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ぱらのいあ  作者: 楸由宇
第2章 死に関する三部作(及び他一編)
7/24

死体

最近何も楽しいことが無いとぼやいている貴方へ


 丁度十二時間前のことだよ。僕は自宅の電話で自分の訃報を聞かされたんだ。最初は自分の耳を疑ったし、電話をしてきた警察官だって驚いていた。だって、普通はあり得ないことじゃ無い?自分が自分の訃報を聞かされるなんて。

 だから、急いで飛んでいったよ、自分の死体があるっていう病院まで。

 病院に着いてまたびっくりしたね。だって、自分がそこで死んだ様に眠っているんだもの。いや、死んでいるからその表現は正確じゃ無い。眠ったように死んでいるだ。まあ、今となってはどっちでもいいことなんだけど。

 そこで、困ってしまった。だって、どう見たってそこで死んでいるのは自分以外にあり得ないからね。指紋も歯形も身長も体重も何から何まで一緒なんだ。だって自分自身何だから、当たり前だよね。双子や兄弟はいないのかって聞かれたけど、知っている限りそんなものは聞いたことが無いって答えてやった。で、わざわざ母親に電話までしたけど、事態を増々ヤヤコシクするだけだった。あれは失敗だったね。

 本人が電話しているのに、息子が死んだって大騒ぎしているんだ。本人の目の前でだよ。これも正確じゃ無いね。電話の前でだ。なんとか落ち着かせて、状況を説明して病院まで来てもらおうと思ったんだけど、物凄く骨の折れる仕事だったよ。

 なんとかタクシーに乗って来ることになったら、自分の死体が見つかった経緯を聞くことを忘れていたって思って後ろで人の会話を聞いてクスクス笑っている警察官に聞いたんだ。この死体は何処にあったんですかって。すると警察官は自分は知らないと言い出すんだ。病院から連絡が来ただけだと。そこで、警察に電話をした人を探して死体は何処にあったのかと聞いてみたら、本人(死んだほうね)が自分でやって来たと答えたんだ。外来の待ち合い室で突然苦しみだしたと思ったら、死んじゃったってね。何となくその言い方がおかしくて、警察官と二人で大笑いしちゃった。人が一人死んでいるのにね。でも、死んだはずの本人(生きているほうね)がここにいるんだから、全然緊迫感ていうか悲壮感ていうかそういうの無かったのね。で、その死体が免許証を持っていたから誰か分かったって言ってた。でも、僕も免許証を持っているんだ。だって、病院まで車で来たからね。そして、死体が持っていた免許証を見せてもらおうとしたら、死体の持っていた免許証が見当たらないんだ。みんなで変だ変だと騒ぎながら探したけど、結局見つからずじまい。他にも死体が持っていた物がみんな見当たらないって、病院の職員が言い出したから、さあ大変。

 あわや騒ぎが病院中へ広がるってところで、やっと母親の登場。母親は到着するなり、死体に取り付きオイオイ泣き出す始末。そして、やっと落ち着き、僕の顔を見るなり、あら元気そうじゃないだって。一体母親の頭の中はどうなっているんだろうって、きっとその場にいたみんなは思ったね。あの切り替えの速さはただものじゃなかったね。

 結局、母親と警察官と病院職員と僕とでてんやわんやしているうちに死体も消えてなくなった。出入り口が一つしか無い病室で入り口前で4人で騒いでいたのに消えて無くなった。勿論、窓はしっかり閉まっていたし、部屋は2階だし、窓のすぐ下は大通りで人通りも激しいから何かあったすぐ分かるはずだった。誰かが部屋に入って出ていったはずもないから、ス時どうやって消えてしまったのか全く分からない。

 死体の筈の本人(僕)はピンピンしてここにいるし、事件にしようとも全く証拠になりそうな物が残ってなかった。残ったのは、狐につままれたような4人の顔とタクシーの領収書だけだった。


 これが、丁度十二時間前に体験した不思議な出来事さ。それからどうしたって?

 特に何もなかったよ。夕飯食べて、早めに寝たさ。何か疲れたからね。

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