不幸
これは、ある不幸な男の物語。
あるところに、とっても唇の好きな大学生が住んでいました。彼は、人を唇で判断します。人の顔をちゃんと見てはいるのですが、あまり覚えていません。覚えているのはその人の唇が何色だったか、どんな形でどのくらいの大きさだったかなど、本当に唇のことしかその人について覚えていません。それでも彼は大学生になるまで人を間違えたことがありませんでした。
ある日、彼は、街を歩いていました。ただ、あてもなく人の唇を眺めながら散歩をしていたのです。昼食も食べ終わりそろそろ帰ろうという頃、ついに彼は見つけました。自分の理想の唇を持った人を。彼の夢は、理想の唇を持った女性を自分の奥さんにすることでした。彼は、狂喜しました。今まで二十数年間探し続けていた理想の唇をついに見つけたのです。彼はその人を見失わないようにつけていきました。今は、声をかけることができなくてもせめてその人について何か知りたいと思ったのです。彼は、その人について電車に乗り込みました。
彼は、電車に乗っている間ずっとその人の唇を見詰めていました。彼はその人の唇を見ているだけで幸せでした。一時間も乗っていたでしょうか、その人は小さな駅で降りました。彼も見失わないように急いで電車を降ります。 駅から出たらまたばれないようにこっそりを後をつけていきます。その人はスーパーに入っていきました。彼も中へ入ります。その人はトイレへ入っていくところでした。
そこで彼は気がつきました。その人が「男子トイレ」へ入っていったことに。そう、彼の理想の唇の持ち主は男性だったのです。彼はとてもショックを受けました。更に、もう一つ重大なことに気がついたのです。自分のまったく知らない土地へ来てしまったことに。彼は、困ってしまいました。更に悪いことに財布も落としてしまったようです。まさに踏んだり蹴ったりでした。その後彼がどうなったかは知りませんが、まだ懲りずに理想の唇を追いかけているのでしょうか?
あなたはそんなことしませんよね?