偶然
空男は、偶然入った喫茶店で大学時代の友人に会った。空男は大学時代、彼女のことを好きだった。彼女も自分を好きだったかもしれないと思っていたが、結局何もないまま、大学を卒業して、離ればなれになった。懐かしさと、少しの嬉しさで、空男はちょっぴり饒舌になった。卒業式の日、別れ際の何か言いたげだった彼女の顔を思い出した。
海子は、意を決して彼が入った喫茶店のドアを開けた。大学時代から好きだった彼のことは、友人達を通して情報を集めていた。相手も好意を持っていたことを知っているし、この二年間恋人がいなかったことも知っている。再開する機会をずっと窺っていた海子は最後のチャンスだと思って、空男に会うことにした。友人のと約束が急にキャンセルになったため一人で歩いているとき、彼を見かけたからだった。偶然を装って海子は彼に話しかけた。
大地は、大学時代の友人から結婚の知らせを受け取った。相手も大学時代の友人だった。大地は恋人の話を思い出した。彼の恋人も大学時代から二人のことを知っていた。大地の恋人、星子と海子は友人だった。ある日、海子と待ち合わせていた星子は待ち合わせ場所の近くで空男を見かけたらしい。海子の気持ちを知っていた星子は二人が出会えることを願って待ち合わせをキャンセルした。星子の願いが通じて、二人は出会えたのだろう。
大地は、この結婚は偶然だったのか、必然だったのかと考えた。
人間は「偶然」という言葉が好きなのだと思う。本当は、偶然なんて無いのに、偶然だと思いこみたいのかもしれない。この世界では、起こることは起こるし、起こらないことは起こらない。だから、偶然は「偶然」起こったのではなく、起こるべくして起こったのだ。
つまり、「偶然」=「必然」。
「偶然」起こったのか、「必然」的に起こったのかは、受け取る人次第だと思う。
でも、一つだけ「偶然」起こったことは、僕がこの世に生まれてきたことだろう。