能力発動
雨が静かに降るなか、帰りのHRが終わった。
軌羅は鞄を持って足早に教室を出る。
視界の端にこちらを睨み付ける女子グループが見えたが、気にせず昇降口へ向かった。
季節は梅雨まっただ中で、雨はおとといくらいからずっと降っている。
昇降口に着いた軌羅は下駄箱から取り出した靴を履き、まだ少し濡れている自分の傘を傘立てから取り出して開いた。
軌羅が一人暮らしをしているマンションは両親のはからいでかなり近くのため軌羅は徒歩で登下校している。
軌羅の家はかなりのお金持ちで別荘はいろんな所に何軒もあるし、所有しているマンションも3桁はいくだろう。
そして本家自体も絵にかいたような豪邸で、メイドとか、執事とかが居たのを軌羅は覚えている。
まぁ、元々記憶力がいいうえに今のマンションの一室で一人暮らしを始めたのは去年の4月。
それまで本家で暮らしていたのだから覚えているのも当然なのだが。
軌羅が最初に一人暮らしをしたいと言ったとき、両親はもちろん大反対だったが
「一人で生きる知恵を身につけたい。」
という軌羅の最もらしい理由を聞き、そういう事ならと中学の近くのマンショの一室を自由に使っていいということになった。
もちろん理由は軌羅が前々から両親を説得するために考えていた″たてまえ″なのだが。
マンションについた軌羅は傘を閉じて慣れた手つきで暗証番号を押して中に入り、ちょうど一階で止まっていたエレベーターにのって自室がある7階のボタンを押した。
エレベーターが7階で止まり、軌羅はエレベーターを降りて、自室に向かう。
エレベーターと自室はあまり近くはない。
といっても遠くもないのだが。
自室の前に立った軌羅は傘を置いて鞄から鍵を取りだし、ドアを開けた。
靴を脱ぎ、無言で部屋に入り、鞄を置く。
時刻は午後4時20分。
とてつもない疲労感に襲われた軌羅はソファに横たわりそのまま眠りに落ちた。
「……ま。き…さま…。」
(…声が聞こえる? 誰? お母さん…じゃないよね?)
「姫羅様!!起きてください!!」
軌羅は突然聞こえた自分の名前を呼ぶ声に反応して目を開いた。
しかしーー
軌羅の目にうつったのは部屋の天井ではなく、異国の召し使いかなにかのような格好をした男に起こされキラキラとした部屋のベッドから起き上がったーーー
(あたし??!!)
軌羅、いや、姫羅の姿だった。
これこそが軌羅の能力が発動した瞬間で、軌羅がこれから部屋に出なくなる原因となるのだったーーー