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蝶々乱舞

作者: 桜草




…――― 幼虫から育てた蛹が最近羽化した。


はじめのうちは色々な柵に包まれて窮屈そうにしていたけれど、

その柵から抜け出した時には見たこともない程美しい羽を広げて見せた。




――――…

「ねぇ」


ガッツリメイクをしたギャルっ娘が呼び掛けた。


亜稀は空耳だとばかりにその場を離れようと足を動かす。


「ちょっと亜稀!待ちなさいよ!!!」


「・・・・・・」


「亜稀!!」


街中で人の個人情報を叫ぶとは・・・・

亜稀は今にも五月蝿いと言わんばかりの勢いで眉間に皺を寄せつつ振り替える。


「寝言は寝て言ってくれる?」


「まだなにも言ってない!!」


「僕、今忙しいんだよね。これから態々本社に足を運ばなくちゃいけないしさ。」


心底嫌そうな顔を作って歩き出す。


そんな亜稀の背中に向かって彼女は叫んだ。


「透香を探してんのよ」



一瞬だけ亜稀が立ち止まった気がした。





…――― 蝶は日に日に美しく、元気になっていった。


そしてその美しい羽から舞った美しい鱗粉は媚薬を思わせる。


その蝶は、私の目には酷く眩しく映ったのだ。





――――…

ん〜

とか

ふ〜

とか言いながら目の前で書類を読み漁っているのは亜稀の担当編集者、美弥子さん。


「もういいですよね、美弥子さん。」


「あら、美弥子さんだなんて他人行儀ね〜、鮫島様で良いのよ〜」


捕食されそうでやだな〜と呟くと彼女がまた同じ音程で言葉を紡ぎ続ける。


「鮫は魚が好物だから兎は食べないのよ〜兎川くん。またワケわかんない文章書いたのね〜」


「一気に2つの用件を話さないでください。」


「たまには人間を出してくれたって良いじゃないのさ、まぁ案外ウケは良いから構わないけどね。」


あまりにも噛み合っていないやり取りに他の編集者たちが煩わしそうな視線を向けてくる。


しかし二人して我関せずを決め込んで話を続けた。


「で?

これは実話じゃないわよね?」


亜稀は薄く微笑んだままさぁ?と答えた。





…―――いつの間にか蝶は私の補助なしにも軽やかに飛ぶことが出来るようになっていた。

とても嬉しかった。

誇らしかった。



でも、


蝶が自立してゆく姿をみて、私は酷く寂しくなったんだ。





――――…

本社の扉を抜けると眩しい日射しが目に刺さる。

こんな日には何か悪いことが起こるような気がしてしまう。


「やっと出てきた!!超遅いんですけどぉ〜マジ有り得ない!」


ほら、起こった。


「バカも休み休み現れてくれないかな?」


「は!?それ私の存在全否定してんじゃん!ひどっ」

「帰ってくれる?」


突き放すように言う。

でも彼女はそれくらいではめげなかった。


「透香が見つかったら帰ってあげる。」


真っ直ぐな目に見据えられて一瞬たじろぐ。


「……僕が知るわけないじゃない。」



「………………そう。」


素っ気なく言い、そのまま歩き去ろうとする彼女に1つだけ訊ねる。


「なんで僕に聞くの?透香の母親に聞いた方が確かなんじゃない?」


彼女は振り返って口を開いた。


「あんたがあの子の一番だからよ」





…――――私は寂しかった。


その蝶だけはずっと一緒にいると思ってたから、


蝶が私の目の前からいなくなってしまうという可能性があることが私にはとても恐ろしく思えた。





――――…

肌寒くなってきた頃、西日の差し込む部屋に二人はいた。


「ねぇ、透香?」


後ろから華奢な肩を抱き締めつつ呼び掛ける。


「なぁに?亜稀。」


穏やかな空気を纏った透香はその手にある紙に目を通しつつ答えた。


「君の友達が君を捜してるみたい。」


「…美奈が?」


頷き、肩に回している腕の力を強めた。



「君を、連れてこない方が良かったかな。」


ポツリと呟いた言葉に透香が此方を向いた。

今初めて見えた彼女の表情に戦いてしまった。


強い意志を湛えた表情をしていたから。


「………透香?」


「亜稀は後悔してるの?」

「え?」


「私は後悔なんかしてないよ?家出して有名になって見返してやるの。


お父さんもお母さんも美奈も私に仕事をくれないプロデューサー達もよ。」


そこまで言い放ってまた手元に視線を戻した。


「それはいつ発表する曲なの?」


「さあ、いつになるかしらね…」


「え?」


「これは自分で作詞した曲なの。」


「へ?凄いじゃん」



間の抜けた返事をしてしまったと思いながらも彼女の持っている楽譜を覗き込む。




「……蝶?」


「うん、蝶々。」


「何で蝶々なの?」


「だって綺麗でしょう?あの羽で何処まででも飛んでいくのよ?しかも主食は花の蜜だけだし」


「あー、確かに…」



そう言うと透香は指先を窓から指す光に透かして眩しげに目を細める。


その指が夕焼けで燃えているように見えて、消えてなくなってしまいそうだと思って自分の指を絡めた。



「私ね、蝶々になりたいの。」


「…………え」


今まで良い空気だったのに突然イタい事を言い出したことに戸惑いを隠せない。


「透香。


人間に生まれついてしまったからには蝶々には成れないんだよ?」


「知ってるよ!?悲しげな表情で言わないで!」


あわあわと弁解を図る透香を可愛らしく思い小さく笑いを溢すと今度は頬を膨らませて怒った顔を作る。



次第に堪えきれなくなった笑い声が狭い部屋を満たした。





…―――だから、私を残して飛んで行ってしまう前に、逃げないように蝶の羽をもぐ。



私は嬉しかった、

飛べない蝶は離れていったりはしないから。





――――…

1人の部屋で黙々とキーボードを叩いていると鍵が開けられる音に続きドアが開く音がした。


「お帰り〜」


視線はPCに向けたままで声を掛ける。


しかし、いつもなら直ぐに返ってくる筈の明るい声が今日はいつまで経っても返ってこない。


「?……透香?」


いつもとは違う反応に違和感を感じて玄関に歩いて行く。



透香は顔を俯かせて立っていた。


「中、入ろう?ここじゃあ体が冷えちゃう。」


そう言いながら透香を部屋の中に促す。

触れた手が氷のようで、彼女をこたつに座らせると直ぐにキッチンに向かう。



丁度眠気覚ましに飲もうとしていた珈琲を淹れたところだったのでそれを透香用のカップに入れて戻った。


「何があったの?」


珈琲を含んだ彼女を待つ事すらもどかしく、

腰を下ろしたと同時に聞く。


透香は自嘲気味に薄く笑って答えた。


「私に回す仕事は無いんだって。全部先輩のアイドルに回さないといけないんだってさ。」


「なにそれ」


自分の声がいつもよりも低く聞こえる。

眉間に皺がよっているのが自分でも良く分かった。


透香はきつく唇を噛み、小さな拳を作る。

彼女の感情が痛いほどに伝わってきて

亜稀は透香をそっと抱き締めた。


「……悔しいよ、亜稀」


そう言う声が震えている。

今は絶対に彼女の顔を見てはいけない。


きっと彼女は泣いているから。





…―――羽をもがれた蝶は段々と輝きをなくしていった。

それもそのはず、だってもう人々を翻弄していた鱗粉を撒くことは出来ないんだから。



その日から蝶は段々と、でも確実に弱っていった。





――――…

ケータイを開き、電話帳から1件の番号を探す。


登録は随分と前からしてあるのに1度も掛けたことのない番号。



2・3回呼び出し音が鳴った後に品の良い声が耳に届く。


『はい、佐倉医院です。』


「あ、佐倉朱里さんはいらっしゃいますか?」


『私ですが…診察の予約ですか?』


「…失礼しました。あの、兎川と申しますが、透香さんの事でお電話させていただきました。」



そこまでいったところで傍に人影があることに気付いた。


「………亜稀?」


「…………透、香…」


持っていたケータイを取り落とす。

硬いもの同士がぶつかる音が異様なほど大きく響いた。


咎めるような真っ直ぐな目に思わず視線を逸らすと透香の声が聞こえてきた。

「後悔はしてないって言ってたよね」


「………」


見ると彼女は唇をきつく噛んでこちらを睨んでいた。

透香が怒っている時にする癖、それが自分に向けられていることに耐え続けるのが辛い。


「息がつまりそうな世界で働いてるの。家にも帰れないし、亜稀だけが私が胸一杯に空気を吸うことができる場所なのよ。」


でも、と続ける。


「それが亜稀の息をつまらせてたよね。」


それだけ言うと、彼女は踵を返して外に出ていった。





…―――蝶は飛んでいないといつかこの世から姿を消して、私の前からいなくなってしまう。


そんなことは知っていた。

でもそれを態と見ないように目隠しをして、

いつしか何も見えなくなっていた。



こうなってみて初めて、私は僕の過ちをしる。





君を殺したのは、僕だったね――――



誰もいない部屋に近付いてくる足音が響く。

扉を開けてバタバタと近付いてくる。


「亜稀」


「………美奈?」


美奈は部屋を見回して呟く。


「やっぱりここにいたんだ。」


彼女の視線の先には透香のマグカップ。

かなりお気に入りのものらしく、家を出た時に持っていた数少ない荷物の1つだ。


でも…


「もう居ないよ。去年の秋頃かな、出ていっちゃった。」


「……会いたい?」


そう尋ねた美奈に向かって首を縦に振ると彼女は持っていた鞄から何かの紙を取り出してきた。


「この前見付けたの、前とは違う事務所で。そしたら透香が、渡してって。」


「何で握手会……」


コンサートか何かのチケットかと思っていたが、握手会とは……

驚きつつも透香らしいと思ってしまう。


「透香からも確認できるのが良かったんだってさ。」


「成る程ね。ありがとう」



そのあと直ぐに会場へと向かい透香の姿を探す。


長い列に並び、自分の番が回って来て、深呼吸を1つしてから透香の前へ進む。


「久し振り」


笑顔でそう話し掛けてくる透香へこちらも笑顔を返す。

彼女の小さな手を握ると真っ直ぐに目を見て話し掛ける。


今度は、失敗しないように。


「君はそれで良い。」


透香は不思議そうな表情をする。

可愛らしい表情だ、とからかいを含んだ笑い声が漏れる。


「透香は僕なんか居なくても大きな羽をひろげられるんだから。」


「亜稀。私は――」


「でもね、透香」


透香の声を遮って話を続ける。


「君が疲れて、羽を休めたい時にはいつでも帰ってきてね。」


そう告げると透香の返答を聞く前に時間切れとなり、スタッフにはがされてしまった。



会場を出ると寄り道をすることなく家に帰る。


冷房とPCをつけて仕事を始める。





どのくらいPCとにらめっこをしていただろうか。

ブルーライトで疲れが溜まってしまったのか、目の奥が熱を伴ってガンガンと痛む。


珈琲でも淹れようかと台所に向かい珈琲メイカーにフィルムと豆をいれる。


良く考えてみればこんなに本格的な淹れ方をするようになったのも透香が珈琲好きだと知ってからだと思い、苦笑が漏れる。


「ただいまー!!」


そんなことをしていると、元気な声と共に玄関の扉が開いた。


珈琲の匂いに誘われて来たんじゃないかと思う程のタイミングの良さにいつぞやのデジャブを感じる。



でもあの時とは同じにしないように、亜稀は別の色のカップに2杯目の珈琲を灌いだ。


「お帰り。」


玄関に立っていた彼女を迎えに行くと手に持っていたカップを少しだけ掲げて見せた。







さて、


先ずは読んでくださった神々に感謝致しましょう。



有難う御座いますm(._.)m


お客様は神様です。


という言葉が好きな桜草です。




今回は恋愛がテーマだったのですが……


なんてゆるゆるの恋愛模様でしょうねwww


作者は恋愛経験少なすぎww



てか作者はぶっちゃけ蝶々嫌いなんです。

何であのちっちゃくて細くて薄い体で動けるのか分からない。

こわっ( ̄□||||!!



そんな中でめっちゃ頑張って蝶々を美化しましたZE☆



そんな作品でした( ̄▽ ̄;)HAHA…





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