雨
昨日から降り続いている雨音がふと聞こえなくなった。私は、カーテンを開けて外を見た。少し曇った窓ガラスの向こう側は明るい空が広がっていた。私は、窓を開けて外の空気を部屋に入れた。冷たい空気が淀んだ部屋の中の空気を洗ってくれるようだった。一晩中、雨の音を聞きながら悩んでいたことがとてもくだらなく思えた。さっきまでの雨がうそのように空は青く晴れ渡っているので、私は外を歩くことに決めた。はきなれたLevi'sと、白いHanesのTシャツを着て私はドアを開け部屋を出た。玄関から出ると外は明るかった。
いつも大学に行く道をゆっくりと歩きながら、私はこんなにいい天気の日曜は、しばらくなかったことに気が付いた。見慣れた山の上を流れていく白い雲をぼんやりと眺めながら、私は昨夜のことを思い出していた。川を通りすぎたとき、私は昔の友人を川岸の向こうに見かけた。彼は、私に気付き手を振ってきた。彼は昔の私しか知らない。今の私や、私がやってきたことを知らない。それらを知れば彼はどう思うだろう。そんなことを考えながら、私は彼に向かって大きく手を振った。
私が初めて手を下したのは、ちょうど一年前だった。相手は、昔から嫌いだった中学時代に同級生だった男だ。チャンスはふとしたときに転がり込んでくる。階段から落ちた奴は、呆気なく死んでしまった。不思議と感想はなく、ただすっきりした気分だった。あれから一年、私の嫌いな奴は皆、私の前から姿を消していった。私にいつも暴力をふるっていた高校時代の担任、近所の口うるさい主婦、うっとうしくなってきていたあいつ。人が私の周りで死んでも、誰も私を疑わなかった。私は、自分が疑われないことを知っていた。誰も変わってしまった私を知らなかったし、私は変わってしまった自分を人に知られるようなことはしなかった。私はいつも人に見られている自分を理解し、周りに望まれる自分を演じてきた。今まで、失敗したことはないし、これからも無いだろう。
私は何も間違ったことはしていない。邪魔になった人達を私の前から消してきただけだ。たとえ、それが昨日まで両親であったとしても。私は、明るい太陽の下を歩いているうちに、悩んでいたことがばからしくなった。何を悩んでいたのか不思議になった。ただ、彼等と私は、血がつながっていただけなのだ。そう思うと気が楽になった。私は立ち止まり空を見上げた。きれいな青空だった。そして、私は昨日まで両親だった死体の待っている家へと足を向け、再び歩き出した。