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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第三章 メイド(仮)さんの生活
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102 探検者の帰還 5

「……で、珍しく山向こうの中腹まで灰色オオカミ(グレイウルフ)が来ていました。単独でしたからはぐれ(・・・)じゃないかとは思うんですが」


 バルトの報告を、食堂のテーブルの向かい側に座ったタリアとサニアは時折頷きながら黙って聞いている。主だった事はバルトが伝え、何か補足すべき事があればトルステンが口を挟むのがこの(パーティー)のいつものパターンだった。今のところ特に言うべきことはないのか、バルトの隣に座ったトルステンは落ち着いた様子でお茶のカップを傾けている。


 二人とも宿に戻ってきた時に着ていた革鎧は脱いでおり、肩や肘に補強が入った長袖ワイシャツの様な鎧下姿になっていた。いちいち部屋に戻らなくてもその場でとりあえず仕舞っておけるところがアイテムボックスの便利なところである。もちろん、剣や盾も片付けられている。


灰色オオカミ(グレイウルフ)だってよ」


「放牧場の山の向こう側か。注意しなきゃならんな」


 周りの席からヒソヒソと声が上がる。バルトの(パーティー)が帰ってくるまではアドレー達を囲んでワイワイやっていた里の者達やアドレー本人達も、騒ぐのをやめて真面目な顔で話を聞いているのだった。探検者(エクスプローラー)が持ち帰る情報には、時に里全体で即座に対応しなければならない場合がある。執務室を使わずにわざわざ食堂で話を聞くのはそのためである。


「放牧場は帰りがけに通りましたから、小屋のとこにいたカミルさん達には一応伝えてあります」


 声の上がった方へ身体をひねって、トルステンが口を開いた。


「そうかい、助かるよ。あんた達、他の連中への通知は頼んだよ」


 トルステンに礼を言ったタリアは、そのまま里の者達の方へ顔を向けて言い足した。周囲からは口々に了解の声が上がる。放牧場の小屋は里の東側に対する見張り小屋を兼ねているため、宿の門番と同じように里の者が交代で詰めることになっていた。灰色オオカミ(グレイウルフ)が出るかもしれないという話は、誰にとっても他人事では済まされない。連絡は速やかに里中を駆け巡ることになるだろう。


「今回はこんなところです」


「分かったよ、ありがとう」


「じゃあ、バルトさん。今回の取引なんだけど、まずは魔晶が……」


 タリアへの報告が終わり、話はバルト達が入手してきた品へと移っていった。


 ◇


「いつも通り、明日には街の方へ出るのね」


「ええ、剣も見てもらわないといけませんし。ですから、スライムの樽は今回も任せてもらって構いません」


 サニアとバルトの話は今後の予定についてになっていた。


 ナザールの里に限らず、最前線(フロンティア)の小さな里では大抵の場合、一区切りついた探検者(エクスプローラー)はより大きな街へと出掛けることになる。里ではできない事や手に入らない物があるからである。


 例えば剣についてで言えば、日用品の扱いが中心のナザールの鍛冶屋でできるのはちょっとした補修や研ぎ直しまでである。本格的な修理や新造を頼むにはそれ専門の鍛冶屋がある街へ出向く必要があった。周囲の環境が比較的落ち着いているナザールでは、今のところ武具店が新たに店を構えるには需要が少なすぎるのである。


 魔力さえ足りれば遠くの街へも一瞬で行ける転移門があるので、これで事足りてしまうのである。そのため、物によっては取り扱う店が一軒しかないということもあった。


「助かるわ、あれをここで降ろされちゃうと街まで運ぶ人手に困るのよね。さすが、探検者(エクスプローラー)ね。じゃあ、よろしくお願い」


「なんだかんだで、私達のアイテムボックスも結構大きくなりましたからね。任されました」


 アイテムボックスには容量や重量の限界がある。この限界は年齢と共にある程度上がっていくが、それとは別に何かの経験を積むことでも上がることが知られていた。端的なのが戦いを経験したり、職人として何かを作り出すことである。そのため、強い探検者(エクスプローラー)は荷物も多く持てるというのがここでは常識だった。


 今のバルトは装備品や他の道具類と一緒にスライムの粘液が満たされた樽を二樽アイテムボックスに収納しているが、恐らくもう一つや二つは入れられると思われた。これがサニアだと他の物を持っていなくても二樽がせいぜいというところである。宿の者が街まで運ぶとなると、数人が数日間留守にしなければならなくなる。バルト達もそれが分かっているので引き受けるのに(いな)やは無かった。


「ええと、今日はこれで終わりかな。あなた達もこれからお風呂?」


「ええ。今から入れば、多分彼女達が上がるのと同じくらいに出て来られるでしょうから」


 女の人の方が長湯になるのは大抵どこでも同じである。荷物の受け渡しを終えたトルステンが苦笑気味に答えた。


「じゃあ、部屋の鍵をまとめて渡しておくわね。いつもの所よ」


「ありがとうございます。行くか、バルト」


「ああ」


 番号が書かれた木札が結び付けられた鍵の束をサニアから受け取ったトルステンは、バルトを促して風呂場に繋がる廊下に足を向けた。


「あの娘達が先に出てきたら言っておくから、無理に急がなくていいわよ」


「了解でーす」


「お願いします」


 後ろから掛けられたサニアの声に、トルステンは手を振って、バルトは頭を下げて答えた。

次回、男達の入浴シーン……は書きませんよ?

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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