初めての異世界転移(パラレルトリップ)
(な、何これ??)
突然広がった目の前の光景に、いつもはあまり感情を表に出さない軌羅も唖然として口を開けていた。
いや、自分の部屋のソファで寝ていたのに目を覚ましたら童話に出てくるようなお姫様の部屋にいたうえにそのお姫様が自分と同じ音の名前で姿まで瓜二つだったら誰だって、いや、普通ならこれ以上に混乱してパニックにおちいるだろう。
軌羅が目を覚ましておそらく数分がたつ。
しかし、異国の召し使いのような格好をした姫のお着きで教育係っぽい男も、姫羅様と呼ばれた軌羅と瓜二つのお姫様も、こちらに気づいたようすはない。
(あたしのこと、見えないのかな?)
軌羅はこのままでもしょうがないので、現状を把握するためにも二人に近づいていく。
ふと、男が軌羅の方を向いた。
(………っ!)
軌羅は驚いて動きを止め、思わず呼吸も止める。
…が、男は軌羅に気づくどころか軌羅の体をすり抜けてその奥のドアを開けて
「それでは姫羅様、早く着替えをすませて来てくださいね。」
と言い、部屋を出ていった。
姫羅は寝ぼけまなこをこすりながらも
「はーい。」
と返事をしている。
一方、軌羅の方はというと男が自分の体をすり抜けたことにより動揺を隠せずその場にしゃがみこんでいた。
(い、今、す、すり抜け…た? 気づかれてないみたいだったし、もしかして死んじゃって幽霊になっちゃったのかな。あたし。いや、それはおかしいか。夢、かな?あたしの隠れた願望…みたいな?お姫様になりたかったのか、あたしは。あれ?でもあたしなら漢字が違うのはおかしいよね?読みは″キラ″だけど。これも願望??でもお姫様で″姫羅″って…。安直過ぎる…)
突然の出来事に驚きながらも軌羅はその場にしゃがみこんだまま冷静に自己分析を始めた。
するとそんな軌羅をよそに
「ふぁ~あ…。まだ眠いなぁ。でも早くいかないと、うるさいんだよなぁ、ライのやつ…」
と、姫羅は独り言を始める。
ライというのはさっきの男のことのようだ。
姫羅のの独り言をきいた軌羅は思わず
(…なんか、お姫様っぽくない。)
と思ってしまった。
と、その時さっきまでブツブツと独り言を言っていた姫羅が軌羅の方を向いて
「やっ。おはよう。いつまでそこでしゃがんでんの??軌・羅・ち・ゃ・ん♪」
と言った。
自分の姿が見えていないと確信していた軌羅はまた独り言か、と反応が遅れる。
「っ!えぇ?!み、見えてるの??ていうか名前…っ、なんで知って…?」
「あら??もしかして初めて??……ふーん、時系列はバラバラなんだねー。」
驚きを隠せない軌羅に対し姫羅は冷静だ。
「??……あれ?でもこれってやっぱあたしの夢?なら名前くらい…。あ、でも初めてって、時系列??」
軌羅は軽くパニック状態。
もう、なにがなんなのかさっぱりわからなかった。
おそらく14年間生きてきてこんなに困惑したのはこれが初めてだろう。
ふと、そんな思いまで頭をよぎる。
そんな軌羅の様子を見た軌羅は少し驚きの表情を浮かべ、
「プククっ…。」
と笑った。
少なくとも、お姫様の笑い方ではない。
軌羅はなんだか複雑な気分になり、″じと~っ″と姫羅を見つめる。
「あー、ごめん、ごめん。この前来たときと大分違うからさ。思わずね。」
姫羅はまだ少し笑いながら言った。
「この前?来た?」
軌羅は次々と増える疑問に戸惑う。
それを見た姫羅は笑うのをやめ、どことなく上品な笑顔で
「んー、あんまり時間もないんだけどさ、様子見る限りじゃなーんもわかってないみたいだし、説明するねー。あんたにも頼まれたし。」
と言い、話し始めた。
(あたしに頼まれた?何を言ってるんだろう?)
新しい疑問がまた増えた軌羅だったが、それは置いておいて黙って姫羅の話を聞くことにした。