一本さん(改)
一本は必ず蘇る。
時は流れて江戸時代、奈良の町に一体さんの生まれ変わりである一本さんという誠に訳の判らない壊滅的な名前の子供がおりました。一本さんは生まれたときから利口で歌もそこらへんの大人よりも遥かに上手かったので、周りからは気味悪がれていました。
一本さんが反抗期真っ盛りの十三歳になった頃、何千万円もする超高級な壺を粉砕してしまったので、家から追放されてしまい、奈良の町をうろついていました。
ある日、一体さんがある木造建築の周りを徘徊していると、一人の僧がやってきました。
「お前は一本じゃないか。こんなところで何をしているんだ」
「あぁン?!!俺は親父が三十年間こつこつ働いて苦労の末に買うことができた何千万円の壺を粉砕してやっただけなんだよ!!!それで追放されてここにいるんだ。なンか文句あっか!!!」
一本さんは僧を殴り倒し、東大寺という寺に土足でずかずかと入り込んでいきました。
進んでいくと大きな大仏が見えました。直進しようとすると、僧が五人出てきて、その中の親玉らしき人物は何も喋らず、ただボーっと突っ立っていました。やがて和尚様みたいな人が出てきて言いました。
「おいお前!ここは仏様が座す神聖な場所じゃ!土足ではいるとはヴぁチアタリなヤツじゃ!皆のもの、こいつをひっとらえろ!!」
一本さんは抵抗しましたが、所詮十三歳ごときが五人の大人に勝てるはずもなく、呆気なく捕えられてしまいました。
一本さんは寺にいつの間にか作られていた地下牢らしきところに閉じ込められてしまいました。
「フン、こんな牢屋、朝飯前だ。ここをこうして…、あれ、あれ?開かない」
当然牢屋の鍵は開くはずもなく、一本さんは潔く諦めました。
しばらくして、さっきの親玉がやってきました。
「お前は一本か。俺はこの寺を守るエリート僧侶のボスだ。お前、ここから出たいとは思わぬか?」
「早く出せ!」
「まあ、そう慌てずともよい。お前には、この寺で働いてもらう」
「お前に俺の行動を決められてたまるか、このクソヤロウ!!!」
「だーれがクソヤロウだ!もう許さぬ!お前はこれから寺の雑用係だ!」
一本さんは牢屋から出された代わりに、寺で働く事になりました。
*
「起きろ一本!ここでは四時起床だぞ!」
「うるせえ!誰が俺の起床時刻を決めていいといった!」
「逆らうと処刑するぞ!」
そう言われて朝から不機嫌だった一本さんは、僧たちの部屋の掃除を任せられました。
最初からやる気なんてあるはずもなかったので、始めは部屋の中の物を粉砕して回りましたが、だんだん飽きてきて、とうとう部屋を抜け出して和尚様の部屋に行きました。丁度和尚様は何処かへ出かけていて、部屋にはいませんでした。
「しめしめ。金目のものがたくさんあるぞ」
一本さんは部屋にあった高そうな皿を持ち出しました。そして寺をこっそり抜け出し、近くにあった池に皿を投げ捨ててしまいました。
一本さんは和尚様の部屋に戻り、超絶高そうな壺を三つ抱えて寺をこっそり抜け出し、近くにあった池の周りで跡形もなく破壊しました。壺のカケラは池に全て捨てました。
そして寺にもう一度戻り、僧達の部屋に小細工を施して帰りました。
和尚様が帰って来ると、まず最初に僧たちの部屋の点検に行きました。その部屋は隅々まできれいでした。
「一本!!お前は何をしたのじゃ!!!」
きれいな部屋を見て、和尚様は激怒しました。
「オメーが部屋の掃除をしろと言ったから、してやったんだよ!これできれいになったんだから、文句つけんな!」
一本さんは和尚様がいない間、部屋に爆弾を仕掛けて粉々に吹き飛ばしたのでした。
「ありゃ、僧どもは何処じゃ?まあよい。お前は牢獄行きじゃ」
一本さんが牢獄に連れて行かれる途中、僧たちが縛られて動けなくなっているのを和尚様が見つけました。
「和尚様、助けてください!一本のヤツが――」
「一本ー!!!!!おのれ、許さんぞ!!!!!」
僧の声は和尚様の怒声に掻き消され、一本さんは0.2瞬の隙をついて逃げ出しました。和尚様も後を追います。
一本さんは寺を抜け、走り続け、とうとう崖までやって来てしまいました。しかもそこは行き止まり。
「一本め、ここへ来たのが運の尽き。覚悟しろ!!!」
棒をもって打ちかかってくる和尚様をかわし、一本さんは和尚様の背中のツボを思い切り押しました。
「きく~~~~」
ですが、和尚様は気持ち良さげにして、あまり進みません。それどころか、パワーアップさせてしまいました。和尚様が素早く棒を振り、一本さんの足を払います。一本さんは転び、崖から転落してしまいました。
「グハハハハハ!!!くたばれ、一本!!!!!」
「うああああぁぁぁぁああぁあぁぁっ!!!!!」
一本さんは絶叫しながら落ちていきます。
グシャァ
和尚様の葬式が行われる日に、僧たちは皆殺しに遭いました。
「ぐふふ、ふはははははは!!!!」
一本さんは地獄のそこで笑っています。
「愚かな人間どもめ、おのれの罪の重さを知れっ!!!」
一本さんの手には、和尚様の持っていた棒がつかまれていました。それも、真っ二つになった棒が。
「俺は今日から二本だ」
二本も必ず蘇る。