純愛融解
思うままにやや残酷めに書きました。
流血表現がっつりあります。
ご注意ください。
勇者として予言され、幽閉されて育った王女と騎士の家に生まれ、彼女の護衛兼従者として供に魔王討伐を目指す青年騎士の話。
悲恋、どうにも報われない話。
どうして私だったんだろう?
最期の時、私はそう考えながら涙を零して消えて行った……。
*****
私の名前はサシナラ・クオートリュ。
クオートリュ国第一王女だ。
だが、私は生れてこの方、王女として――いや、人間としてさえ育てられる事はなかった。
それはある予言の所為。
私が生まれた時に、国の預言者が王家に下した予言。
“その者、神の傀儡となりて、悪しき王に立ち向かうだろう。
神託を降す時、彼の者は全てを神に捧げ、悪しき者と供に世界の一部に融け行くだろう。”
要約すれば、その者は神様の手足となって魔王を討つようになる。
そして、神託が降される時、持てるモノ全てを神に捧げ、魔王を討てば塵となって消えゆくというものである。
何とも物騒で、酷い預言であろうか。
これをきっかけに、私の父である国王は私が生まれた事を秘し、城の塔の一つに幽閉するようになる。
国民には、私は死産だったと告げ、未だ復活の兆しの見えない魔王が復活するであろう事も混乱を避ける為に全て伏せた。
それ以来、私はずっと塔の中での幽閉生活を強いられた。
私は、生まれた時からそうであった為、別段不満も何も感じなかった。
それどころか、会う人間も限られている為、感情というものを失ってしまったのであった。
それすらも、別に気にならなかった。
――感情が無いから、悲しいとか寂しいとか、そんなもの、何一つ感じる事もなかったのだというのが正しいか。
そんな私が12の時、転機が訪れた。
私の暮らす立ち入り禁止の塔に、一人の同い年の少年が迷い込んだのだ。
心細いのか彼は泣きながら、幽閉されている私の部屋の扉の前に座りこんでいた。
人の声が聞こえて、何かと思ってつい声を掛けてしまったのであった。
別に慰めようとか、困っている事があるなら手伝おうとか、そんな事は何一つ考えてはいなかった。
ただ、何だろうと思って声を発してしまったのだ。
私が部屋の中に居る事を知った少年は、泣くのをどうにか堪えて私に話しかけてきた。
それによると、彼は名をクライス・リュフェドーラと言い、この国の近衛総騎士長の二男だという。
彼がどうしてこんな所に居るのかというと、父に付き従って王城へ入り、父が会議の最中抜けだして、城を歩き回って迷子になったのだという。
それを聞いても、どうすればいいか分からない私は、彼にそれでどうすればいいか尋ねた。
すると彼は道を教えてほしいと言った。
その言葉通り、私は道を教えた。
と言っても、私自身ここから出た事が無いので、近くにある階段を下りて真っ直ぐ突き進めば、騎士宿舎の建物があるとだけ伝えた。
窓から知り得た知識は、それだけであったから……。
彼はそれを聞いて、ありがとうと言って階段を駆け下りていったらしい。
らしいというのは、見えなかったので音でそう思っただけだ。
けれど、窓から外を眺めていると、暫らくして彼らしき12歳の少年がこの塔の出入り口から出てきた。
太陽の光りを編み込んだようなフワフワの輝かしい金色の髪に、大きく円らなエメラルドを嵌め込んだかのような瞳を有している少年。
彼は外に出ると此方へと振り仰ぎ、私を認めて嬉しそうに満面の笑みで手を振ってきた。
そんな彼の行動にどういった意味があるのか知らない私は、彼を真似るようにただ手を振るのであった。
それから、彼は城に来た時はちょくちょく父から離れ、私の元へ会いに来た。
私は、そんな彼から少しだが、感情というものを覚える事が出来た。
*****
また暫らくして、私が16の時。
ついに預言者が神に魔王が復活したと告げられる。
そして、私の幽閉生活は終わりを告げる事となった。
始めて見た世界は、クライスの教えてくれた通りとても綺麗で平和で。
魔王が復活したなど、信じられないものであった。
けれども預言者の預言は絶対に当たる。
何故なら、預言者は嘘を言えばその場で死ぬからだそうだ。
だから……預言者である人間が生きているという事は、それが本当の事なのだという何よりの証拠なのだろう。
私は生れて初めて会う国王――父の前に立ち、これから旅立てと告げられる。
始めて会う肉親だったが、私は特に何の感情も抱かないまま、ハイとだけ返してその場から辞した。
と、旅立ち直前に、旅に同行する人物がいる事を知らされる。
私はその男と、謁見の間で顔合わせをした。
「お初にお目に掛ります、サシナラ様。
この度、貴女様の護衛兼従者を務めさせていただく、クライス・リュフェドーラと申します。
以後お見知りおきを。」
そう言った男は、いつも塔の上からしか見る事の出来なかった、私に感情というものを与えたクライスであった。
いつも塔の上からだった為、こんな顔だったのかと彼をまじまじと見る。
未だ色褪せる事の無い、太陽の光りを編み込んだようなフワフワとした金色の髪に、昔の円らだった面影のあまり残ってない、切れ長の優しげな印象の目。
その瞳は、あの時と変わらず、光り輝くエメラルドが嵌め込まれているようであった。
まじまじと顔を見つめる私を、彼はクスリと笑んで優しく頭を撫でてくる。
そして――。
「やっと会えたね、僕のお姫様。」
彼はそう言って私の手の甲に触れるだけの唇を落とした。
何も言わない私に、彼はフワリと蕩ける様な笑みを寄こして謁見は終了した。
結局、私達は二人だけで魔王討伐の旅に出たのであった。
*****
道中、色々な出来事があった。
何も知らない世間知らずな私に、彼は色々な事を教えてくれた。
もちろん、彼は何でも知っている訳ではなくて、時には私と一緒に驚いたりもした。
共有する時間が長ければ長いほど、私の気持ちは彼に近付いた。
一緒に居れば居る程、私は彼に惹かれて行った。
そしていつしか、私は彼を愛するまでに至っていた。
そんな私を、彼も好きだと、愛していると言ってくれた。
魔王討伐の旅は、まるで二人きりの旅行みたいで、戦闘もあまり苦にはならなかった。
私は生れて初めて、幸せだと感じるのであった。
だが、現実は残酷である。
私と彼の距離が縮まれば縮まるほど、魔王城へと近付き、ついには目的の場所へ辿り着いた。
*****
魔王城を目の前に、彼は不安そうな表情で私を見ていた。
私は、彼から教わった幸せ満面の笑顔で彼を見つめる。
「魔王討伐は、諦めないか?」
彼はそう、私に提案してきた。
魔王城を前にしてだ。
何だか、少しおかしかった。
当初の目的を、達成せずに二人で逃げて、誰も人のいない場所で暮らそうと提案してきたのであった。
彼が何故そんな事を言いだしたのか。
それは分かっている。
きっと、私が魔王を倒したら消えてしまう事を恐れての言葉なのだろう。
けれども、私は彼に告げる。
「ここで私が魔王を討たねば、どの道世界は終わってしまう。
私の生きてきた意味がなくなってしまう。
だから…………ごめんね。」
私がそう言うと、彼は泣きそうな笑顔で微笑んだ。
私の胸が、引き裂かれそうなくらい痛く軋んだ。
でも、それを隠して魔王城へ足を踏み入れる。
魔王との戦いは苛烈を極めた。
吐き気すら伴う位に、私は多くの血を失った。
そんな私の近くで、私と同じくらい――いや、それ以上に血を流した彼がしっかりと立って並んでいる。
私の方こそ、もっと頑張らなくては……。
そう、自分を鼓舞した。
それはほんの少しの間の出来事であった。
頭から滴る血が、一瞬私の視界を奪った。
危険を感じ、私は素早く血を腕で拭った。
その時。
ドスッ!!!
鈍い音が、私の前から響いてきた。
何の音だと、私が血の消えた視界で確認すると、そこには――。
魔王から飛んできた、鋭くとがった氷塊を心臓に受けた、私よりも広い背中があった。
こんな場所にあるのは、どう考えてもただ一人の背中で――。
「クラ、イス…………?」
そう、恐る恐る声を掛けると、彼は肩越しに私を振り返って微笑んだ。
その口元からは、とめどなく溢れる紅いモノ――。
それから目が離せないでいると、クライスは頽れる様にその場に膝を着き、次いで横に倒れた。
「い、い…………いやぁああぁあぁぁぁ……っ!!!!」
私は戦闘中という事も忘れて、クライスへと駆けよる。
「クライス、クライス、クライス……っ!!
いやっ、しっかりしてっ!!
起きて、クライスっ!!」
「……ッゲホッ!
……こ、ら…………戦闘中は、気を、抜く……な……。
俺、は……良いから…………早く、魔、王を……!」
「いやっ、いやっ!!
クライス、クライス、クライス、クライスっ!!」
「ば、か……泣い、てる…………場、合……か……ゲホッ!」
クライスは時折血を吐きながら、私に戦えという。
それを私は、首を左右に振って拒否する。
ああ、こんなことならクライスだけ帰らせておくべきだったと、後悔しながら。
「……サ、シ……ナラ…………戦え……!
お、前の……生きて、きた、証を…………残、すん、だ……ろ……?」
彼の言葉を聞いて、私はハッとする。
そうだ、私は戦わなくちゃ。
世界を、救わなくちゃ、いけないんだ……。
私の表情を見て、きっと苦しいはずなのに、クライスは嬉しそうに微笑んだ。
「そ、だ……戦、え…………。」
クライスの言葉に、私は励まされて頷いた。
それを見て、クライスは凄く幸せそうに微笑んだ。
「……次、は…………ずっ、と…………い、しょ………………。」
彼はそう言って、私の頬を優しく撫で、最後の力が尽きたように腕を落とした。
泣いてる場合じゃない。
私は、戦わなくちゃ……!!
再び魔王に対峙する。
魔王は、横たわっているクライスを見て、ニタリと卑下た笑みを寄こしてきた。
必ず、仕留める……!!
*****
私は、ついに魔王を倒した。
と同時に、何故か私の体が淡く輝き、塵となっていく。
次々にかけて行く手を見つめ、それから倒れて動かない愛しい人へと近づいた。
「クライス。
私、倒したよ?
世界を守って、自分が生きた証を残せたよ……。」
話しかけても反応はない。
「クライス……ねぇ、見てよ。
この世界、私が魔王を倒したら輝きだしたの。
綺麗でしょ?」
やはり、何も言わない。
「ねぇ、クライス……起きてよ。
ねぇ、クライス……私、消えちゃいそうなの。
貴方を置いて、消えちゃいそうなのよ……。」
彼は、動かない。
「クライス……私、世界に融け込みたくない。
私が死ななきゃいけないのならそれでもいい。
けど、貴方の傍から離れるのは……嫌だよぉ……っ!」
私は座り込み、そう言って、もう融けて無くなった手を彼の体に添え、そのまま倒れ伏した。
段々と、意識が混濁していく。
きっと頭の方も消えて行っているのだろう。
そう、他人事のように考えた。
どうして、私だったんだろう?
どうして――……?
時々書きたくなる、残酷色の入ったお話。
おもむろに2時間程で書いたので、表現がおかしい所もあるかもしれません。
何かありましたらお知らせください。