認識と誤解
さっきまでとはうってかわって真剣な表情で見てくる姫羅に軌羅は心臓が大きく跳ねるのを感じていた。
(……信じられない。信じたくない。信じたくなかった。でも…。)
軌羅は姫羅と同じようにその真剣な目を見つめる。
(本当のことなんだ…。)
先ほど、姫羅に教えられたことを簡潔にまとめて確認した軌羅だったが、感心した姫羅に言ったように完全に理解出来たわけではなかった。
ここが異世界で、
自分に異世界に行ける能力があって、
しかも自分の意思は関係無しで時系列はバラバラ、
異世界では自分の姿はその世界の自分以外には誰にも認識されない、
そんなこと、一瞬で理解できるわけがなかった。
ましてや"異世界の"とはいえ目の前のお姫さまが"自分"だなんて理解不能だった…。
しかし、自分を見つめるその真剣な眼差しが"すべて真実だ"と言っている。
"ただの夢じゃないんだ"と言っている。
本当に本当は信じたくない。あり得ない。
だけど、この目に偽りなんてない。
それがわかってしまったから。
「認めるしか…ないんだね。」
軌羅は諦めたように呟き、うつむく。
そう、頭では理解し、自分を納得させようとし、心で"信じたくない"と反論していた軌羅だったが、本当はただただ認めることが出来なかったのだ。
こんな自分にそんな能力があることを。
目の前の人物がパラレルワールド(異世界)とはいえ"自分"だということを。
別に姫羅がイヤだ。というわけではない。
むしろ、姫羅は今まで出会った人のなかでも一番好印象をもてる人間だ。
それなのに、異世界の"自分"であって、"自分"とは違う姫羅に対して軌羅は、これまでも感じたことのある重たい感情を感じるのだ。
心臓が大きく跳ね上がって、胸が締め付けられるくらいの焦りを。
そして、その感情の意味もわからない。
(姫羅の事…嫌いじゃないのに…。)
うつむいた顔がわずかに歪む。
しかし、諦めたような呟きを聞いた姫羅は、ほんの少しの沈黙のあと、
「……そんなに、イヤ??」
と言った。
「…え?」
軌羅はハッとして顔をあげた。
先ほどの自分の言葉を姫羅がどう受け取ったのか、その言葉から瞬時に理解出来たのだ。
………が
時すでに遅し。
顔をあげた軌羅の視界に飛び込んできたのは今にもこぼれそうな大粒の涙をため、こちらを見つめる悲しそうな姫羅だった。