20/24
「月」
右手に大きな満月が見える。明るい月の光を浴びながら私は歩き続ける。もうかなり長い間歩き続けている気がする。一ヶ月か、二ヶ月か。もっと長いかもしれない。休むことなく歩き続けていることが私に一つの事実を突きつける。
思い出したくない光景。
まだ認めたくない事実。
それでも、いつかこうなることはわかっていた。
私は事実を受け入れる代わりに逃げ出すことを選んだ。いつかは受け入れなくてはならないと心のどこかでは思っている。でも、まだ受け入れられなかった。
それを認めたら自分が壊れてしまいそうだった。
右にあった月もだいぶ沈んでしまった。やはり休もう。太陽が昇ってきたら。
長い間歩き続けた。そろそろ休んでもいい頃かもしれない。
身体はとっくに無いから、ほとんど疲れてはいないけど。
自分の死を受け入れなければまだしばらく歩き続けられるだろう。
そろそろ、左に太陽が見えてくるだろう。少し休んだら、また歩き出そう。
まだ迎えは来ないだろう、自分の死を受け入れなければ。
(420文字)