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ぱらのいあ  作者: 楸由宇
第2章 死に関する三部作(及び他一編)
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鏡(習作〇一)

 貴方にとって私は何時かと尋ねると、貴方は赤だと答えた。

 では、貴方にとって私は何処かと尋ねると、貴方は弱いと答えた。

 しかし、吸いたくもない煙草が目の前にあったので一本取って火を付けた。

 再び貴方にとって私は何かと尋ねると、貴方はそうだと答えた。

 苦しかったので上着を着て、右手を差し出した。

 貴方は私が速いと言ってきかない。

 私は、紫煙に目を細め、夢の香りを嗅いだ。

 何時しか、宵の帳が下りてきた。


 人の心を確りと捉えることは難しい。

 貴方にとっての赤は私にとっての青。

 貴方にとっての白は私にとっての罪。

 有罪か無罪。

 宵闇か暁。

 彼は誰。

 私は何処にいるのか。

 私は何時からいるのか。

 私は誰。


 脆いだけの常識を右手に、

 悲しいだけの理性を左手に、

 貴方は生きていくだけだ。

 儚い夢の遺り香を楽しむことは悪なのか。

 力が全ての世の中は何時しか心の中に。

 狂おしい程愛おしい、

 狂わしい程煩わしい、

 感情の波は井戸の底。


 私は、貴方にとっての過去であり未来。

 私は、貴方にとっての此処であり彼方。

 私は、貴方にとっての貴方であり自身。

 吸いたくもない煙草は、煩わしい常識の象徴。

 目を細める紫煙は、見たくもない貴方の心の鑑。


 目を閉じ、夢に生きるのは罪。

 現し世は、夜の夢では無い。

 やっとの思いで手に入れた煙草は、とても硬かった。

 あまりの寒さに私は、血の滴る肉片を一切れ頬張る。

 あまりの震えに私は、上着を羽織り左手を差し出す。

 苦しい時は過ぎ、優しい時は貴方の隣に立っている。

 私は初めて貴方に問う。

 貴方にとって私は何時なのかと。


 左であると、貴方は答える。

 私は、哀しむ。

 何故、夜ではいけないのか。

 何故、良しと言ってはくれないのか。


 何れかの右手を取り、貴方は優しく口づける。

 両の腕を抱き上げ、炎の中へと投げ入れる。

 身を焦がす炎は、貴方の自信の瓦解。

 優しい口づけは、何も救ってくれない。

 優しい口づけは、只一時の気休め。

 身を焦がす炎だけが、真実の痛み。


 井戸の底から見上げる貴方は、何を見るか。

 蒼い空か白い雲か輝く太陽か煌めく星か仄かな月か。

 暗く冷たい地の底から貴方は何を見つめるのか。

 人の英知か繁栄か堕落か崩壊か。


 鏡に向かい私は問う。

 貴方は私にとって何れかと。

 私は夢の中。

 鏡の中の私は、貴方。

 私は、貴方。

 ワインを一口、口に含む。


 私が立っているのはどちら側。

 夢の中の鏡の向こう。

 夢を見続けるのは本当に罪なのだろうか。


 永遠の闇。

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