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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
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109 探検者の帰還 12

 その後、マリコとミランダがしたことはというと、基本的には各所の手伝いである。テーブルに料理を届け、空いた食器や席を片付け、時に注文を取る。昨夜人気だった串焼きは今夜も出されていた。昼間にマリコが書いたレシピが早くも活用されているのだ。材料の都合で野豚だけではあったがそれでも頼む人は多く、途中作り足す際にはマリコも仕込みに加わった。


 マリコは昨日の事もあって注目を集めてはいたが、帰ってきた探検者(エクスプローラー)達がそれ以上に話題の中心になっていたので昨日のような騒ぎにはならず、マリコは内心ホッとしていた。むしろマリコが最も感じた視線は二組の探検者(エクスプローラー)達からのものだった。特にバルトの(パーティー)のメンバーは、それぞれが時折探るような目を向けてくる。それでも悪意を向けられている感じはしなかったので、マリコ自身は珍しいんだろうな程度にしか思っていなかった。


 ◇


「もうじき二十時か。明日は火の日だが、今夜はバルトランド殿達がいるからもうしばらくは賑わうであろうな」


 注文の波が一段落して二人がカウンターに戻り、ミランダが時計を引っ張り出してそう言った時、カウンターの内側にいたサニアが出てきた。


「マリコさんにミランダも。今日はもういいわよ。ありがとう」


「え? まだ当分忙しいんじゃないんですか?」


「大丈夫よ。さっきも言ったけど今日は人数がいるもの。それにあなた達、本当は休んでていい日なのよ」


「あー、そういえばそんな事を聞いたような気もしますね」


「真面目ねえ」


 マリコの返事にサニアは呆れたように笑った。


「まあ、その真面目なマリコさんに、ついでに頼みたいこともあるんだけどね」


「何でしょう?」


(タリアさんの手伝いの続きかな)


「ふむ、分かったぞサニア殿。ハザール殿だな?」


 マリコが考えていると、横からミランダが口をはさんだ。


「あら、よく分かったわね、ミランダ」


「初めてというわけでもないのだ。さすがに気づく」


「ハザールさん? ハザールさんがどうかしたんですか?」


「ああ、ごめんなさい。何かあったわけじゃないわ。一緒にお風呂に連れて行ってやってほしいのよ。ハザールだけじゃなくてアリアもだけどね」


 心配そうな声を上げたマリコに、サニアはあわてて理由を口にした。


「お風呂ですか。あれ? タリアさんは……って、まだ書類に埋まってるんですね?」


「当たり。私も今はここを離れられないし、終わってからだと遅くなりすぎるし、二人にお願いしてもいいかしら。アリアは一緒に行ってさえもらえれば、一人で放っておいても大丈夫なんだけど、ハザールがねえ」


「カミルさんじゃダメなんですか?」


 マリコはそう言って食堂を窺った。今日のカミルは放牧場の泊り当番ではなかったらしく、先ほど見かけた覚えがあったのだ。じきに見つけたカミルは、ジョッキ片手にバルト達と何やら話をしていた。既に結構赤い顔をしており、時々笑い声を上げている。


「あれが一緒に行って、ハザールがきちんときれいになると思う?」


「……無理ですか」


「無理ね。だからお願い」


「……分かりました。女湯の方に一緒に連れて行っていいんですね?」


「マリコさんさえ良ければ、ハザールと男湯へ入ってもいいわよ?」


「入りませんよ!」


 マリコ自身の感覚だと男湯の方が落ち着きそうではあるが、もし誰か先客がいたら、そちらの方は落ち着かないでは済まないだろう。


「そう? なら、子供達はうちに入ったところにいると思うからお願いね。着替えとかはアリアに言えば分かるから。あと、あなた達のご飯は準備しておくから、お風呂から上がったら食べにいらっしゃいね。ミランダも頼んだわよ。じゃあ、よろしく」


 言うだけ言って、サニアはカウンターの内側へ戻って行った。残された二人は思わず顔を見合わせる。


「とりあえず、お風呂に行けってことですね」


「そのようだな」


「こういうこと、よくあるんですか?」


「しょっちゅう、というわけではないが初めてでもない。まあ、家が宿屋ではいたしかたなかろう」


「そうですね。じゃあ、お二人を迎えに行きますか」


「ああ」


 二人は頷き合うと、厨房の奥の扉へと向かった。そこを出てすぐの所に、アリア達が家として使っている部分に繋がる扉がある。ロの字型をした宿屋の建物の南側の辺の一部が、アリア達を含むタリア一家の家として作られているのだった。


 マリコが扉をノックすると、すぐに返事があってアリアが扉を開けて顔を出した。中の部屋は広めに取られており、絨毯が敷かれてソファやテーブルが置かれているのが見える。マリコの感覚だとリビングルームのように見えた。ハザールはテーブルの所で何か書いているようだ。


「あれ? おねえちゃん、とミランダさん? どうしたの?」


「サニアさんに頼まれて来たのですが、今夜は私達とお風呂だそうですよ」


「えっ!?」


 マリコの言葉に驚いたアリアだったが、その顔は一瞬にして満面の笑みに取って代わられた。


「すぐ準備してくるから! ハザール! ハザール! 今日のお風呂はおねえちゃん達とだよ!」


 アリアはハザールの肩をつかんでガクガクと揺すると、あうあう言っている彼を置き去りにして、奥の部屋へと駆け込んで行った。


 嵐のように去って行ったアリアを、マリコ達二人は黙って見送るしかなかった。

というわけで、次回はまた風呂回です。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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