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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
108/502

108 探検者の帰還 11

「ちょっ、バルト何やってんの!」


「拭く物拭く物……」


 マリコが音のした方へ顔を向けると、少し離れた奥の方のテーブルで騒ぎが起きていた。鮮やかな赤と青の髪の娘達が声を上げ、茶髪の男と緑の髪の娘がそれぞれ両手にジョッキや皿を取って何かから遠ざけるように持ち上げている。なんだか昔見たことがあるような光景だった。


 金髪の男がこちら側を向いて呆然と立っていて、そこへカウンターから何枚かの布巾を受け取ったエプロン姿の娘が駆け寄っていくのを見て、マリコは大体の状況を察した。ジョッキか何かを倒して飲み物がこぼれ、びっくりして立ち上がったら今度は座っていたイスを蹴倒した。そんなところだろう。


 すぐに布巾の山が到着して配られ、事態は収束に向かうようだった。席は離れているし、マリコの手元には今度は空の皿が積まれたトレイがある。


(出番はなさそうだな)


 そう思ったマリコがアドレー達のテーブルに向き直ろうとした時、まだ立っていた金髪の男――もちろんバルトである――が顔を上げ、二人の目が合った。わずかに目を見開いたバルトは何か口を開こうとしたようだったが、ちょうどその時茶髪の男に肩を揺すられて小声で何事かを囁かれ、結局何も言わずに視線をはずすと席の方へと顔を向けてしまった。


(まあ、何となく気分は分かるかな)


 宴会の最中にビールをぶちまけて悪い意味で周りの注目を集める。そういう気まずい経験はマリコにもあった。しかもそれを女の子に見つめられていたら、何か言い訳したくなるのも当然だろう。再びトレイを抱え上げながら、マリコはそう思った。何か言いかけたバルトの泣きそうにも見えた顔が妙に印象に残っていた。


「これ、お願いします」


 カウンターに戻ったマリコは流しの方に抱えてきたトレイを渡した。今日はカウンターの中も人数が揃っているのでマリコが洗い物に回る必要は無い。そのままカウンターの内側へ入ると、片づけをしていたミランダが手を止めてやってきた。


「押し付けたようで申し訳なかった。それで奴等は……、どうなされたマリコ殿」


「え? 何がですか?」


「いや、目が潤んで……あっ!」


 ミランダがそう言った途端、マリコの目尻から一筋の涙が零れて頬を伝った。


「あれっ?」


「何があったのだ。さては奴等がマリコ殿に何か無礼な事を……」


「いやいや、待って待って。違いますから!」


 マリコは今にも駆け出して行きそうなミランダをあわてて止めた。頬に手を当てて見てみると確かに手の平が濡れている。しかし、それ以上涙が流れる様子はなく、マリコ自身にも何だかよく分からなかった。


 自分が泣きそうな出来事があったとすれば、泣きそうな顔をしていたバルトに少々同情したことと、バルトの席の他の四人のドタバタした様子に何となく昔を、姪の一家を思い出したことくらいだろうか。真理子の姉夫婦とその子供達。


(いや、そっちを本気で思い出すと本当に泣けてしまうから)


 マリコは頭に浮かんだ想いを振り払うとミランダに向き直った。


「本当にアドレーらに何かされたのではないのだな?」


「当たり前ですよ。皆さん、良さそうな方達じゃないですか。まあ確かに、アドレーさんの話し方はちょっと大袈裟な気はしましたけれど」


「そうか。ならそっちはいいとしよう。で、マリコ殿はどうされたのだ」


「いえ、自分でもよく分からないんですよ。本当に何かがあったわけでもありませんし。もしかすると、香辛料のせいなのかも知れませんね」


「香辛料……、ああ、さっきの干し肉に使った物か」


 涙が出る理由として、心理的なものを除くと物理的なものではそれぐらいしかマリコには思いつけなかった。


「ええ。結構な量を使いましたから髪にでもくっついていたのを吸い込んだのかも知れません。もう出る感じもしていませんから大丈夫でしょう」


「ならいいのだが……」


「まだ残っていたとしても、今夜お風呂に入れば洗えますから」


「そうか」


「それまでもうひと頑張りですね」


 ミランダはまだ釈然としない感じではあったが、マリコ自身が大丈夫だというのを見てそれ以上は追及してこなかった。時刻はまだ宵の口で、食堂の混みようは未だ収まる気配は無い。話を切り上げた二人はまた仕事に戻っていった。


 ◇


「ここの()達って皆可愛いけど、マリコさん、特に綺麗な人だったよなあ」


「それよりあのプロポーションだろう。あの胸に埋まってみたいと思わないか」


「最後、目、潤んでた」


「聞いた話だと料理がすごくうまいんだって。僕に作ってくれないかなあ」


 順にイゴール、ウーゴ、エゴン、オベドである。マリコが空いた食器を下げて行った後、四人は即座に審議に突入していた。


「お前ら、鏡を見直せ。それに大きな胸がどうした。女性の胸というのはだな、こう手の平に収まるくらいの大きさが……」


「はいはい、アドレーが姫様一筋なのは分かってるからその犯罪的な手付きはやめなさい」


 皆をたしなめつつも中空で何かを愛でる仕草をするアドレーに、イゴールのいつもの突っ込みが入った。

若い男だけが集まるとこんなもんです。若い女の子だけが集まっても似たようなものだと思いますが。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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