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鬼子伝  作者: 福田伊織
1/1

鬼とは何か、鬼子とは何か。

何が正しくて何が間違っているのか…?


一人の女の詩をきっかけに物語は動き出す。

*00*


「乱、蓮弥≪れんや≫。強く生きなさい。鬼子≪おにご≫であっても、私たちは五行覇道≪ごぎょうはどう≫。それを誇り、気高くありなさい。強くありなさい」



*01*


それはちょうど一年前。

月の綺麗な夜だった。

開け放たれた障子。倒れた花瓶。きれいに片づけられた文机。

横たわる死体。どう見ても自殺だった。

「凛…姉ちゃん…なんで?」

死体を見ながら、乱はつぶやいた。

死んでいるのは、風火≪ふうか≫凛―風火乱の姉だった。

いつもならきまった時間に夕食を食べに母屋へ来るが、この日に限っては違った。

そのため、妹の乱と、幼馴染の蓮弥が呼びに来たのだが―…

鼻につく血の匂い。その生々しさがこの惨状が起きたばかりであると告げていた。

蓮弥はとっさに、乱の体を支えた。

そうしなければ崩れてしまう気がしたのだ。

部屋の奥、凛の愛用していた文机が目に入る。そこには、封筒が置かれていた。

直感でわかった。

 これは遺書だ。

「乱、あれ…」

指の差すほうへ、乱が目を向ける。その眼は大きく見開かれた。気づいたようだ。

ふるえる手で、封を切る。

「…!蓮弥、これ…」


ちょうど、一年前のことだった。



*02*


「今日は大事な会合がある。絶対に遅れるなよ」

登校用の靴を履く乱の背中に、兄―風火壱火≪いちか≫が声をかけた。

「わかってるよ」

壱火は、風火家の次期頭首で、乱や蓮弥にとって雲の上のような存在で、本来ならば気安く口を利ける相手ではない。しかし壱火は、妹である乱やその幼馴染である蓮弥には、公の場以外では普通に接してくれているし、二人にもそれを許した。

「今日は鬼子も参加して今後の対策を練る、お前たちにとっても大事な会合なんだ。本当に分かってるんだろうな」

「わかってるってば。何回言わせるんだよ」

無愛想に言い返し、立ち上がる。「心配しすぎなんだよ、兄貴は」

引き戸に手を掛け、開け放つ。門の外にはやはり、蓮弥がまっていた。いつも通りだ。

行ってきます、と言い捨て、門のほうへ駆けていく。

編みこんだ左側は見通しがいいが、右目は長い前髪で隠れているため、視界が悪い。そもそも右目は隠しているのだからいっても栓のないことなのだが。

「乱、おはよう」

「おはよ」

蓮弥も蓮弥で、長い黒髪を後ろに流し、白のニット帽をかぶっている。長い前髪がうっとうしそうだ。

「今日、学校どうする?」

「…行かない」

「学生の本分は勉強だろうが」

蓮弥は口元だけで薄く笑って言った。

「そういうお前が一番不真面目じゃねえか」

「そうだな」

隣に並び、顔を見上げる。相変わらず、隈の濃い、不健康そうな顔をしている。

こいつは、きっと睡眠が足りてないんじゃあなくて睡眠がとれていないんじゃないかと、乱は思う。

「じゃあ…行くか」

蓮弥がゆったりと、歩きだしながら言った。

「行くって…どこに?」

数歩先を行く蓮弥に問いかけると、蓮弥は立ち止まり、体ごと振り向いて言った。

「鬼に会いに」



古来より人は鬼と争ってきた。

鬼を束ねる6匹を六災凶鬼、そして鬼と戦う退魔師の頭領である五家を五行覇道と呼んだ。

そして鬼を殺すために造られた、鬼の身体能力と退魔の力をもった退魔師がいた。

人は彼らを、«鬼子»と呼んだ。


乱と蓮弥もまた、鬼子であった。


さまざまな宗教やスポーツなどに聖地があるように、退魔師にだって聖地がある。もちろん、鬼たちにも。

乱と蓮弥行き着いた先も、鬼たちの聖地だった。

地元の山の中腹。その奥地にそこはあった。

退魔師の教えによれば、六災凶鬼の一匹がその昔、この場所で生まれたらしい。さかのぼれば平安時代までいかなければならないので、真偽の程はわからない。だが、それが嘘でも本当でも、乱にはなんら関係のない話だった。

とにかくその聖地―通称「鬼の寝床」で、待つこと一時間。

鬼が、現れた。

気配から察するに、トップ、六災凶鬼だと考えるのが妥当だろう。六災凶鬼は、聖地を拠点に活動すると聞く。

気配を殺したまま、近づく。鬼の見た目は人間とまるで同じだ。自分が退魔の者でなければ、そうだと気付くこともないだろうと思う。乱が前から、蓮弥が後ろから。

いつも通りの手順で、確保する。抜かりはない。

愛用のナイフを抜く。よく手になじむ。やはり、武器はこれに限る。

「六災凶鬼だな」

首筋と、眉間にナイフを突き付けられた鬼は、全くうろたえる様子がない。

「へえ、よくわかったな」

普通の鬼ならうろたえる場面。その局面でこの余裕。この鬼には、二人を振り切り、逃げるだけの自信と、実力があった。

二人もそれはわかっていた。二人にも、それを見抜くだけの実力と経験があった。

「争う気はない」

低い声で、蓮弥が告げる。ここで逃がすわけにはいかない。

「争う気はない…この状況で?」

「立場上、仕方がないんだ。私たちは鬼子であんたは六災凶鬼。わかるだろ?」

鬼の目を見据え、乱が答える。

「私たちはただ、あんたと話し合いがしたいんだ。戦いに来たんじゃあない」

鬼の目を見据え、乱が答える。

「私たちはただ、あんたと話し合いがしたいんだ。戦いに来たんじゃあない」

「話し合い…ねえ?」

「六災凶鬼であるあんただから言ってるんだ。信用してくれよ」

そういって蓮弥は鬼の首に充てていたナイフを放す。

それを受けて、鬼はほんの少し、警戒を解いた。

「おもしれえな、言ってみろよ」

口角を上げて、にやり、と笑う。

うまくいった。あとはこの鬼が二人の話に食いついてくれるかどうかだ。

「さっきも言ったように、俺たちは鬼子だ。実はな…」

そこまで言ったところで、蓮弥は声を落とし、周囲に声が漏れないようにした。

あまり周囲に漏れていい会話ではない。


蓮弥の話を聞き終えた鬼の動揺は大きかった。

「おもしれえな、あんたたち。普通はそんなこと、思いつかない」

「そうか?」

「俺は東雲。ご存じ六災凶鬼の一角を担っている。あんたらは?」

鬼―東雲の自己紹介を受け、二人もそれに倣う。

「俺は水谷蓮弥。五行覇道、水谷家次男、鬼子だ」

「私は風火乱。同じく五行覇道風火家の次女で鬼子」

二人は素気なく自己紹介をする。もともと他人との馴れ合いは苦手な二人だった。

五行覇道の中では肩身の狭い鬼子たちの中でも、二人は浮いていた。

「これから、よろしく」





この作品はまだ完結していません。

願わくば彼らにとって光ある道にたどりつけることを願いたいものです。

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