリコは、昔テレビで観た時代劇でも居酒屋の入り口の障子の内側に木の引き戸があったのを思い出した。


 奥へと続く通路に入ってすぐの右側、階段の下はトイレのようだった。「お手洗い」と書かれた扉が二つ並んでおり、それぞれ青で「男」、赤で「女」と漢字で書いてある。その前を通り過ぎながら、マリコは思った。


(使わないから、ゲームの中にはトイレなんか無かったものなあ)


 トイレを過ぎてさらに奥に進んだところでサニアは立ち止まり、目の前の扉をノックした。


「お母さん? サニアよ。今、いい?」


「おや? 構わないよ。入っといで」


 中から返事があり、サニアは扉を開けた。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=289034638&s

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ