天使になんてなるはずがない!
日常の小話風しょうもない話。
いつも表面は良妻の猫を被っている心の中で毒舌・ツンデレな妻と、痛い過去を持っている厨二病再発疑い?な優しい(ヘタレ)夫の、半ギャグ?なお話。
終始彼女視点。
やや偏見的な物言いとキツイ言葉がウリの彼女ですので、不快に思う方もいらっしゃるかもしれません、十分にご注意ください。
時刻は夕方には遅い時間、夜には少し早い時間。
私が夕食の支度をしていると、突然、居間でテレビを見ていた夫が腰かけているソファーから、深刻な声音で声を掛けてきた。
「なぁ……。」
「ん~……?」
「…………………。」
「……?何ぃ~?」
私の料理を作りながらの適当な返事に、夫からの答えはない。
不審に思った私は、何だろう?と考えながら夕食の支度をキリの良い所で止め、彼のいる居間へと向かった。
するとそこには、楽しげなバラエティー番組の音をBGMに、大腿の上で手を組んで、ドヨ~ン……とした雰囲気の、何やら深刻な表情でソファーに座っている夫がいた。
「えぇっ!?どうしたのっ!?」
私が思わずギョッとして彼に近付き声を掛けるも、夫は何も答えず、相変わらず俯いた状態のままで……。
私の知らぬ所でよっぽどの、何か大事が起こったのだと、彼のすぐ傍の床に膝を着いて心配しつつ、彼の組まれた手に自分のそれを重ねて置いた。
すると夫はハッとして、今し方私がすぐ傍にいる事に気が付いたとばかりに見てきては、儚げな、無理やり作ったような笑顔を向けてきた。
本当に、深刻な何かが起こったのだろう、辛そうな彼の様子に胸が痛む。
一体、彼に何があったというのだろうか?
少しの間、私達は無言で見つめ合っていたが、やがて彼はその重い口をゆっくりと開いた。
「なぁ……。」
「何?」
「…………もしかしたら、俺…………。」
「うん。」
「……………………天使なのかもしれない。」
「…………………………………………はあ?」
私は思わず、驚きと呆れの混じった、かなり失礼だろうという声音で返事を返してしまった。
つい、いつもは隠している心の声が漏れてしまった……。
って、え?
どうしたんだろう?
突然、何言い始めるんだ、コイツ。
昔罹患していたらしい(この事は夫の友人から聞いた事があった)思春期特有?の病気――所謂厨二病が再発したのだろうか?
どうしよう……どうしたらいい?
冗談として笑い飛ばすか、それともこの場は私が大人になって冷静に彼の話を聞くべきか、それかふざけるな!心配したではないか!と怒るべきか……?
そう、私が頭の中で考えていると、夫は何も言わない私を置いて、またもや儚げな表情で言う。
「俺がもし天使で、君の傍から離れなくちゃならなくなったら……どうする?」
とりあえず、翼の折れたエンジェルにしてやんよ!と出かけた言葉を飲みこんで、自分の冷静さを取り戻すために心の中で深呼吸を繰り返す。
うん、さっきよか落ち着いたかな?
……さて、何と返すべきか?
ってか!
第一に、誰が天使だって?
お前か?有り得んだろ。
鏡見て言えよ。
いや、そんなことよりコンタクトの度が合っていないのかもしれない……。
うん、そうだ、きっとそうだ。
じゃなきゃ、こんな訳分からん事を突然言い始めるわきゃあない。
今度、眼科に連れて行こう、そうしよう。
さて、今はこの場をどう乗り切ろうか?
若干混乱しかけていた私がまたそんな事を考えていると、またまた夫が――。
「ごめん……。
君には本当に酷な事をしてしまうと思う。
結婚してまだ一年も経っていないのに……こんなことで、君を傷付けてしまう。」
「えっと……」
ってか、万が一、いや、億が一、いや無量大数が一天使だったらどうするつもりなんだ、お前?
天界にでも行く気か?
それとも異世界トリップする気か、この野郎!
しかも謝るってこたぁ、嫁である私を置いて行く気だろ?
「いや、本当にすまない。
驚かせてしまったな……。
もっと早くに気がついていれば、君を傷付ける事なく済んだかもしれないのに……。」
「いや、あの……」
「いいんだ、何も言わなくてもいい。
君の言いたい事は分かってる。
全部俺が悪いんだ、全部俺が……。」
って、話聞けよオイっ!!
本当、どうしよコイツ。
人の話も耳に入らなくなってきてる。
耳鼻科にも連れてかなきゃ!
いや、それよりまず私が耳掃除する方が先か?
コイツにさせるのは不安だし……。
うん、そうすべきだね!
早速この後しよう、そうしよう。
それでダメなら病院だ。
もちろん総合病院に連れて行こう。
眼科と耳鼻科と両方ある病院。
ああ、ついでに人間ドックとかもさせとこうかな?
あと、心療内科とかも通った方がいいかしら?
精神科はさすがにやりすぎだろうから、まずは心療内科からだよね?
うんうん、そうしよう!
よかった、解決した☆
…………………………一体、何がどうしてこうなったorz
「何でこうなったんだろう?」
つい、心の中の言葉が口をついて出てしまった……って、ああ、違った違った。
私が思ったのと同じような言葉を、夫が呟いただけだった。
良かった、ボロが出たんじゃなくて……。
ホッとしつつ、私はまたもや考える。
本当、どうしてこうなったんだ……。
ってか、私は何でこんな人と結婚したんだろう?
……いや、それは私が彼を好きになってしまったからどうしようもない事だわな。
この人しかいないって、この人じゃなきゃダメだって、自分から猛アピールしてったんだから……って、そんなのはまぁ良いや。
そんな事を考えてる場合じゃなかった。
とにかく、また話を聞いてもらえないかもしれないけど、とりあえずこうなった“自分、エンジェルかもしれない”発言の大元が何処からやってきたのか聞かなきゃ。
まずはそこからだろ、うん。
…………私、よっぽど混乱してたのね。
こんな初歩的な質問をし忘れてるなんて。
もう、私のおバカさん☆
って、キモっ!!
自分で言って(心の中でだが)おきながら、かなりキモかった。
ないわぁ~……27にもなってこれはないわぁ~…………。
っとと!
こんなこと考えてる場合じゃなかった!
……まだ混乱してるのかな?
それとも、よっぽど現実逃避したいのか?私。
「とりあえず、どうして貴方が“自分は天使かも”って思ったのか教えてくれない?
話が見えないから、私……。」
私はいつもの良妻の仮面で以って優しく彼に問いかける。
すると彼は悲しそうに苦笑しながら私に微笑んでくれた。
あ……今度は話聞いてくれた。
「そうだったな……。
なら、とりあえずこれを見てくれ。」
夫はそう言いながら、徐にTシャツを脱ぎ始めた。
って!オイオイ!
何始める気だ、この野郎!
まさか色が白いのが証拠だとか、変な痣とか見せてくるんじゃないだろうな?
けど、確かに色は白いが、あんたの体の何処にも痣なんて代物はなかったはずだぞ?
それとも何か?
私の知らない間に変な痣が浮き出たとか言うんじゃないだろうな?
ならそれを見てやろうじゃないか!
いつでもこいっ!!
……………………って、何だ?
何もないじゃないか。
痣なんざ浮き出ちゃいねぇじゃねぇか!
クソッ!期待して損したっ!!
……って、そうじゃない、そうじゃない。
「何も、ないけど……?」
「…………………………いや、肩甲骨と肩甲骨の間。
分からないなら触ってみてくれ……。」
………………あ。
ある。
アレがある。
触らずとも見るだけで確認できたが、いちおう好奇心で触ってもみる。
……うん、やっぱりある。
丁度、肩甲骨と肩甲骨の間に、直径5センチ程の小丘が。
「これが、どうかしたの?」
私がそう言うと、彼は少しだけ体をビクつかせ、次いで真っ直ぐに伸ばしていた背中を猫背に丸めた。
彼の今の表情は窺えない。
だって、私は今、彼の背後に居るんだから。
……何、考えてるんだろう?
「……分からないか?」
「……え?」
何が?
何の事だ?
私が小首を傾げると、それを察したのか――。
「分からないのか?
それが、一体何なのか……。」
「え?
……これは――」
「言わなくて良いっ!!」
突然大きな声で勢いよく言った彼に私は思わずビクついて、未だに触れていた彼の体から手を引っ込めた。
そうした反応をしたのは、驚いたのと、普段彼が発した事もない声が衝撃的だったのと……少しの、恐怖から。
そんな私を気にする余裕もないのか、夫は私に何かする事もなく……。
「言わなくて、良いんだ……。」
今にも泣きそうな声音でそう告げた。
……それほど、これが出来たのがショックだったんだろうか?
いや、でもこれは仕方なくない?
体質にもよるけど、できる人は出来ちゃうんだから。
……まぁ、多少なりとも夫の非もあるとは思うけど。
そう考えつつ、どうにか落ち込んだ様子の彼に慰めの言葉を告げようと口を開きかけたその時。
「言わなくとも、わかってる……仕方のない事なのも……。」
なんだ、分かってるのか。
なら、今度から気を付ければいいってだけじゃないか!
そう、口にしようとした時、夫の口からとんでもない、私の考えの斜め上どころかかなりのおかしな信じられない言葉が発せられた。
「いずれ…………そのでっぱりが大きくなって、そこから羽が生えてきて天使になってしまうってことくらい、わかってるんだ……。」
「…………………………………………はあっ!!!?」
私は思わず、いつもの猫を脱ぎ捨てていた。
え?何言ってんの、コイツ。
え…………?
ついに頭おかしくなった?
最近仕事詰めだったから、ついに頭に虫でも湧いた?
ヤバくない?え?
え?
何でそんな結論に至るの?
何があったの?
え?え?えぇっ!?
と、とりあえず正気に……!
何か近くに…………無いか。
クッションじゃ柔らかいし、えっと……水でもぶっ掛けて――いや、それより麺棒で頭叩くべき?
それとも先に病院に――いや、家から出すべきか?
いやいや……えっと………………………………?
本当、どうしよう……?
……とりあえず、夕飯の支度が途中だったわね。
………………終わらせちゃいましょう☆
私は特に彼に何も言わずに、夫の傍からスッと離れた。
そんな私をどう判断したのか、夫が必死に何度も私の名前を連呼する。
あまりにもしつこく五月蠅いので、私はそんな彼にクルッと振り返り――。
「今日の献立は、簡単に豚の生姜焼きと味噌汁にするね☆」
とても良い笑顔で言って、台所に立った。
そんな私の夫がオドオドした様子でうっとうしくも纏わり付く。
「ねぇ、突然どうしたの?
ねぇねぇ、何で俺の事無視するの?
何で俺、スルー!?」
まだまだ夫はうるさかったけど、私は全て聞こえないので、そんな夫を軽くかわしながら料理作りに励む。
とりあえず――。
それは脂肪腫だ!
よく洗えてなくて毛穴が詰まって出来る奴だ!
吹き出物だ、馬鹿野郎!!
そこから出てくるのは汚いゴミだ!
羽なんか生えてくるもんか!
ってか、むしろ生えろっ!
羽生やしてどっかに飛んでっちまえっ!!
したら私はもっと普通の人と再婚して、第二の幸せな人生を謳歌してやるわ!
その為に、今日から毎日お前の背中に羽が生えるよう念を送ってやる!!
生えろ生えろ生えろ生えろ……………………!!
あ~あっ!!
心配して損したっ!!!!
散々心の中で叫び倒した私は、自分の横で邪魔になっている未だにワーワー言っている夫を無りくやり退かして冷蔵庫に近付く。
そしてそこに貼られた自分と夫のシフト表を見比べる。
あ……明日、久しぶりに二人の休みが合ってるや。
しかたない……明日は形成外科のある皮膚科の病院受診だな。
その後、久しぶりに二人で出掛けよう。
主にショッピングだ。
最近、夫の服がかなり少ない事に気づいたから、買いに行かなくちゃ。
ああ、そうそう。
その前に今日のお風呂は、久しぶりに二人で入ろう。
そして、背中を重点的にあらってやろう。
うん、そうしようそうしよう。
明日が楽しみだなぁ~☆
無量大数は、数の単位の最大のものです。
一、十、百、千、万、億、兆、京、垓、杼、穣、溝、澗、正、載、極、恒河沙、阿僧祇、那由他、不可思議、無量大数←これのことです。
さて、やや?きつい彼女ですが、どうでしたか?
楽しんでもらえたら嬉しいです。
不快を感じていたら、本当に申し訳ありません。
そして、少し不安が……これって、まだ15禁ですよね?
違ったらすみません。
では、此処までお付き合いくださり、ありがとうございました。